表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘封倶楽部の天気は現世のち幻想  作者: だみ
第一章 伊奈利神木 ~ Japanese-Cedar Of The Crest
21/148

第二〇話 社の理想郷

「よしっ! 着いたー。あの二人は……まぁ、そうだよねー」

「あー……」

「な、何が起こったのかしら……頭が痛い……」

 私達は確か、竺紗に誘われて手を握って、それから……一瞬でここに着いた。

 私は地面で伸びていた。まだ気持ち悪い。一瞬のことだったのに一気に頭痛、目眩がした。

 メリーの方は座っていた。メリーも私と同じ症状に掛かっているみたい。

「いつまで伸びているのですかー。着きましたよー」

 竺紗が倒れている私に顔を覗かせて言った。

「うぅ……なんだったの? さっきの」

「まぁ、瞬間移動?」

「うぇぇ……」

「いや、そんな事より起きてくださいー!!」

 私の体をがくがく揺らす竺紗。お陰で症状が酷くなったよ。

「分かったから、揺らすの止めて!」

 私は竺紗を止めて伸びた体を起こし、立ち上がった。

 ここは……最初に見た稲荷大社の本殿だ。こんな立派なものが一度、壊されたなんて……思えないよ。

「どうしてここに?」

「来たら分かるよ」

 余程秘密な事なんだな。なんかウキウキしてくる!

 私達は本殿に上がり中へと入って行った。

 どんどん奥へ進んで行き、いつの間にかぴたりと閉まった障子の前に着いていた。そこで先頭を歩いていた竺紗は止まった。私達もつられて止まる。

「どうしたの?」

「いいや、なんでもないよ……開けるけど、吃驚しないでね?」

 竺紗は障子をゆっくりと優しく開けた。

 私達は目を見開いてしまった。だってそこには、植物達がこの本殿より遥か遠くまで広がっていたんだよ。

「す、凄い……綺麗。私の見る夢より凄いわ」

 隣でメリーが息を殺して呟く。

 こんな絶景なものがこの世にあるものなのか。

 草木は悠々と風に揺れて色鮮やかな緑が彩られている。花は緑の物足りなさをほどよい程度に置かれてある。カメラでは収めきれないほどの美しさだ。

「どう? 凄いでしょ!」

「でも非常識だよ。こんなに大きな空間がこの本殿に収まりきれるわけが━━」

 つい感情的になってしまい、本音を漏らしてしまった。

「なら私の存在は非常識と言わないのか?」

 私は言葉に詰まった。竺紗はそれを見計らって続ける。

「この世界には非常識と認めているだけで、実在するものは沢山あるんだ。私だって、ここだって」

「……」

「君達は見るからに不思議を求めている人間達だ。そんな者が不思議を認めないなんて矛盾してる。現実を認めれば、非常識も常識に変わるんだ」

 言い返す言葉が見つからなかった。非常識も常識へと変わる……

「メリー! 不思議があるのは常識なんだ!」

「な、何よ。急に変なこと言って」

「でもそれを認めるのは非常識なんだ! なんでか分かる?」

 自分でも何を言っているか分からなかった。

 メリーと竺紗は私の方を向いてきょとんとしていた。でも私は言い続ける。というより、口が止まらない。

「全部認めちゃうと、なにもかもがおかしくなるんだ。人々はそれを恐れている。だから不思議を認めるのは非常識なんだ」

「れ、蓮子? 大丈夫?」

「あっ、忘れてた……」

「えっ?」

 だんだん意識が遠くなっていきそうな気分。二人が何か会話しているけど全然耳に入って来なかった。

「でも! 私達、秘封倶楽部は違う! 私達は不思議を認めて非常識と言う名を常識に━━」


 パタン


「……あれっ? うん?」

前を見るとさっきまで開いていた障子が閉まっていた。

「あー……良かった。蓮子が急におかしくなるから吃驚したわ」

 えっ? 何?

 さっきまで何かを話していたみたいだけど思い出せない。

「いやーごめん。ついうっかり忘れてたよ。あの世界の性質」

「ど、どういう事?」

 戸惑う私に、竺紗はわざとらしく頭を掻いて説明した。

「実はあの世界は人間を狂わす性質があってね。それで蓮子は急におかしくなったんだよ」

「えっ、じゃあ私変なこと言ってた?」

「なかりね」

「えー……」

 私はショックを受けた。しかもかなりのダメージ。

 変な空間になったところで竺紗が口を開く。

「あっ、もうそんな時間かー。君達、そろそろ帰ったら? 夕方だよ?」

「えっ? ほんと?」

 外の方を向いてみると、紅い光が差し込んでいた。

「行かなきゃね。蓮子、切りもいい頃だし帰りましょ?」

「そうだね。帰ろっか!」

「じゃあ、また今度会おうねー。あと、蓮子の願い、叶えておくよー!」

 私達、秘封倶楽部は竺紗に手を振った後、この不思議な神社を離れた。

「そういえば夜、行かなきゃね」

「えっ? 何処に?」

「忘れたの?蓮子。あの病院よ」

「あー。今日いろいろありすぎて忘れてたよ」

 私はおかしくなった時の事を聞くことはなかった。聞いたら……精神的に大変なことになるよ。

 そんな事を思っていながらも、私達の笑い声は電車の中で響いていた。



 ━━━━



 稲荷大社の山頂には竺紗と天然神木が隣り合っていた。

「やぁ、古屋。今日は人間が来たね」

 ━━あぁ、そうだな。

「……ねぇ? 私、聞かなかったけどあの人達、不思議な力を持ってるね」

 ━━そうだな。

「しかも一つだけじゃない」

 ━━どうするのか? 言わないのか?

「言う時はきっと来るさ。それまで待とう。面白いことが起きそうだしね!」

 こちらでも笑い声が空の彼方まで響いた。



レンコ は 10000ダメージ を うけた! ▼


第一章はまだまだ続きますよ!

次回をお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ