第三話 山田幸
中学卒業式一ヶ月前━━
この世界にまだ今の倍以上の天然植物が残っていた頃。この頃の私はまだ山田幸という名前で髪も綺麗な黒だったの。小さい頃から患っていた重い病に悩まされてあれこれとあり、今は中学三年生。あれからもう八年以上は経っている。先生によると余命はあと一年持つかどうか、とのことらしい。
私がまだ点滴の針を右腕に射し込んだ状態でベットで寝転がっている中、病室の外は何だか騒がしい。早くしろとか命に関わっているのだぞとか、いろいろ。
「由梨先生……今日も手術なのですか?」
私はいつも近くにいてくれる由梨先生に怯えながら尋ねた。
「すぐに終わるから大丈夫よ」
しかしそれは嘘だとすぐに分かった。何故なら今までの経験上、すぐに終わった手術など一度もなかったからだ。でも、いつも病弱な私を心配してくれている先生だからこそ、つい本音を隠してしまう。
「そう……よかった。早く学校に行きたいな。もうすぐ卒業式だし」
「そうかーもうそんな季節かー。幸ちゃんもおっきくなったわね」
「うん……」
その言葉は嬉しくなかった。もう余命まで近いのに、これ以上成長しちゃうと私……。
いや、そんなことを考えてはダメと自分に言い聞かせる。今は目の前にある手術のことを考えないと、失敗したら元も子もない。それほど手術には強い勇気が必要なのだ。
私の体は無性に震えていた。今までうんざりな程やってきた手術だけど、これだけは慣れない。そんな私に由梨先生は春風のような優しい言葉で言う。
「これで最後だから、大丈夫よ」
「本当ですか?」
「ええ、勿論よ」
いやでも、何かおかしい。優しい言葉なのに、何か余計なものが混ざっている気がした。
「よかった……」
だけど、私は思っていることを悟られないように、由梨先生に安心をしていると思わせるように言った。そのとき、ガシャーンと何かが倒れる音がした。
「何があったのかしら。ちょっと見てくるね!」
由梨先生は音が鳴った方向へ走って行った。
暫く待っていると由梨先生は酷く落ち込んで帰ってきた。
「どうしたのですか?」
由梨先生は目を伏せて悲しそうに答えた。
「さっきの音は手術に必要なものの殆どが床に落ちた音なの。しかも消灯時間が近いところだから手術は明日になったわ」
「そうですか」
「……じゃあ夕飯を持って行きますね」
由梨先生は私を置いて夕飯を取りに行った。窓からは紅い夕陽が沈んでいるのが見える。幻想的な光が私の顔を紅くそめる。そんな夕陽を見つめて幻想に取り込まれていくと、由梨先生が夕飯を持って帰ってきた。私は強制的に現実に引き戻された。
「はい。お待たせ」
「いつもありがとうございます」
「いいえ」
私はいつもの暗い顔でお礼を言うが、由梨先生はどんなに私が暗い顔をしても、いつも笑顔で返してくれた。
いつもは由梨先生の笑顔を見ていると、自然と夕飯が美味しく感じる。けど今日はそれほどではない。やっぱり何か、余計なものが混ざっている。
ちょっと嫌な顔をしていると、由梨先生が私のことを心配したのか話しかけてくれた。
「味、大丈夫?」
今まで黙っていたので少し吃驚したけど何とか答える。
「は、はい」
「ならよかったわ」
そのとき由梨先生は奇妙な笑いを起こした。とても嬉しそうな笑い……。
私は夕飯を食べ終わり、消灯時間。いきなり体の調子が狂ってきた。辺りは真っ暗で何も見えない。本当は消灯時間前に寝付くはずなのに眠れない。
そんなときに、正面の壁に''何か''が動いていた。その''何か''はこっちに向かってくる。
━━いやっ……こ、来ないでっ!
そんなことを言っても''何か''は止まらなかった。
━━━━
「で、その後どうなったの?」
蓮子が体を乗り出して言う。
「言わなくたって、黙っていれば話してくれるわよ」
「はーい」
「えっと……続けますね」
こうは話を続け始める前に一つ息をついた。
未来の病院ではよっぽどの事がないかぎり、消灯時間以降の手術は受けられないそうです。
何故でしょうかね?