第二二話 探し物があるのです
「だから壊されないのね、ここ……」
こうの方に顔を向けていたメリーは辺りを見回して言った。
今私達は間隔がさほど離れていない二つの長椅子に座っている。後ろ側の端からこう、メリー。前側に私、という感じ。だから私は後ろの方に体を乗り出している状態なんだよ。
「改めて妖怪は怖いと思ったよ……」
さっきよりも体を乗り出して言う。
「他の妖怪に会った事があるのですか?」
「私達が前に会ったのは猛獣みたいな妖怪だったわね。貴女のような人間の姿をした妖怪は初めてかも」
あー。そうだったね。確か……トリフネにに行った時だったかな?
「へー……まだこの世界にも居るんですね」
「宇宙、だけどね。多分」
「えっ? う、宇宙、ですか?」
予想外の言葉が出てきたから吃驚したみたい。
「宇宙……そうなんですか」
「ええ」
少し間が空いた。そして私が口を開く。
「話を戻すけど、さっき言ったのってほんと?」
「ん? どういう意味ですか?」
「だって光のない目って明らかに我を忘れてるじゃん? だからちゃんとした記憶なのかなーっていうこと」
やっと理解したこうが納得して頷く。
「なるほどですね。はい、確かな記憶ですよ」
あの稲荷神とは違うんだね、と思った。
「それで由梨先生はなんで貴女を殺そうとしたの?」
一番の疑問をメリーが言った。
「それは……分かりません。あれから会っていないので……」
こうは顔を俯かせて、申し訳なさそうに言った。
「まぁ、そりゃそうだね。幸不幸をもたらす妖怪がここに居るんだもんね」
どれだけ死者が出たかは知らないけど、一週間経たない内に廃業になったくらいなんだから来たくないのも分かる。私達はそれを知らずに来たんだけど、もしかしたらここの近くに住んでる人は知ってるのかも。
「えっと……それで今貴女達と一緒に居るのですが、実は頼み事があるんです」
こうが顔を上げて私達の方を見る。
「何?」
「私、ずっと一人でここにいて寂しいんですよね……それで貴女達に探して欲しい所があるんです!」
「その探して欲しい所っていうのは?」
私が首を傾げて言う。
「はい。そこには日本の昔の暮らしが今でも残っていて自然が沢山ある所なんですが……その行き方が分からないんです」
「その場所に行く方法を探して欲しいって事?」
「はい!」
こうが大きく頷いた。それほど行きたいんだね。
「どうする? 蓮子?」
「探さないほかに何があるって言うの? 勿論探すよ!」
秘封倶楽部の裏活動である結界暴き。その結界の境界を越えていろんな世界を見るチャンス! 引き受けないわけがないじゃん!
「本当ですか! ありがとうございます!」
こうは椅子から立ち上がって礼をした。
「いやいや! 私達だって嬉しいよ! ねっ、メリー」
「え、ええ。まぁ」
メリーは乗り気じゃないみたい。残念だよ。
「あらっ、丁度朝みたいね。蓮子、そろそろ行く?」
こうの話に夢中になってて窓を見るのを忘れていた。窓の方を見ると、朝の爽やかな光が乱れたカーテンの穴から覗かせている。病院の窓際の床を見ると綺麗な光が映っている。こんな病院にも綺麗なものはあるんだね。
「そうだね。じゃあ……って、また居なくなっちゃった」
「仕方がないわね。見つかり次第また来るわねー!」
メリーはこの病院全体に響き渡るほどの大声で言った。外まで聞こえていても今は早朝だから関係ないない。
「じゃ、行こっか」
「ええ。取り合えず今日は休んで明日探しましょ?」
「そうだね……って私春の彼岸行ってないっ!」
「はぁ!? 何今更言ってるのよ! 今、夏よ!? というか何をしたら思い出すのよ!?」
「何って……突然に思い出したんだよ」
本当だからね! 突然、だからね!
「はぁ……それで? どうするの?」
「明後日付き合ってくれる?」
「……分かったわ」
「ありがとう、メリー。そしてごめんなさい」
「ほんとよ。蓮子ってやっぱり頭がいいのに悪いのね」
私とメリーは笑いながら私達の世界へと帰った。
まだまだ後少し続きます




