第二一話 妖怪は人間の恐怖心
「来てくれましたね。ありがとうございます」
「約束は約束だよ。忘れるわけないじゃん」
完全に忘れていた人が何言ってんだか。
ここは昨日の真夜中に来た病院のロビーよ。前、話が途中で切れちゃったから、今日来て聞くことになったわ。
「では時間も時間なんで早速話しましょうか」
星の光と月の光が差し込む中、私達は昨日座った長椅子に座った。
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「幸は……何処かしら?」
私は山田さんがいる病室へと足を運んでみたけども、そこには山田さんの姿はなかった。
部屋がくらいから見えないのだと思った私は閉まりきったカーテンを開けた。でもいない。窓は開けられないのでベランダにはいないはず。念のために確認してみた。案の定、いなかった。
逃げた? いや、毒を食べた者が今更外に出れるわけがない。
私はもっと細かく探した。小さい病室を隅々まで探す。だけど見つからない。とうとう探し疲れてベッド座りこんだ。
窓から微かな陽の光が差し込んでいる。私はそこをじっと見ていた。するとたまに細い陰が見えたり、見えなかったりしている。
「何……あれ」
その瞬間、紅い腕が私の目の前に現れた。いや、腕だけじゃない。何処かで見たことのある、白髪の少女もいた。その子には陽が差し込んでいるというのに目に光が一つもなかった。
それらが急に出てきたのよ!? 叫びたくなったわ。
「幸? 幸なの?」
無意識の内に体が震えた。その子の眼差しが……怖い。
その子は私の質問に答えず紅い腕と一緒にこっちに迫ってくる。無表情なのが逆に怖い。
その子はとうとう私の前に立った。そしてこう言ったのよ。
「私を殺そうとしたのはアナタ?」
「……幸、なのね」
姿が物凄く変わっていたけど、さっきの言葉で幸だと分かった。だってその子が言っていた事、そう''殺そうとした''事は事実だったからよ。
私は幸の夕飯にこっそり毒を盛ったわ。なんで射さなかったか? 簡単よ。射したら血が出るじゃない。だからよ。
「私はアナタの恐怖心。''幸''なんかじゃない」
「どういう事よ……貴女は私に殺される事を知っていた。何が恐怖心よ。貴女はどう見たって幸じゃない!」
「もうアナタの知る''幸''はこの世にはいない。私はアナタの恐怖心になったの」
幸は意味が分からないことを言ってきた。
「私は恐怖なんかに抱いていない! なのに何故貴女が私の恐怖心だって言えるのよ」
そう、今の私に恐怖心なんてない。さっき震えたのはきっと痙攣のせいよ。きっとそうよ。
「アナタは私に恐怖を抱いている。それは間違いないわ」
私は再びその子の紅い腕を見た。とたんに背筋がぞくっとした。そしてその子の顔を見てまた背筋がぞくっとした。
「私に負わせた罪、その恐怖は不幸になって帰ってくるわ」
止まっていたその子は再び歩き出して私との距離を詰めていった。そして消えた。
「……」
静かさに包まれた病室の窓からには明るい光が入り込んでいた。
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その後、私の勤める病院で死者が急増した。そしてあの子と出会って一週間もしない内に、ここは廃業してしまった。