第四二話 流れる歴史
この中国地方旅行も三日目だわ。日が経つのは相変わらず早いわね。
そんな事より、昨日、吃驚しちゃったわ。蓮子、昼間の空でも星が見えるようになったんだってぇ! リニアの中で言ってたわ。より気持ち悪くなったわね、蓮子。まさか、時計少女? 元からだけど。
そんな事より、私達はホテルから出て原爆ドームに行く前に、まずは平和記念公園に行ったわ。
「着いたね。まずは……平和の灯と原爆ドームが一緒に見れる、原爆死没者慰霊碑からだね」
「平和の灯は一九六四年に火を着けてから、そのまま消えた事がないみたいよ」
核兵器がこの世から消え去るまで燃え続けるみたい。まぁ、消すことは永遠に無理ね。
「ふーん、一九六四年と言えば……昭和三九年だね」
ずばり、当たってるわ。流石、賢い蓮子。
「よく分かったわね。何でよ」
「ガイドブックに書いてたから」
……賢いなんて言った私が馬鹿だったわ。言葉が出ないわ。
「なるほどね。だからすらすら答えられるわけね」
「着いたよ。へー、確かに見えるね」
「ちょ、また無視って……え、ええ。そうね」
原爆死没者慰霊碑はトンネル状になっていて、そこから覗くと平和の灯と原爆ドームが見えるの。
でも、平和の灯って雨の日はどうなっているのかしら? 消えるのかしら?
「覗いた灯はただの火。雨が降れば消えてしまうんだね」
「意外に消えなかったりしてね」
「謎の結界に守られる灯、かな?」
「それとも、ただの雨避け?」
「傘指すの? 燃えちゃうよ」
「頭大丈夫? 屋根よ、屋根」
「冗談だって」
全く……呆れたわ。蓮子の冗談は本当に呆れるわ。
「さて……平和の鐘を鳴らしに行きましょ」
「この平和が訪れないだろう世界に平和を願ってね」
「平和が来ないなら鳴らず必要が━━」
「変なとこ突っ込まなーい。はい、行きましょー」
むっか。人が言っているところを挟まないでよ。むかついてここで説教してもいいくらいよ。しないけど。何でか?めんどくさいから。
そんな事は置いといて。私達は平和の鐘のもとへと行った。
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蓮が沢山ある所だったわ。伸びすぎかとも思ったわ。
取り敢えず、平和を願い、鐘を鳴らした。
何故かしら。あの鐘を鳴らした時、人々の泣き声が聞こえたわ。蓮子に言ってみたけど、蓮子は聞こえなかったって。でも、私には聞こえたわ。ここがまだ平和になれていないからかしら? 平和になったら、あの声は愉快な笑い声になるでしょうね。
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私達は原爆の子の像の所に居たわ。見上げると、一人の少女が天に折鶴を捧げているわ。
像の近くには何処かの誰かが折った、沢山の千羽鶴。昔の方が数が多かったけど、だんだん平和を願って折る人は少なくなったみたい。もう日本は平和になった気でいるものね。
「私達も今度行く時のために千羽鶴折る?」
「私は折鶴を作った事がないわ」
私は海外からの留学生だもの。折紙の存在もしらなかったわ。
「私は知ってるから大丈夫だよ。簡単だから教えてあげる」
「……五百羽鶴に出来ないかしら?」
「なんか微妙だね……数が。千羽折ろうよ! 千羽」
千羽って……どれだけの数か知ってるの? お金だと一枚だけど……取り敢えず大変よ、きっと。
「……また来る時にね」
そんな会話があったりなかったり。
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私達は入口付近にあった平和記念資料館に行ったわ。
なんか今回の話は場面が変わりすぎね。話が長くなってなきゃいいけど。
中は外の暑さよりも涼しかったわ。人もそこそこにいるから、冷房がんがんね。
「わー、凄いグロテスクゥ……」
目の前は、ぼろぼろの服、血が体中にまとわり付いている。ちょっと表現したくない子供の姿。蓮子の言う通り、グロテスク。
「昔がこんな感じになったって思うと……嫌ね」
「落ちてこないといいけどねー」
「落ちてきたらただじゃ済まないわよ」
大惨事どころじゃないわ。もっと酷いわよ。考えるだけでも嫌だわ。
「だけど、原爆ドームもよく形が残ったよね。こんなにもしたっていうのに」
「ほんとよねー」
あれっ? 私、だんだん返事が雑になってきた? あら、大変。
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まぁ、多分あれから三十分後ね。まだ資料館の中よ。
私達はテレビと向かい合い、原爆経験者のビデオを見てたわ。
「こういう人が居なくなっていくって思うと、歴史の流れを感じるよね」
「ええ、そうね。私達は歴史に刻まれるような人物になれるかしら?」
テレビに映って話をしている経験者は、ずっと前に生きていた人。歴史に刻まれているっていうのと同じかなって思って言ってみたわ。
「私達が結界暴きをしているって周りが知ったら、刻まれるかもね」
「確かに……」
今は結界暴きは禁止されているものだから、多分歴史に刻まれるだろうけど、もっと……いい感じに残せれないのかしら? 例えば、ギネス世界新記録とか。
実際、原爆ドームだってユネスコの世界文化遺産で名を残しているじゃない。
「知られたくないけどね。謎は謎のままがいいし」
「その謎を解明しようとしている私が言える事じゃないわよ、蓮子」
「そうだね。あははは!」
蓮子は平和の子供のように、愉快に笑った。
私達はいずれにせよ、歴史に刻まれるわよ。一人の人物としてね。ただ、その歴史が広まらないだけね。
歴史は今でも築き上げているわ。貴方がこれを読んでいる間もね。そして、その歴史の築きは止まらずに流れているの。貴方が息を引き取った後も、地球が死んだ後も、宇宙が亡くなった後も……ずっと、歴史は流れているのよ。広まらないだけでね。
何故私は、こんなにシリアスにしたがるのか……。
次回をお楽しみに。