第二三話 空輪重軽石
今回は皆さんの想像力に任せる部分が沢山含まれています。あと蓮子さんがシリアスです。
あの病院でメリーと別れた後、私は自分の家に帰る前にあの竺紗の居る稲荷大社へと寄った。
「ん? あー! 蓮子ぉ! 朝早くからどうしたのか?」
本殿のお賽銭箱に座っていた竺紗は呑気に言った。
「いや……ちょっとおもかる石に用があって来ただけだよ」
「ふーん。送ってやろっか?」
「いや結構です」
もう気持ち悪い目には会いたくないですよ。竺紗さん。
「そんな事言わないでー。ほらっ、いっくよー!」
「えっ!? ちょ、まっ!」
いつの間にか私の手を握っていた竺紗は私の事を気にせずに瞬間移動をした。
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「着いたー。あれ? 伸びてる。慣れたと思ったのになー」
「慣れてないから嫌って言ったんじゃん!」
「あらー? そうだったのか?」
全く読めない神だな。これを昔の言葉で''KY''って言うんだっけ。
そういえばどういう意味だっけ? 空気が読めない、だっけ?
「ぐぅ……やっぱり気持ち悪い……」
「ごめんごめん、あはははは……」
今は伸びている場合じゃない。そう思い、私は立ち上がった。
「何を願うのか?」
「秘密」
「意地悪ー」
竺紗がそんな事を言っている間に、私はあの灯籠の前に立っていた。そして祈念する。
強く強く祈念した後、おもかる石を持ち上げてみるけど━━
「重い……」
その顔は真剣だったので竺紗も流石に黙り込んでいた。私は再び同じ祈念をしようとするけど、竺紗に止められた。
「ちょいちょいちょい? 何回もするのはいいんだけども、同じ願いを言ったって結果は一緒だよ?」
「そっか……って、なんで同じ祈念をするって分かったの?」
「凄い気持ちが強かったから伝わってくるだよ。なんで願うかは分からないけどね。ってなんであんな事願うのか?」
「……離れて行きそうで怖いんだ」
私は俯いてぼそっと言った。その声は頑張ってやっと聞こえる大きさだったが、周りが静かなお陰で竺紗まで行き届いた。届いてほしくなかったけど。
「なら自分から近づこうとすればいい話。違う?」
「……」
私はまだ俯かせたまま顔を上げなかった。
「らしくないなー。私だって、マエリベリーだってそんな君の顔を望んでないよ?ほらっ、願ってごらん。きっと叶うはずさ」
竺紗が私を励ますために肩をぽんと軽く叩いた。
「やってみるよ……」
私はさっきと真逆の事を祈念して持ち上げてみた。力を入れずとも簡単に持ち上がった。石が嘘をついたようだ。
「叶うって運命が決まれば後戻りは出来ないからね?」
「これで近づけるならば大丈夫だよ!」
私は無性に嬉しかった。これで離れて行く事はない。
「そうか……まぁ、壮大な願いだから叶うのに時間がかかるよ? それでも大丈夫?」
「必ず叶うならば大丈夫だよ!」
「そうか……」
竺紗の顔が少し歪んだ気がする。きのうせいかな?
「じゃあ、ありがとね」
「あぁー! ちょっといい事思いついたから来て!」
竺紗が外に出ようとする私を引き止めた。思いついたって何を?
「ちょっと耳貸して?」
「誰も居ないのに?」
周りはとても静かだ。それに外も人通りがない。なのに?
「いいでしょ! ほらっ、大人の事情ってやつ!」
大人と言うより神? かな。取り敢えず耳を貸した。
「……どう? いいと思わない?」
「いいじゃん! それ! ただメリーがどう言うかにもよるけど……」
「それは……っね?」
竺紗が灯籠の方に目線を向けて、再び私の方を向いた。
「なるほどね!」
私はまた灯籠に祈念した。




