第一二話 天然神木
「うっ……」
何が起きたのか正直分からなかった。確かあの子が叫んで目の前が真っ白になって……
「……こ! 蓮子起きて!」
「うーん? 何? メリー?」
「取り合えず自分の目で見て!」
私はメリーの言う通り眩んだ目を擦りながら辺りを見た。
━━えっ?
辺りは白い雲に覆われた朝の空。三百六十度、全部雲だった。下を見ると緑色の床。風が吹く度に揺れる。
「えっ? ここ何処?」
「さぁ……分からないわ。ただ地面についていないことは確かね」
「おっ、目覚めた?」
空からあの少女が降りてくる。そういえば神って言ってたっけ。信じられないけど。
「ここ何処?」
私はさっきメリーに尋ねたことをもう一度尋ねた。
「ん? んー……葉っぱの上って言えばいいかな?」
「葉っぱ……って葉っぱ!?」
私達は緑色の床の端へ向かった。下を覗けば稲荷山が見える。また違う所に行けば茎らしきものが見えた。そう、私達は巨大な植物の葉の上にいるのだ。それを知って目を見開いてしまった。
「ちょちょちょっと!」
「何?」
「どうなっているの!」
私の質問に対してきょとんとする少女。そして少女は口を開く。
「見てない? おっきな植物の上だよ」
少女は当たり前のように言った。
いや、当たり前に言われても困るんだけど……。
まだ目を見開いている私達に少女は尋ねる。
「これで信じてくれた? 私の力、植物の成長を操る力だけど」
「いや、ここまでしたんだから信じるしかないわよ」
「そうか! なら良かった!」
信じてもらえて嬉しいのかにこにこ笑いながらぴょんぴょん跳ねる少女。あれでも神なのですか?
「……あのぉ、そろそろ下ろしてくれる?」
ずっと跳ねていたからなかなか話せなかったけど、いつまでも黙るのもアレだから跳ねる少女に話し掛けた。
「うふふふ……はぁー。えっと? 下ろしてほしい? 分かった」
少女はそう言うと、片手を上に突き出して深呼吸をした後、突き出した片手をおもいっきり下に振り落とした。すると今まで私達が立っていた葉が急になくなった。少女の''植物の成長を操る力''で植物は小さくなったのだ。
「「……えっ?」」
立っていた所が消えたということは私達を支えるものはない。私達は重力に逆らえず落ちてしまった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
このままだと帰らぬ者になってしまう。だけど何もすることが出来なかった。出来た方が凄いですよ! もう、それほど怖かったんだから!
「あっ、人間空飛べないんだった」
こんな状況なのに少女はあまり焦っていない。何故なら私達は助かっていたからだ。何故助かったか。それは少女の力で葉が私達を受け止めたからだ。
「うぅっ……死の境目を見た気分だわ。気持ち悪い……」
メリーがそんな事をを言っていると空から少女が降りて来た。
「ごめんごめん! 人間に会うの久し振りだから飛べないこと忘れてた! あははは……いでっ!」
メリーは笑う少女におもいっきり叩いた。
わー痛そう……
「あははは、じゃない! こっちは死にそうになったんだからね!」
これは始まるぞ。メリーの説教タイム!
〜少女説教中〜
案の定、メリーは神である少女に本気の説教をした。メリー……怖すぎ。
私はメリーの説教をただ呆然として見てるだけだった。
「すすすみませんっ! もう絶対しませんっ!」
「本当に全く……はぁ」
説教が終わると私は気まずい沈黙の中、口を挟む。
「ね、ねぇ? ええっと……竺紗、だっけ?」
「うん。そうだけど?」
「実は頼み事があってここに来たんだけど」
そう言った後、すぐに答えが返って来た。
「合成植物が枯れた事? 悪いけど合成植物についての願いはお断りだよ」
「早っ! っていうか何で分かったの?」
「んー……何でかな?」
「いや逆に尋ねられても……」
私は少し戸惑って次の言葉が思いつかなかった。躓いて言葉に少しだけ空白ができている間にメリーが私に問いかける。
「蓮子? これからどうするの?見に行く?」
「……あっ、勿論行くよ。何の為に来たと思っているんだよ」
「何処に行くのかい? 境内だったら案内出来るけど」
「本当に?」
「さっきの代償もあるしね。何処に行くの?」
「この稲荷大社にあるっていう天然植物だよ。っていうかあるの?」
「天然植物? あー、アイツの事ね。よしっ! 案内するよ☆」
竺紗は私達に向かってウインクをした。絶対に反省していない顔だ。その時メリーは溜め息をついた。
「ん? どうしたの? 溜め息ついちゃって」
「いえ、何でもないわ。じゃあ早速案内してくれるかしら」
「稲荷山の案内なら何でもお任せあれ! ついて来て!」
私達は宇迦之御魂大神である不思議な神に色んな会話をしながら噂の天然植物の所へと歩いた。
関係ないけど凄い坂きついんですよ。ここ。
「そういえば君達のこと、まだ聞いていなかった」
「あーそういえば言ってなかったね。私は宇佐見蓮子。こっちはマ━━」
「マエリベリー・ハーンよ」
「へー。蓮子とマエリベリーかー」
ちゃんとマエリベリーと言おうと思ったのに、メリーは私が二文字目を言うより前に自分の名前を言った。
「ちょ、言ってあげようと思ったのに」
「信用出来ないからよ」
「えー……」
そんな事を言っていたら、竺紗がはっとして先頭を歩いている中後ろを振り返っていた。しかし竺紗の足取りは変わっていなかった。
「もうすぐ着くけど、蓮子とマエリベリーは稲荷神のご神木って知ってる?」
「そういえば知らないわね」
竺紗と私達は歩く速度を遅くして話に集中する。
「実は稲荷神のご神木って杉なんだよ」
「杉? でもこの辺り、杉が沢山あるけど」
辺りをきょろきょろ見渡すと周りには沢山杉がある。指だけでは数えられないくらい沢山ある杉はどれも傷一つもなく真っ直ぐ、堂々と伸びている。
「そりゃ稲荷神は固有のご神木を持たないからね。ここにある全部の杉がご神木だよ!」
「えっ……何でそんなに沢山あるの?」
「んーなんだっけ? んー……あっ、着いた着いた」
竺紗がそう言ったので頭を竺紗の向いている方向を見る。するとそこには他の杉よりも立派で堂々としていて真っ直ぐ、高く伸びた杉があった。
「うわー。こんなに高いとは思わなかったなー……」
「この杉こそが私と共に過ごしてきた天然神木だ!」
なんとも力強い。こんな植物は生きていった中でも一番の植物だった。人々もこれを見たら一回転して驚くだろう。
「この木は私が産まれたときに一緒に生えてきた木だ。私は訳あって、この木が力を失おうとし、枯れようとしたらすぐさま力を与え復活させた」
竺紗は杉の表面を触り、高く見上げて誇りを持って言った。
「いいか? ……うん、分かった」
竺紗は誰に話し掛けているかは分からないが何かを話していた。
「さぁ、二人とも。木に触れなさい」
「えっ?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべている中、竺紗は杉の表面を触って、辺りから白い光が湧き出した。その光はさっきとは別物だった。
「な、何をするの?」
「つべこべ言わずに、さぁ」
私達はそう言いながらも杉の木に触れてみる。すると光が一層に増してくる。
「貴方の全てをこの者達に見せてあげなさい」
やがて光は私達を優しく包み込む。
今更すぎるのですが、小説情報では字数五万字以上いっています。ですが実際、予約の小説の文字数が入っていますので、今現在でだいたい一万五千字くらいだと思います。
今は、第三十話まで予約済みです。