第一三六話 見つからない
私達は人だかりを離れ、人里を離れた。こころはさっき居た森に希望の面を落としたって言ったから、取り敢えずは、森に戻ったよ。よく探せば見つかるかもしれないからね。
「見つかった? 皆ぁー」
「全く見つからないわよ。こころ、本当に落ちた場所、分からないの?」
「この辺りっていうのは覚えてるけど……詳しい場所は……」
こころはそこまで言って、言葉を詰まらせた。
森のど真中。ばらばらになっている皆は必死に探す。
枯れている草は弱々しくて柔らかいけど、その代わりに手を荒らしていく。それほど長い時間探した。空を見上げれば、二時三十七分十五秒。大体一時間くらいこれを続けている事になるね。
「エニーは?」
「駄目です……何も言ってくれません」
風の声を必死に聞こうとしているエニーは、冷えた土を色んなところにつけて希望の面を探していた。
だけど、手がかりがこれだけじゃ、どれだけ探しても見つかるはずがない。ここは森であって、林とは全くの別物だから。
だからと言って諦めはしないんだけど。というか、諦めちゃ駄目だよね。この間に何かが起こるかもしれないんだから、早く見つけなきゃいけない。
希望の面を探しながらもエニーをじっと見つめていたら、一瞬、目の色を変えた気がした。
「皆さん! 音を立てないで下さい!」
その瞬間、意味を理解した皆は動きを止め、エニーは立ち上がった。
風が騒いでいる。これだけの音を立てていたら何を言っているかも、分かりやすいと思うけど。でも、黙ってって言うほどなんだから、小さい声なのかなぁ。
そんな事を思っていたら、強張って動かなかったエニーの腕が垂れ下がった。
それを合図に私達はエニーの元へ駆けつけた。
「……ようやく聞くことができました」
「どうだったの?」
「風は''敵を倒していく奴が希望の面とやらを持っているだろう''と言いました」
「敵って……どの範囲までが敵なのやら。他は聞いてないの?」
「……いえ……何も」
首を左右に振るエニーの顔は、いかにも申し訳なさを表す感じだった。
手がかりが増えたにも関わらず、皆は黙り込んでしまった。これだけじゃ、流石に足りないよね。
誰かが溜め息をこぼしたその直後、何かを唱える声と共に爆発音が聞こえてきた。
「やれやれ。今回の異変はやけに気持ち悪いぜ。全く、月一で異変が起きるのは止めてほしいもんだっ!」
聞いた事のある声だ。今までここでお世話になった人の声は馴染みのある声だよ。
「魔理沙!」
「あん? おぉっ! 蓮子達じゃないか。だが、今は構ってる暇がないんだよ! 恋符『マスタースパーク』!!」
風を切ってまで打ち放される極太レーザーは、雲と星以外、何もないはずの空に撃たれた。そして、誰かの悲鳴と共に消え去った。
魔理沙は悲鳴の持ち主を倒すために撃ったのか。って事は……!
魔理沙は箒に股がって飛んでいたから、私達の近くの地面に下りた。先月来た時に巻いていたマフラーが荒々しい風に揺られている。
「ふぅ……ごめんな。お……なんか増えてるな。それにこころもいるじゃん。やっぱり異変に、か?」
「うん。本当の事を言えば、私が黒幕みたいなものだけどね」
「……は? 私、お前を倒さないといけないって事か?」
魔理沙は、周りに私達がいるのを明らかに無視して、構えをした。こころが黒幕になるって事は、私達はこころの関係者って感じに考えたんだと思う。
う、裏切ってなんかいないよ。極悪な事はしたくないよ。
「いや、倒すのは後にしてほしいよ。私は根本的な黒幕であって、起こしたわけじゃない」
「……詳しく話してくれよ」
「うん。実は……って事があったの。そして、その希望の面を持っている奴は、敵を倒していっているっていうわけ」
こころが分かりやすく、事細かく事情を話した。
「なるほどなぁ……じゃあ、その条件に私も当てはまるってわけだな?」
「うん。だから呼び止めたっていうのもある」
「……残念だが、私はそんな面を持ってないな。ごめん」
魔理沙は苦笑いで謝った。
なかなか見つからないよね……結構苦労しそう。
「そっか……」
「でも、霊夢なら何か知ってるかもな。知らなくても勘でどうにかなるな」
「なら……行くの?」
「そりゃそうだよ! 善は急げってな! ほら、行こうぜ!」
「わ、分かった!」
皆は森をうろつくのを止めて、博麗神社に向かう事にした。勿論、歩いてね。
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「あ……綺麗なお面……」
蓮子達が地上を歩いている時、ある少女は''落とし物''を拾った。
もう、ただのお話になってきてます。




