第二六話 サンバイザーは不要
「こ、ここって……」
「蓮子、夢より確かなんだけど……本物?」
真っ暗な世界に白、青、黄、赤と色んな色の光が浮かんでいる。たまに石が降ってくる。
「メリー、ほ、本物だよ。星が言っている。今……六時三十四……三十五分になった事」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
私の声が広い空間の中響き渡る。あの境目を抜けたら宇宙に来ちゃったみたい。行ってみたいとは思っていたけど、まさかあんな方法で行けるとは思わなかったわ。
「もしそうなら、なんで私達ここに居る事が出来るのよ!?」
「知らないけど……折角来たんだから私も……ほらっ」
蓮子は左の方を見た。私もつられて見てみると思わず目を見開いてしまった。そこには地球に昼を与えてくれる星、太陽があった。
「でかぁ……」
中高年の太陽。もう余命まで五十億年ね。太陽が爆発したら地球はどうなるのかしら。その前に水の蒸発が先かしら?
ともかく、太陽はとてつもなく大きかったわ。なのに━━
「暑くないって不思議ね」
「それは私達が今酸素無しで宇宙に居る事と同じなんじゃない?」
「そりゃあそうでしょうね」
私達は暫く黙った。偉大で不思議な太陽を見ながらね。
「太陽って言ったら三本足の烏だよね」
ただ太陽を見ていたら、急に蓮子が言ったわ。
「天照じゃなくて?」
「天照大神は元はと言えば自然神なんだよ」
「太陽だって自然じゃない」
「そうだけどっ……もうっ、取り合えず聞いて?」
「聞いているわよ」
━━━━
昔、ずっと昔だよ? 多分メリーが予想している以上の昔。空に十個の太陽が出てきたんだ。その暑さが堪らなくていよいよ、人々は地下に住む生活を送ったんだよ。
しかし、ある時に中国の弓矢の達人が上の人の命令で太陽を射る事になったんだ。その弓矢の達人は見事に十個の太陽の内、九個を仕留めたんだ。そして仕留めた太陽をよくよく見ると、三本足の烏がいたんだ。
残った一個は怯えて西の彼方へと消えたんだ。そのあと沢山の動物達が消えた太陽を呼び寄せるために一生懸命に鳴いたんだ。でも、いくら動物達が鳴いても太陽は出てこなかったんだ。
暫くして動物達が鳴かなくなって静かになったら、朝の時間になったんだ。すると一匹の鶏が出てきてね、''コケコッコー''って甲高く鳴いたんだ。宇宙まで届くくらい。するとね、太陽が''あの綺麗な鳴き声は誰のだろう''って言って東の空から出てきたんだ。
だから太陽は東から出て西へと沈むんだって。
━━━━
「本当によく知ってるわね、そんな無駄知識。そういえば鶏って天照大神の天岩戸の神隠しでも使われていたわね。鶏って朝の象徴なのね」
まぁ、天岩戸を開くにはまだ色々必要な物はあったみたいだけど。
「そうだね。メリーも結構な無駄知識持っているよ?」
「気のせいよ」
「気のせいじゃないって」
私達は広い宇宙にとってとても小さな声で笑ったわ。結構響いたけどね? 地球まで行き届いたかしら?
「あっ、蓮子。境目があるわ」
「えっ!? 何処!?」
「あの炎の輪の中にあるわ」
太陽の上に炎が渦を巻いている。そこに境目があるわ。なんで分かるか? 中の雰囲気が今居る宇宙と少し違うのよ。
「炎の輪? ……あープロミネンスの事? あの中にあるの?」
あの炎の輪はプロミネンスって言うみたいね。流石超一流天才の蓮子さん。何でも知ってるのね。この宇宙の仕掛けも全てお見通しなのかしら。
「ええ。急がないとなくなるわね、ってどうやって進むのよ」
「取り敢えずイメージを行動にする? ……空を飛んでる感じに」
「空飛んだ事ない私達に空飛ぶイメージって言ってもねぇ」
取り合えずイメージして行動にしようか。空を飛んでる感じ……。
「おぉ、意外に簡単じゃん」
蓮子は私と同じイメージをしたのだろうけど、イメージして一分も経たないうちに宇宙を自由に移動しちゃったわ。私は……全く出来ないわ。
「ちょ、蓮子ー。出来ない……」
「んー? なら、ほらっ!」
蓮子が私の手を握ってきた。嫌な予感しかしない。
「あの中でしょ? なら急げーー!!」
「ぅわぁぁ! は、速いってぇぇぇぇぇ!!」
蓮子は猛スピードで走った(?)。そしてあの炎の輪の境目の中へと入って行った。
八月になりました。
日本でも暑いですが、宇宙の方ではどうでしょうかね?
星が結構高い温度を発するので常に暑いのでしょうか?
※今更気付きましたが''きのうせい''は''気のせい''でした。次回以降、注意して書きます。




