第一七話 神の破壊
暴走神は恐怖のあまりに跪いていた。こころの体力も底が見えている。私は二人の沈黙を見ているだけだった。
そういえば私は何故あの時、力を纏める事が出来たのだろうか。イメージをすればいつの間にかまとまっていたのだ。ならば今力を纏めてこころに渡せば……。
そう思いイメージをしてみる。あまり力の流れがないが試す価値はある。
━━こころ。
「な、何……」
体力が完全に尽きているようだ。いつ倒れるかは時間の問題である。その時間になる前になんとかせねば。
━━今からお前に力を送ろう。それを受け取れ。
「力を……送る? 受け取る? どうやって……!!」
常に無表情なこころだが、驚いたのは一目瞭然だった。何故なら驚きを意味する能面、獅子口の面を被っていたからだ。
どうやら成功したみたいだ。何故出来るかは分からない。だが今はそんな事を考えている場合ではない。暴走神を竺紗に戻す事の方が大事だ。たが、次の策が思いつかない……。
━━さて……どうするか。
「ねぇ、どうやって送ったの?」
━━さぁな。神だからか?
正確には神木だが。
「そうなのか。ならばあの子の力を奪えたりできるの?」
━━分からない。だが試す価値はある。
私はイメージ作りに集中した。暴走神に貯まった力を抜き取るイメージ。だが、なかなか出来ない。何故なら、力の流れが変わらないからだ。
━━……駄目だ。力が強すぎて出来ん。
「出来ない事はないの?」
━━多分、な。
「そう」
こころは感情を操りながら進み始めた。その方向はあの恐怖に怯えた暴走神の方だ。
━━何をするのだ?
「ねぇ、この子の力を奪い取るにはどうすればいい?」
━━恐らく私では奪えない。本人に直接使わせて奪うしかないだろう。
「そう。じゃあ、感情を''怒り''に変えてみるか」
━━……気を付けろよ。
「分かってるって」
こころの作戦、つまりはこうだ。''恐怖''の感情を持った暴走神を、再び''怒り''に変え、力を出してもらう、ということだ。正直言って、無理な作戦だがこうするしかない。
こころは暴走神の感情を入れ換えた。それと同時に暴走神が再び暴れ始めた。蔓も力を戻し暴れる。悲鳴も聞こえ始めた。
そして暴走神はこころに向かって拳を出して来た。その速さは異常なほど。ただの人間では出来ない速さだ。だが、こころがその速さを貫いて暴走神を薙刀で斬る。右手をかすった。
「……!!」
暴走神は斬られた右手を左手で押さえながら後ろへ下がった。
「よし」
━━喜ぶのは早いぞ。何があるか分からんからな。
「はい……」
暴走神は唸り、こころの方へ再び向かって来る。そしてこころとまだ距離が空いているところで止まった。そして掌と掌を合わせ、瞑想をする。
辺りが凶暴な力に包まれた。
「す、凄い殺気……」
こころが猿の面を被って、困った口調で言う。無表情でな。そんなの被っている時間があるならこの暴走神を止めてほしいが、そんな事を言っている場合ではない。
━━……来るっ!!
「な、何が……来る?」
そのこころの言葉の後、暫くの間、武士の甲高い雄叫び、刄と刄がぶつかり合う金属音だけが聞こえた。
そして瞑想が終わったようで、暴走神の目がゆっくり開き、恐ろしい怒りの目がこちらを見つめた。
「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
暴走神は合わせた掌を体の外側へと勢い付けて放り出した。
「なっ!?」
━━……
辺りはさっきの力以上の大きさの茨が一面に埋め尽くされた。そして、その茨は私を覆い、こころを覆った。
茨の刺は私を刺し、こころを刺し、地を刺し……
茨の力はどんどん酷くなる。ここまでいくともはや暴走神も茨も制御不能だろう。
微かに見えた隙間からは伏見の風景が見えた。私はここで終わるのだろうか……
いや、まだ決めつけるのは早い。光はまだあるはずだ。まずはこの茨をどうにかせねばならない。
考えれば考えるほど、刺は深く刺していく。しかし私は考えた。あれでもないこれでもないと葛藤を続け、光を見つけ出そうとする。
━━ぐっ……
だが、私も刺に刺され続ければ、死ぬ。まさに、その死が見えてきそうだった。
そして、私は気を失った。