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秘封倶楽部の天気は現世のち幻想  作者: だみ
第七章 心狂硝子 ~ I Am You,You Are Me
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第一二五話 現世に帰ろう

「それで、どのような効果なのですか?」

 エニーはちょっと肌寒い気温の中でこたつに潜っている。襖も閉まっててあまり寒くないのに手をこたつの中に突っ込んでいる。ついしたくなっちゃ事なんだよね。

「それを話す前にまず、秘力の元が何なのかを話さなければならないわ」

 そういえば前からずっと謎な事だったね。急に表れたけど何なんだろう?

「秘力の元は恐らく、マエリベリーの能力によるものだわ」

「え……メリーの?」

「私の能力?」

 これは驚きだね。太陽が真上にあっても星が見える事とか色んなところで運がよかった事も全部メリーによるものだったなんて。でも、どうやって?

「ええ。多分、能力が表れている場所に触れたか何かしたんじゃない?」

「もしかして……()?」

「心当たりがあるのならそこでしょうね」

「私の()……」

 私がメリーのビジョンを見るためにはメリーの目を触れなきゃいけない事は分かっているよね? きっとそこから私の何かが弄られたんだ!

 こたつから二人の様子を見てみると、メリーはただ呆然としている。いつもメモばかり取るエニーも珍しく口を開けている。

「でも、何故ハーンさんの能力でなければならないのですか?」

 エニーは気を取り直して質問をした。流石新聞記者。

「人には必ず結界が体内に存在するのよ。それを弄る事が出来るのは、私か力が強まりつつある貴女、マエリベリーしか出来ないのよ」

「あー、その結界の話、何処かで聞いた事あるようなないような気がする」

 何処だっけ? 何処か忘れたから私はメリーと目を合わせた。メリーは何だか嫌そうな顔をしている。何で?

「出雲に行った時でしょ……」

「あー! そういえば結縁が言ってたね! えっと……確かストレスを溜めるため結界だとか言ってたような……」

「出雲……そんな事を言ってたの?」

「知ってるの?」

 てっきり二人だけの話になるかと思っていたけれど、三人の話になりそうだね。霊夢とエニーはちょっと退屈になるかも。

「ええ、ずっと昔の友達よ。幻想郷が出来る前はよく遊びに来たのだけれど、博麗大結界を張ったせいで会えなくなったのよ」

「だからスペルカードを持ってたのかなぁ?」

「あの子が? でもスペルカードルールが成立したのは博麗大結界を張った後の話よ」

「ん? じゃあ誰がそんな事をしたのかな?」

「さぁ、その辺りは分からないわね」

「ふーん……」

 取り敢えず、紫が出雲結縁と友達だったっていうのが分かった。今度連れて来ようかなとも思ったけど、よく考えたら京都から島根まで凄く遠かったよ。

「そ、それで……私達の秘力の効果とは?」

「そうだったわね。その肝心な秘力の事何だけど、エボニーから話すわね」

「はい」

 ずっと不思議だった事がやっと解決するのかぁ。ちょっと寂しい気もするけど、それが私達秘封倶楽部なんだもんね。

「貴女の秘力の効果は予想の通り、『音の声を聞く』のようよ。ただ、本来の能力と比べてみたらまだまだだけどね」

「なるほど……むやみに使ってもいいのでしょうか?」

「自分が傷つかない程度ならば構わないと思うわ」

 自分が傷つかない程度って、ばれない程度にっていう意味なのかな? そんな事よりも私の秘力の事が聞きたいよ。

 霊夢はさっきから無口である。話の挟みどころが分からないのか、人見知りなだけなのか。霊夢ならどっちもあり得そうだね。

「それで私は?」

「あっちの事情でちょっと……こっちに来て」

「なるほどね……分かった」

 あっちとはこの小説の事である。どうも、私に対しての愛が酷いため私の扱いだけは何故か特別なのである。だからその特別扱いで秘力の事は秘密なんだ。

 でもまさか会話でこの小説の事が話されるとは少し驚いたな。

 私達は紫に私の秘力の効果を聞いた

「えっ……ちょっと、それって……」

「ちょっと色んな意味でまずいわね」

 あまりにもチートな効果だったよ。何と言うか……無敵。

「さて、どうしましょうかね。頼まれた事も言ったし変な異変も終わったから貴女達を帰そうかしら。霊夢」

「……はいはい」

「随分と怠けてるわね」

 霊夢はこたつに頬杖をついて私達の会話の様子をぼーっとして見ていた。とてもつまらなそうに見えた。これがいつも続いているとしたら何処か心配してしまうよ。

「悪かったわね。やれやれ、じゃあちょっと待ってて」

「ええ」

 霊夢はこたつから離れて襖を開け、十月の冷たい神社の外へと出ていった。少しだけ開けられて閉まった襖の隙間からその空気が流れ込んでくる。温めているこたつから余計に離れたくなくなった。

「霊夢、何をするの?」

「外の世界への堺を開くの。前の時は酔い潰れてたから私か戻したけど、外来人を元の世界に戻すのは博麗の巫女の仕事なのよ」

 前に来た時は異変解決で宴会を開いたから酒を呑みすぎ、見事に酔い潰れたみたい。ぐっすりだっただろうねぇ。

「へぇー。すぐ終わる?」

「本人のやる気次第で時間が大きく変わるわね」

「何それ……」

「多分すぐ終わるわ」

 そのまま黙って約十分。霊夢が戻ってきた。

「終わったわ。来て」

「うん。あー、寒っ」

 こたつから出ると凍りつきそうな冷気だけが襲ってきた。暖気はない。

「つべこべ言わずに。面倒なんだから」

「はいはい」

 流石自由人だよねぇ。何でも言えちゃう、遠慮がないよ。

 外の方が冷たかった。赤い紅葉が一枚二枚、落ちている。ちょっと持って帰ろうかな。

 私は下に落ちていた紅葉を採った。きれいな紅色だ。栞にでもしちゃおっかな。

「あ、綺麗ね」

「でしょ? メリー、欲しい? これがきっと一番綺麗だよ?」

「いいわ。自分で拾う」

「そう? ならこれは大事にとっておこっと」

 そんな愉快な話をしていたら、二度目の別れの境界と向き合っていた。

「いやー、色んな事あったけど、やっとメリーの事に気づけた感じ!」

「私は蓮子の体と私の感情に振り回されてばかりだった気がするわ」

「何それー! 私の事くらい少し分かったんじゃないのー!」

「んー……ちょっとだけ」

「何でそこ考える!」

「だって、あまりいい事なかったもの」

「メリー!」

「宇佐見さんもハーンさんも程々にしましょう……ね? 今は帰る事が重要ですよ」

 いつの間にかいつもの奴を引き起こしそうになっていた。周りから見たらただの夫婦喧嘩という事は分かっているのにどうしてもやっちゃう。こういうところは秘力は出ないのかぁ……色々と不便だな。

「うん……じゃあ、霊夢、紫。ありがとう」

「……とても楽しかったわ」

「また来てもいいわよ。来なくてもいいけど」

「やっぱり自由人だね、霊夢は」

「自由人ってどういう意味よ」

「何でもないよ」

 霊夢に聞かれたら私死んじゃうー(棒)。私にとっては、霊夢は弄り甲斐があるかも。

「さようなら。秘封倶楽部」

「また会えると思うけどね」

「そうだね。それじゃあまた!」

 私達、秘封倶楽部は幻想郷の博麗神社の鳥居を潜った。時間はどうなっているんだろう?前は紫に時間を戻してもらったけど。

 現世の博麗神社の鳥居下から空を見ると、四時三十七分二十六秒。スマホから日付を見てみると幻想郷へ行った日。明らかに戻っている。

「戻ったわ。あ、今思い出した。蓮子、右ポケット見てみて」

「右ポケット? 何これ、カード? 何処で拾ったの?」

 右ポケットから出てきた何も書かれていない白紙を見て首を傾げた。エニーもそこに覗き込んでメモを取り始めた。

「こいしちゃんから貰ったのよ。スペルカード」

「スペルカード!?」

「え、ええ……よかったら一枚くらいあげてもいいけど……」

「いいの? じゃあ遠慮なく貰うよ。はいメリー、あとエニーも」

「ありがとうございます。何だか不思議な感じですね」

「うん。これから何かがありそうな雰囲気がする」

 何か溢れている感じなんだなー。これってスペルカードを発動させるためのエネルギーみたいなものなのかな? 取り敢えず、あの紅葉と一緒に保管しておこう。

「明日は休みだからゆっくり休もうかな……あ、レポートがあった」

「早く済ませちゃいなさいよ」

「うーん……」

「ハーンさんの言う通りですよ。早く終わらせたら後が自由ですよ」

「が、頑張る……」

 長かったぁ。これで少しは楽かな。悪夢に悩まされずに安心して眠れそう。

 私の秘力に自信と不安を抱いて帰り道を辿った。



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