第一四話 神も暇になる
時は神無月。神無月と言えば、全日本の八百万が出雲大社に集まり、神議をすることで有名だ。
「あー行きたくない。運悪く被っているんだよぅ!」
天の真上には日が突き刺し、爽やかな風が吹いていた。
私に凭れ掛かる暇人が愚痴を言う。
今日は惨拝客がいないので暇人なのだ。いや、暇神か。
━━それは仕方がない。其方は八百万なのだから。
「あー! 普通の神に転勤したいー!」
暇神が私の下でじたばたする。そこで暴れるな。私の身体が傷付く。
━━愚痴を言うな。
「えー。どうせ人間には聞こえもしないし、見る事も出来ないよ?」
━━聞いてて気分が悪い。
「……はぁー、見回り行ってくる」
暇神は溜め息をついた後、よっとと声を上げながら地面を押し上げた。
━━気を付けるんだぞ。
「分かってるよ」
暇神である宇迦之御魂大神は見回りをしに、私から姿を消した。
見回りとは伸びすぎた植物を縮めたり、逆に成長が遅れている植物を伸ばしたりするのである。主に杉を中心にやっているらしい。その証拠に他より伸びていた杉が縮んだ。
━━暫く休むか。
あー、暇。
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「長時間力を使うのは流石に疲れるー」
暇神だった宇迦之御魂大神が帰って来たのはあれから五時間後。日も落ちていき、美しい紅が伏見を染めた。
━━お疲れだな。
また再び私の下に凭れ掛かる。止めてくれ。重いのだ。
「あー行きたくないー」
━━そんなこと言うな。
「えー……」
━━……
暫く風が吹く音しか聞こえなかった。話す事を探しているが……あぁ、あったあった。
━━……さぁ、明日には行くのだろう? 仕度をしたらどうだ?
これ以上沈黙が続いたら気分が悪い。なので話を切り替える事にした。
「んー? 準備することがないよ」
暇神は立ち上がってくるりと回る。その姿は美しかった。
━━あるだろうに。まず服装。
「大丈夫」
━━爪。
「爪? う、うん。大丈夫」
━━胸。
「大丈夫……ってちょ、ちょっと待ったぁぁぁ!」
暇神は顔を赤く染まらせた。あの日には及ばないが。
━━どうしたのか? 胸は女にとって、い━━
「そ、それ以上言うなっ!」
━━のち……
しかし、私としたことが。つい口を滑らせてしまった。
私の言葉を聞いた暇神は、ついに暇神ではなくなった。辺りは怒りで立ち込めていた。今の表情で似ていると言えば針千本、という魚類だろうか。
怒りの千本の針が迫っていく。
「この……変態神木ぅぅぅぅぅっ!!」
━━た、ただ言っただけなのだが!?
「問答無用っ!」
その後、私は暇……宇迦之御魂大神に命に侵害のある重傷を負わされ、正気に戻った彼女が元に戻してくれた。このまま重傷を負ったままだと、本当に死ぬところだったと言う。
神を怒らせてはならない。たとえ神を信じていなくても、決して怒らせるな。




