第一二四話 秋に第二取材者
今回はただのお話です。飛ばして見ても変わりはないってくらいですよ。
「おはようございます!」
私は山の麓にある木の家に訪れました。その庭にはさつまいも畑があり、他にも南瓜や人参などがありました。なので少し気になって来てみたのです。誰か人が住んでいたら、作り方を教えてもらいたいと思っています。
家の中から足踏みが聞こえてき、止んだかと思いきや家の扉が開きました。
「こんな朝早くから誰? ……射命丸……に見えたけど違った。どちら様?」
中から出てきたのは一人の少女でした。一人であんなに立派な野菜を作る事が可能なのですか?それと、''射命丸''と言いましたが、何故でしょうかね?
「いきなり申し訳ありません。私は現世から来ました、エボニー・セテントライトと申します」
「外来人? へぇ……それで、何のご用ですか?」
普段でも現世から来る人が多いのでしょうか? 思った以上にリアクションが薄い気がします。
「あの畑は貴女が育てているのですか?」
「畑? うん。私とお姉ちゃんとで育てているよ」
「なるほど。凄く立派ですね! 私、あんなによく育っている野菜など初めて見ました!」
今の京都では農業は全て室内栽培です。太陽光よりも優れた光で合成野菜を育てます。その野菜らは科学の力なりの味は出せているのですが、何と言えばいいのでしょうか……不純物と言うのが適切だと思います。私はその不純物の野菜よりも自然な味わいの野菜を是非一度食べてみたいです。
「本当に? うわぁ! 嬉しいよ! いっっち度も言われた事なかったから本当に嬉しい!」
「いえいえ。現世の方では、こうやって外で畑を作るという事が全くないのでとても素晴らしく感じるのです」
「えっ、外の世界じゃ豊作じゃないわけっ!? それは大変よ! 褒められるのはいいけど、私、そっちに行かなきゃいけないじゃない!」
「あ、いえ。農業はあるのですが、外ではなく室内で畑を作るので不作ではないないですよ」
「へぇ……外の世界は部屋の中で野菜とか育てるんだぁ……観葉植物ならまだいいと思うけど……信じられないなー」
こちらの常識は向こうの非常識ですか。いつか将来、現世に押し潰されるかもしれませんね。
「本当の事ですよ。まぁさておき、お話を切り換えまして本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、ごめんね。それでうちの畑に何のご用かな?」
彼女は長すぎた話に苦笑いをしました。
私は彼女が言った事を要約していきながら、メモ張の一ページに字が沢山埋まっている一番最後の行に書きまとめています。
「はい。私、野菜を育てた事がなくてですね、今凄く育ててみたいと思い、この立派な畑の持ち主にお伺いしたいと思っているのですよ」
「そんな事なら何でも教えてあげる! あ、私の名前は秋穣子って言うの! よろしくね! ええぇっと……」
「エボニー・セテントライトです」
「ごめん! エボニーね。じゃあ早速土の話からいこっか!」
「ありがとうございます。しっかりとメモを取らせていただきます!」
関係ない話ですが、私は歴史を初めて習った頃はよく烏帽子と呼ばれていました。本当に関係ないですよね。
私と秋さんは彼女達の畑へと向かいました。歩いて五歩辺りでしょうか。
「そういえばこの畑は秋さんとそのお姉さんとで作っているのですよね? お姉さんは何処に居るのですか?」
「お姉ちゃん?お姉ちゃんは紅葉の見廻りに行ってる」
「紅葉ですか? 何故でしょうか?」
「お姉ちゃんは紅葉を司るからねー。あ、そこ踏まないで。栄養が不足しちゃうから」
私の足元にはさつまいもの大きな葉が近くにありました。あの恐ろしい風見さんみたいに植物を愛しているのでしょうかね。
「すいません。えっと、それは紅葉の管理と捉えてもよろしいでしょうか?」
「そうだね。大体お昼頃には戻ってくるよ。さて、それでね、私達の使っている腐葉土は━━」
秋さんのお姉さんの話よりも説明の方が大切なのだと思いました。なので私はあまりお姉さんの話には口を挟まずに、秋さんの熱のこもった説明を聞く事にしました。
「冬の間に栄養満点の土にして春には━━」
ここから説明が約三十分続きました。その三十分の間に腐葉土の話から野菜の育て方まで、全てを要約しメモを取りました。そのページ数は十五ページに渡ります。
その説明が終わり、さつまいもの収穫途中、秋さんに会った時から気になっている事があったので聞いてみる事にしました。
「秋さん。何故私を射命丸さんと間違えたのですか?」
「ん? いよっと!」
秋さんは今までで一番大きいであろうさつまいもを引っ張り出しました。
「おお、いいね!それで、私が何でエボニーの事を射命丸って呼んだかだよね?」
「はい」
「すっごく射命丸に似てたからよ。顔つきとか髪型とか、とにかく色々似てるのよ」
大きなさつまいもはすぐさま腐葉土とさつまいもだらけの籠に入れられました。そして秋さんは再び土を掘り返す作業に移ります。私はゆっくりと茎の根本を掘っていきます。すると徐々に紫色の実が出てきました。
「確かに言えますね……初めて会った時、自分が目の前にいると思いましたね」
「でしょ? だから間違えたの」
「偶然なのでしょうかね?」
「さぁねー。この幻想郷、色んな事が起きても当たり前だもんねー」
「それは一体どういう意味でしょうか?」
「んー……例えば、射命丸は貴女のお姉ちゃんだった、とか、いつか射命丸になる、とか。今までに知られていなかった事や起きる事が常識とか関係なく起きちゃうのよ」
「なるほどですねぇ……」
常識に関係なく……ですか。私の身にもハーンさんや宇佐見さん達のような能力の変化が起きたのも、この幻想郷のせいなのでしょうか?
紫色の実は掘っていくとどんどん丸くなっていきます。これでは横太りじゃないですか。焼き芋として食べるのにはあまり最適ではないですね。
「そろそろかなぁ? ふぅ……あ、エボニー! いいの取ってるじゃない! ちょっとちょっと!」
「ああぁ……」
秋さんは中途半端に顔を出している紫色の実を堀だそうと、私を蹴飛ばしました。横に尻餅をつき、少し痛かったです。
秋さんのその後の行動が素早かったです。その姿はまるで犬が穴を掘っているかのようです。
「よしっ! 採ったどーーーー!!」
何処かで聞いた事のあるような言葉を聞き、今日の朝の収穫は終わりました。汗を拭いながら私が来た方角を見ると誰かがこちらへ来るようです。まさか妖怪ですかっ!?
「だ、誰……ですか?」
少し怯え声で朝陽の逆光の効果で黒くなっている影を見つめました。すると秋さんが私の声に駆け付け、影を見ました。
「結構大勢だけど大きさはばらばら? んー……妖怪の群れとは考えにくいと思うよ」
「何故でしょうか?」
「妖怪は大抵群れでいるけど、同じ種類で集まるんだ。例えば妖精は妖精の群れとかって。でもあの影の群れは大きさがばらばらだし形も違う。だから妖怪とは考えにくい」
こんな時でもメモは肝心です。小さな行に小さな字を埋めていきます。
「違う種類の妖怪が集まる事はないのですか?」
「そうだねぇ……すっごく希かな?わけありとかっていうのが群れになったりする」
「あの影は妖怪の群れである可能性は低いという事ですね?」
「そうね。ま、少し様子見かな」
私は段々と近づいてくる影が大きく手を振っている事が分かりました。その時点でわざわざ迎えに来てくれたと思いました。それと同時に何かあったのかと思いました。
私は影に応えるように手を大きく振りました。




