第三五話 宇宙の端
私達は何処まで進むのかしら?
太陽系を包む銀河を通りすぎた後、私達はずっと同じ景色を見ている感じだった。前にもこんな感じのを見た事がある気がするわ。あの時は確か……夢の中に出てきた竹林で走っていた時だったかしら?
「ねぇ、蓮子。私達このまま飢え死になのかしら?」
「進んでたらどうにかなるって」
どうかしらね。宇宙は限りなく続くものなのよ。私が外に出る結界を見つけない限り、この宇宙でずっと漂う事になるのよ。大丈夫かしら? 蓮子。
「進むって……何処まで?」
「戻る結界を見つけるまでだよ」
頭が良くて頭が悪いってのは、まさにこの事よ。
「あのね、蓮子。宇宙は凄く広い事くらい知ってるでしょ? そんな宇宙で''戻る結界''って言っても、どうやって見つけるのよ」
「あー……」
考えていない人がいつもこうなるのよ。読者の皆も気を付けてね、私からの忠告よ。
そんな私達の目の前には、一つの銀河があった。
「おっきいわね。絵とかで見ると小さいものなのにね……こんなに大きいとは思わなかったわ」
「これは太陽系を囲っている銀河と同じ、棒渦巻銀河だね。本当に……メリーの言う通りだよ」
銀河の中心であるバルジが凄く眩しく、青白く輝いているわ。とても心を奪われる景色だわ。宇宙って何でこんな思いにさせるのかしら?
「とても……綺麗ね」
「そうだね……さて、行こうか。メリー」
「ええ」
私達は先へ進んだ。さっきまでむかむかしてた気持ちも、全て失われた。宇宙は凄いわね。
いろんな話をしながら進んだわ。
星の一生、そしてその一生の終える瞬間。何回か出会せたブラックホールの生まれ方。流星群のでき方……。
蓮子は色々知ってたわ。専攻を天文学に変えたらどうかしら?その事を言ってみたんだけど━━
「ただの興味だから」
ってさ。興味なら仕方ないか。
━━━━
「おっと?」
蓮子が言ったわ。
目の前には白い空間。不思議な感じね。だって、宇宙空間がばっさりと途切れているんだもの。
そう、私達はとうとう来ちゃったんだわ。
━━ここが宇宙の端なのね。
見て、すぐに分かるわ。分かりやすすぎる。
「どうする? 蓮子」
相棒の答えはすぐに出た。
「勿論行くよ! 不思議な事を見つけ、探るのが私達なんでしょ?」
「そうね。私達は''秘封倶楽部''だものね」
私達は一歩踏み出した。すると、今まで軽かった体が急に沈んだ。
「うぉ……重力があるんだ」
読者の皆も見た事があるかもしれない。宇宙飛行士が地球に着陸した時、自分は立てなくて人々に支えられているのを。あれは浮いていた空間に慣れてしまった時に起こるものよ。無重力に慣れて、それが急に重力のある空間になったら人は体が支えられなくなるのよ。
でも私達はすぐに慣れちゃったわ。不思議ね。
「この旅も本当に終わるのかしら?」
「そうかもね。メリー、あれを見て」
私は蓮子の指さした方を見たわ。そこには黒い裂目。確かにあの開きの大きさなら蓮子にも見えるかもしれないわね。
「私、もう疲れたわ。行きましょ、蓮子」
「そうだね。私もだよ」
色々あったわ。
太陽の核で三本足の烏に会って、水星で間近のクレーターを見て、金星で青い地球を眺めて、月で月面裏の都を巡って、火星で不思議な木を見つけて、木星で雷に晒されて、土星の冷たさを感じ、天王星で天を見つめて、海王星から見た星の海に心踊らされ、惑星に認められなかった冥王星の光を通りすぎて、やっとここまできたわ。正直、信じられないわ。戻って、この頭を一旦整理しよう。そして夢じゃない事を認めて、大事に仕舞いましょう。
「じゃあ、行きましょうか」
私達は黒い裂目の中に入っていった。
それを待っていたかのように、裂目はゆっくり閉ざした。




