第三〇話 月面裏の都
「侵入者をつれて参りました」
私達の目の前にいるうさ耳人間がお屋敷の襖の奥に向かってそう言った。
「自分の仕事をしなさい」
「分かりました」
襖の奥から声が聞こえて、うさ耳人間は立ち去った。
暫くぼーっと襖を見ていたら奥から、またあの声が聞こえた。
「早く入りなさい」
「えっ、あっ、はい」
私は声に従い、襖を開けて部屋に入った。なんだか平安貴族の住みそうな都だったけど本当にそんな気がする。だって凄いもん。中、綺麗すぎ。
「さて、最初に聞きますが、何故人間がここに来れるのですか?」
私達の目の前には金髪の白い帽子を被っている人がいた。こんなお屋敷に住んでいるんだから凄く偉い人なのかな?
そんな偉いっぽい人は当たりの前質問をしてきた。だって空気が必要な人間が酸素すらない地球の外に居るんだもん。偉い人だとしても、するのも当たり前だね。
「それは……かくかくしかじか……なんですよ」
私だって説明するのめんどくさいんだよ。だから''かくかくしかじか''を毎回繰り返すんだよ。最近''かくかくしかじか''の量多くない? 気のせいか。
「なるほどね。金鳥……」
「どうしたのですか?」
豊姫が''金鳥''の言葉を聞いて少し躓いた。何かあるのかな?
「いえ、何でもないですわ。そんな事より、貴女達は宇宙観光の寄り道に月に来たのね。ようこそ月面裏の都へ。私の名は綿月豊姫です」
綿月……豊姫? ふーん。なんか凄そうな名前。
「お姉様。さっさと殺ればいいのに、何故生かすのですか」
奥から聞いた事ない声が聞こえた。丁寧な言い方だったけど、ちょっと強気な声だった。その声の持ち主はすぐに分かった。
銀髪のポニーテール。服装は金髪の人と似ているから姉妹なのかな?
「まぁまぁ、悪い事してないのに殺っちゃうのは可哀想よ」
さっきから''やっちゃう''がいけない言葉に聞こえるのは気のせい? ちょっと怖いよ、二人とも。
「まぁ、そうですね。あとここで殺るのもアレですしね。私は綿月依姫です。宜しく」
綿月……依姫。やっぱり姉妹だったんだ。
そういえば、どっちが姉でどっちが妹だろう? あっ、でもそうか。依姫は豊姫の事を''お姉様''って言ったから、こっちが妹で豊姫の方が姉か。
「そういえば貴女達、月の石を拾ったわね。本当はいけない事だけど、あげるわ」
「ほんと? やった!」
どうやらさっき拾った石は取っちゃいけないみたいだけど、貰えちゃった!
「後、折角来たのだからこの都を案内させましょう。担当は……あの子でいいかしら。レイセン、レイセン!」
豊姫は''レイセン''という人を呼んだ。すると私達が入ってきた場所から、さっきとは違ううさ耳人間が入ってきた。
「何の御用でしょうか? 豊姫様」
「……(出たっ、うさ耳人間……)」
私の声が聞こえたのか、少しぴくっと反応してこちらを見た。
「月の住民は玉兎もいますが……というより、彼女達は何者ですか?」
ぎょくと? ''玉''に''兎''って書くんだっけ?違うかな?
「あの方達の月の都の案内を頼むわ」
「人間? ……分かりました」
「そういえば、貴女達、名前は?」
依姫が私達に向かって尋ねた。
「あっ、私の名前は宇佐見蓮子です」
「私はマエリベリー・ハーンです」
「そう。宜しく、蓮子さん、マエリベリーさん」
マエリベリーの発音が出来るんだ。そういえば今更だけど、竺紗も出来たっけ。
「じゃ、案内宜しくねー。レイセン。丁重に案内するのよ」
「はい、分かりました、豊姫様。私はレイセンです。月の都の案内をします。行きましょう」
「は、はい」
私達は玉兎レイセンの後について行った。
「楽しみね、蓮子」
「月面裏の都かー。早く見てみたい!」
そして私達はお屋敷を後にし、月の都観光を楽しんだ。
儚月抄では宇宙には空気がある設定ですが、蓮子達はそれを知らないので勘違いをしている事が分かりますね。
そしてまた本音です。
こういうのもたまにはいいじゃないですか?




