第一三三話 いつもと
東から注ぎ込んでくる昼の光は落ち着いていて、心地いいです。いつもの日常なんだけどね。だけど、今日は何だかそういうものがより深く感じるの。初めて行くからね!
でも、経済学の講義は全く聞けていない。チャイムがなるまで待っているんです。
「いつもより長く感じるのがアレなんです……なんだよねー」
敬語から急にため口にしろと言われても無理に決まっているじゃないの。って思いながらも使ってるけどね。
チャイムが京大校舎に鳴り響きました。すぐさま駆け出す。
集合時間まであと三十分。間に合う? 間に合う。蓮子さん達と合流しようかな。あ、でも何処に居るのかな? 部室? 行ってみるのが一番ね!
私は第一校舎一階の一番端の部室へと駆け込んだ。いつも人通りが少ない場所。来る人と言えば、蓮子さん、メリーさん、エニーさん、それと私の四人くらいです。勿論、例外もあるけど。
スライドドアをがらっと開けて中を見回しましたが、誰か居る気配が全くないねぇ。急いで来すぎたのかな?
「二十五分……行きますか」
今から集合場所までの時間は少し時間かかるの。歩きだと、十五から二十はかかるのではないかと思うけど。あまり近くも通った事ないし、行ってみても何もなかったし。
私は鼓動がリズミカルに速いビートを打っている事に、今気づいたので歩いて行く事にした。どうせ、間に合うしね。大丈夫よ。
私は秘封倶楽部の部員のような、能力を持っていないんです。普通のオカルト好きなの。新しい占い等が流行ればすぐさま駆けつけ、気が済むまでやり続ける。それだけなんですよ。私も秘封倶楽部のような能力を持っていれば。力になれたのに……入ってもよかったのかな?
迷惑そうに見つめてきた目線が今になって痛い。あの時は聞くだけだったのに咄嗟に入りたいなど、少しおかしいね。
歩きのスピードが下がっていたので、普通に歩く。早く行かなきゃ遅刻しちゃう。
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「遅いねぇ……メリーさんと蓮子さん」
「何をしているのでしょう?」
時刻は一時十分前。まだメリーさんと蓮子さんが来ていないので、博麗神社の鳥居の前で待っているの。蓮子さんがよく遅刻するのは分かるけど、メリーさんまで遅刻をするとは珍しいね。
「んー……風が吹いているのに何一つ聞こえないですね。多分、すぐ来ると思いますが」
そうだった。エニーさんは風の声を聞く事が出来てたね。さらに秘力というものを発動すれば、音でも声を聞く事が出来るみたい。何でもお見通しという感じなのかな?
何も聞こえない無音の中、エニーが何かに反応した。
「来ましたよ! 宇佐見さーん! ハーンさーん!」
エニーさんがそう叫んで、思わずそちらの方を向いたんです。そしたら、遠くに三つの人影が向かってきているのが分かった。大きく手を振っているエニーさんに応えて、三つ人影の内の一つが大きく手を振っている。あれが蓮子さんなのね。
「お待たせぇ!!」
「ちょっと! 蓮子速いわ!!」
「待って!」
蓮子さん達の声も近づき腕時計を見てみると、一時十分。十分オーバーしちゃったけど、行けるんだから許すよ!
「あ、眼帯つけてあげたの。かわいいね」
「前の方がよかった……」
愛乃ちゃんは顔を膨らませて機嫌が悪くなっちゃった。予想外の返事で苦笑いよ。
「そんな事言ってたら立派な修道女になれないよー」
「蓮子、子供相手に怖い声で言わないの」
「私、頑張る!」
「うん、頑張りなさい」
「ちょっとー」
こちらも予想外の返事でメリーさんがご機嫌斜め五度。さらに蓮子さんに無視され斜め十五度。人の気持ちを弄るのが得意って、いい事なのか悪い事なのか。やれやれね。
「うん? 何か言った?」
「なっ、何でもないわっ!」
「あるんでしょ?」
「ないってば」
「隠さないの」
「隠しても何にもないわよ……しつこいわよ? また説教を受けたい?」
「ごめんなさーい」
相変わらずね。二人の言い合いは、もう夫婦と言ってもいいほどのしつこさなのよ。噛み合わない性格がそう思わすのかな?
「あの二人、お互いにラブラブなのよ」
「はっ!? 同性愛なの!?」
いい反応。これを待ってました!
「そうなんですよ。今までに数え切れないほど━━」
「全部丸聞こえだよ!!」
「嘘を吹き込まないでよ!」
「聞こえるように言ったのよ?」
「そんなふうにしているから言いたくなっちゃうんですよ」
言いたくなるんだから、言わなきゃストレス。原因は蓮子さんとメリーさんだから、咎められる権利はないと思いまぁす。
「あー! あー! もういいよ……早く行こう」
「ずっと早く行きたくてうずうずしてたよ」
「分かりました!」
蓮子さんとメリーさんが不機嫌なので、何も言わないよ。流石に怒られたくないからね。だけど、何も言ってもしてもないのに怒られちゃう時があるけど、何でかな?
でも、そんな考えはすぐに消えちゃった。
「それで……どうやって行くの?」
「ままっ、手をつないで?」
「あ、うん」
私は蓮子さんの言われるがままに手をつなぎ、鳥居の真ん中を潜った。
今まで見えていた景色が真っ暗になって、何だか、不思議な感覚を抱いた。
あ、今日は火曜日だったw




