第一三八話 差
私達は博麗神社で戸惑っていて、未だに唸っています。
「私、何かいけない事でも言ったかしら?」
「そういうわけじゃないが……霊夢がいないと、異変解決に困るなって思ってな」
「貴女達でも十分だと思うけど……それでも?」
「ああ。保険としてな」
「保険なのね……」
保険……扱いは雑ですけど、そうなのかもしれないですね。理由は、八雲さんが霧雨さん達を認めているからです。それほど強く、経験が豊富なんでしょう。
「後、異変に巻き込まれているかもしれんしな。色んな意味で不安がある」
「色んな意味って?」
「霊夢は幻想郷一の妖怪退治専門よ。倒せない敵はいないっていうくらい」
「そんな奴が金を求めて暴れてみろ。危ないだろ?」
「それは危ないね……もし、そうなってたらどうするの? 幻想郷一なんでしょ? なのにどうやって……」
赤十字さんは不安そうな顔をしました。口元は下がり、顔全体が暗いです。それほど、私達の心配をしています。
しかし、霧雨さんは赤十字さんの真逆の顔になり、更にはウィンクまでしました。
「大丈夫だぜ! 何にせよ、私達には蓮子がいるからな!」
「あ、覚えてたの?」
「もちろんだ! 唯一の外来人だからな!」
いきなり、霧雨さんは宇佐見さんに肩を組んできました。その風景は、幼馴染みの風景とそっくりです。
風で木々が揺れる中、私にしか感じ取れない風が吹きました。おかしい風です。それが気になり、風が吹いている方向へ向きました。
「あらあら。何か見つけたの? エボニー」
「え?」
八雲さんは私の動きをしっかりと見ていたのか、いち早く気づきました。それに続くように、皆さんがこちらを見ます。
私の姿は、皆さんから見ると怖い人の姿でしょう。鼻先を空へ向け、目を凝らしてますからね。しかし、気にしている暇などありません。
「はい……風が、''暴れる妖怪が来る''と……」
なんとも、この風はさっきまで吹いていた風よりも凶暴です。今の風の性質上から、詳しい情報を得る事は出来ませんので、何か危ないものが近づいてくるとまでしか分かりません。
「まだ話の途中だっつうのに……誰だよ!」
「ですから、''暴れる妖怪''ですよ!」
「それしか分からないのか?」
「はい!」
「またこのパターンかよ。分かったと思えば、そこまでじゃないって……あ、ごめんな」
「いいえ。気になさらないでください」
このままいけば、私、ショックを受けそうになりましたよ。しかし、気を遣ってもらいました。この恩は返さなければなりませんね。もちろん、発言しても、霧雨さんなら私を変な人だと見なすでしょうから、何気なく返しますけどね。
風はより荒れていきます。
「あれは……誰だ?」
「もしかして……ルーミア!? 後ろにも何か見えるけど、誰だろう?」
「かわいい印象がある名前だけど、何だか、怖くない? ゾンビのような目付きをしているような気がするし……」
「……それは言い過ぎよ。早苗」
秋風さんは相変わらずですね。これこそ天然と言うものでしょうか? いえ、天然ですね。
私はいつの間にか、皆さんの発言に気を取られ、集中が一気に消えていました。
「ああああああぁっ!!」
この声を聞くまでは。
辺りが一瞬で凍りつき、皆さんは近づいてくる黒い服の子供を睨みました。風が、それぞれのあらゆるものをなびかせます。
「やっぱりルーミアだよ!」
黒い服の子供はルーミアという子だそうです。いつ会ったのでしょうか? もしかすると、私も本来会うべき人だったのですかね?
ルーミアは姿が大きくはっきりと見えるくらいに近づいてきました。
「スペル! 『ナイトバード』!」
ルーミアには、黄色に輝く短い髪の毛に大きな赤いリボンがついています。
それがあり、幼子に見えるのですが、そぐわない声でスペルを唱えました。秋風さんの言ったゾンビまでとは言いませんが、恐ろしい声です。
「ぐわっ! 何だよ、いきなり!」
スペルカードのエネルギーが光の鳥となり、私達を襲いました。上手く避けましたが、これが連続で撃たれるのでならば、体力的な問題となってくるでしょう。
「希望がない……」
「何!? こころ!」
「あいつに希望がない、魔理沙!」
秦さんの言葉を聞き、神社の目の前に降り立ったルーミアの目を見つめました。赤黒い、血に染まったような色が目の光を覆っています。
「またかよ……しかも、人食い妖怪……蓮子! 分かってるよな!」
「分かってる!」
「私達は援護する。行くぜ! こころ! 紫!」
「私達は!?」
マエリベリーさん、秋風さん、赤十字さん、そして私の四人は放置状態です。それに動揺した秋風さんが訊ねました。
「お前達は下がっていろ! 危ないからな!」
「分かりました!」
私は霧雨さんに従い、固まっている赤十字さんを後ろに下がらせました。しかし、固まっているのは赤十字さんだけではありませんでした。
「蓮子……蓮子は!?」
マエリベリーさんです。宇佐見さんを心配しています。
「マエリベリーさん! 気持ちも分かりますがここは引きましょう」
「……分かったわ」
マエリベリーさんは涙を浮かべて、悲しみを表現しています。こういう時、私はどう声をかければいいか分かりません。
とにかく、皆さんを安全な場所へ移します。
「覚悟はいいな? ルーミア。今すぐお前の━━」
「私達も手伝う! 魔理沙! はぁはぁぁ……疲れた……」
ルーミアが来た方向から二人の妖怪らしき人が現れました。一人は虫の触角が生えており、一人は不思議な羽を生やしていたので、そう判断しました。
「何だよ、お前達かよ。ルーミア、何で暴れたんだよ? お前達がいたんだろ?」
「分からない。急に暴れて出しちゃって……」
羽を生やしている人はしゅんとうなだれました。
「そうか。やっぱりな。なら手伝え!」
「もちろんだよ! ルーミアちゃんは私達の友達だもん!」
触角が生えている人がやる気を出して言うと、うなだれていた人も、威勢を放ちました。
「なら、何度も言うようだが……行くぜ!」
宇佐見さんを除く、皆さんは一斉にスペルカードを出しました。
私達はその光景を見るだけでした。
あ、エニー、今まで秦さんに会った事ないのに自己紹介入れるの忘れてました。まあ、そこは『流石、情報屋エニーさん』と、軽くスルーしてくださいな。いつしか入れるつもりですので。
さて、ルーミアをどうやって止めるかは、察しの早い皆さんなら分かる筈。




