第一二三話 夢と現は反意語
あの鏡。あれだわ。私の見た鏡よ。
この世界の奥底にある鏡の前に立つ私達。だけどカバーが掛かっていて自分や皆の姿は見えない。
「これか?」
「それさ。さぁ、何も仕掛けてないぞ? あのカバーを外して姿を見るとよいぞ?」
「本当なんだろうな……」
「ああ、本当だとも」
「胡散臭いな……」
彼女は何か企んでいると言わんばかりのにやけを出して言う。魔理沙の言う通り、胡散臭いわ。
「ならカバーを外してみろ。何も起こらないぞ? 更にお前達は元に戻れる。こんなにいい話はないぞ?」
「そんなに言うんなら本当じゃないの? ねぇ、メリー」
''メリー''は私だけどね。何故か急に秘力が切れちゃったのよ。何故かとも聞きたかったけど、彼女に聞くにはちょっと……勇気がいるわね。
「う、うーん……怪しいわね」
「まぁ、そうだけどさ。何だか本当っぽいし、いいんじゃないの?」
「なら、外しましょうか……」
蓮子は疑いながらも鏡へと向かったわ。いよいよ戻れるわね。戻ったら色々と聞きたい事あるし、早く終わらせましょ。
魔理沙に縛られている彼女のにやけはなかなか止まらなかった。むしろ、増していっている気がするわ。
「よろしくね」
私は紫色の蓮子の背中を言葉で押したわ。蓮子は素直に前へと進むわ。
蓮子の着ている服よりも濃い紫色はとても美しくて、光もないのに反射されて目に刺さるわ。でも、痛くない反射よね。
鏡までの距離は大体十歩。だから、ほんの数秒で鏡の所へ着いたわ。
蓮子はそのまま、鏡の正面に立ってカバーを握る。真っ直ぐ伸びていたカバーにしわが寄った。
「じゃあ行くよ? そーれ!」
カバーが外され、私の見覚えのある鏡が見えたわ。映し出したのは魔理沙と魔理沙に縛られている彼女とエニーと妹紅と蓮子と私……奥に映っている方から言っているのに、奥にいるのは私じゃないわ。逆に手前、鏡の目の前に映っているのは私。
硝子に心を狂わされ、気を失ったわ。
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「……って事があったわけよ」
「そりゃお疲れ様ね。私は嫌ね」
私達は元に戻れたわ。朝のこたつに潜って蓮子と一緒に熱いお茶を飲む。魔理沙もつられるわ。エニーはこの機会だから、と外に出て情報集めているわ。自分の能力の事は聞くように言わされているわ。
「しかも逃げられるとは思ってなかった」
「手を離したら逃げるのは当たり前じゃない」
「そこら辺忘れてたぜ」
「肝心なとこ忘れてどうするのよ。また探すの面倒じゃない」
妹紅はもういない。ましては魔理沙に縛られていた彼女もいないわ。
妹紅の方はここに私達を置いて帰ったわ。まぁ、そうよね。
彼女の方が問題なのよ。彼女は鬼人正邪っていうみたいで、『何でもひっくり返す程度の能力』を持っているの。それで攻撃を避けるためにあの世界を創ったみたいよ。しかもその世界の性質も彼女の能力と全く同じだったそうよ。だから魔理沙の気がひっくり返ったのね。秘力の事はよく分からないけど。
霊夢と魔理沙が言うには彼女は天邪鬼らしいわ。私でもよく知っている、言った事と全く真逆な事を言ったりするの妖怪よね。そんな人が何で鏡を作っていたのかは分からないけど、今、徹底的に探しているみたいよ。そこから刑事ごっこね。是非拝見したいわね。
「紫がやってるんだろ? だったらちょちょいのちょいだぜ」
「わけ分かんないわ」
「あれ? ナズーリンは駄目なの?」
蓮子が言ったわ。ナズーリンは『探し物を探し当てる程度の能力』って言ってたわね。確かにナズーリンなら出来るんじゃないの?
「あいつはあくまで探し''物''を探し当てるんだ。探し''人''は探し当てれないってわけだ」
「なるほど……」
「だがな? その探し人が持っている物とかは探し当てる事は出来るんだ」
「あ、でもあの世界の入口は? ''物''じゃないよ?」
「心狂硝子があったからよ。あの鏡の中にね」
突然魔理沙とは別の声が後ろから聞こえたから、吃驚して振り向くとそこには八雲紫が居たわ。
「うおぉ……何なんだよ。あいつの捜索は?」
いきなり出てきたにもかかわらず、薄いリアクションだわ。霊夢なんてそれが当たり前って言うかのような顔をしている。私達は声を上げそうになったのよ?
「藍と橙に頼んで捜索を続けているわ」
「そんな事より、分かったの?」
「ええ、分かったわ。貴女達二人の対称点をね」
普通の鏡は左右対称を映す。だけど心狂いの鏡は人の対称を映すの。性格とか姿とかの対称。あの鏡を見るまでの鏡は大体何の対称を映すか分かったけど、あの鏡は何の対称を映すか分からなかったわ。だから予めに頼んでおいたのよ。
「貴女達の対称点は''夢と現''。蓮子が現でマエリベリーが夢よ。まだあるかもしれないけど、これははっきりと言えるわ」
「夢と現……か」
「何で?私は夢と現の間を通っているようなものだよ?」
夢と現。分からなくないけどそうと言うものがないわ。
お茶をすする音が聞こえて前を振り向いてみたら、霊夢は何もないようにお茶を飲んでいたわ。
「現に歩みかけてるって事じゃないの?」
「でも、なぁ……それだったら、メリーはかなり進んでいるのに私はちょこっとだよ?全然対称じゃないじゃん」
「んー……なら……ねぇ、さっき対称点はまだあるかもしれないって言ってたわよね?」
不自然過ぎる言い方だったから覚えているわ。
「ええ、そうね。言ったわ。でも、何の対称を映したかまだ分からないわ。とにかく、夢と現は確かよ」
最初からそんな気はしたの。でも、一緒に居て絶対的アシンメトリーだと思っていたのに、シンメトリーだと言われると憂鬱ね。私、蓮子一緒に居てて、嬉しかったのにな。
蓮子も何とも言えない表情をして無理矢理の笑顔を作っていたわ。
「そっかぁ。まだまだ分からないね、私達の事。あ、それと私とエニーの事は?何か分かったの?」
「それも分かってはいるけど、肝心なる本人がいないわね。直接言った方が伝わり易いわ。それで、何処にいるのかしら?あの子は」
「あ、何処に居るんだろ?」
「私の勘だと妖怪山に居るわよ」
エニーはまだ私達が行った事のない場所へ行っていたわ。一人だけで行くのは狡いわよ。
「か、勘……」
「あーら。博麗の勘を甘く見ない方がいいわよ? 結構当たるんだから」
「それなら信じるけど……」
「それじゃあ、行きましょうかね。話が進まないわ」
聞いてくるように言われたけど、直接の方が伝わり易いっていうほどややこしい話なら本人がいるのかもね。
私達はまだ明るい朝に目を向けて妖怪山とやらに向かう事にしたわ。
さぁて。いつになったら終わるかなぁ?
年越す前に終わらせたい。後、五話かぁ……。




