第一一七話 胎児は生命の始まりを見る
「『胎児の夢』!」
全てはマエリベリーお姉ちゃんを守るため! 自分を守るため!
私は普段何を言いたいのか分からない夢ばかり見る。このスペカはそれを想って作り出したんだよ。
小粒よりもちっちゃい弾幕達はやがて、優雅に泳ぐ弾幕の群れに変わるの。それから弾幕を植えて、生き生きと育つ弾幕が生える。そこから勢いよく弾幕が飛び出すの。
でも、まだ今は微生物の弾幕。ひょいひょい避けられちゃうよ。
「まだまだちょろいわね。それだけなのかしら?」
「そんなわけないでしょ! 本番はこれからなんだから!」
怖い人から撃たれるレーザーのせいで、折角展開した弾幕が悉く蹴散らされていく。
うーん、まだかな? 溜めはいいかな?
「まだまだ未熟少年ね」
「少年じゃない! もう怒った!」
少し我を忘れて、次の弾幕のための溜めも気にしなくなった。実際、溜めは大丈夫だったよ。
「そーれ!」
すいすいと泳ぐ魚の弾幕は怖い人に目掛けて撃っていくの。じゃないと、この魚は一直線に進んでいっちゃうからね。
魚の群れって凄いんだよね! 一つに固まっておっきい魚に見えるから、他のおっきい魚も吃驚して逃げちゃうんだよね! 今、見える風景がそんな感じなのよ! うふふ、苦戦苦戦。
「しつこいわね!」
「なんでスペカ使わないの?」
どうも怖い人は日傘の攻撃にこだわりを持ってるみたい。殺し合いなら普通のよりもスペカの方が強いんじゃあないの?
「スペルカードよりも強いものがこの傘に込められてるのよ」
「何それ? 変なのー」
日傘がスペカよりも強い? あり得ないような気がするよ。
後ろを見ていたら、私の渡したスペカをじっと見ているマエリベリーお姉ちゃんが見えたの。凄く焦っているのよ。使い方が分からないのかな?
その時、右耳が強く引っ張られた熱い太い糸に当たった。反射的に避けて何とか大怪我にはならなかったけど、水が首を伝ったのを感じて本気で殺す気だと思った。
水は服にどんどん染みていった。
「余所見をしていたらどうなるか分かるわよね?」
次の弾幕の溜めは十分ね。今なら不意打ちが出来る!
「いったぁ……むぅ……えい!」
泳ぐ弾幕を消して、育つ弾幕を展開したわ。地面からずんずんと伸びて、先端で渦を巻く。
「あら、場面が変わったのにまたちょろいわね。しかも、花を咲かせないなんて……あら、花が咲かない植物だったわ」
相当な量ではあるんだけどこれだけじゃ簡単に避けられちゃう。だから、私は邪魔をするの。
「余裕な顔もそこまで! いけー!」
まあるい弾幕を蒔く。早く大きくなあれ!
「くっ……面倒だわ」
その願いは届いて弾幕は根と地下茎を張り、葉っぱを伸ばした。さっきよりも大きく、強く、もっと。
「こんなものっ!!」
怖い人は日傘でまた弾幕を蹴散らした。でも生えてくる。私が消さない限り、生え続けるの。
さあ、どんどん蒔きましょ! 無意識の底に落ちるまで弾幕をばら蒔くのよ!
首を伝った水はもう乾いた。当たったところはまだ少し痛いけどね。
「うふふー! ふわわー!」
私は怖い人の撃つレーザーをふわふわ避けるの。もう無意識よ。頭は空っぽ。
次の弾幕のための溜めの準備が出来た。避けている内に時間が経っちゃった。
怖い人は息切れをしてるけどお構いなしなんだから!
「最後だ! いけいけー!」
最後は飛び出す弾幕。怖い人に負けないくらいのレーザーを出す。勿論、一本のレーザーの威力は劣っちゃうけど、何本も出せばきっとあの日傘みたいに出せる筈よ!
「うぅっ!」
私の出したレーザーは見事に怖い人に命中した。疲れもあるだろうから結構のダメージな筈!
「やった! ヒット!」
この嬉しさの余り、またマエリベリーお姉ちゃんの方を見ると、私の放つ弾幕が怖い人に当たったのを見て喜んでいる。目の前のお誕生日プレゼントを見てる顔だよ。だけど、その表情は一瞬で変わった。
「こいしちゃん! 前!」
マエリベリーお姉ちゃんがそう言ったから、私はまた前を見た。何だか、眩しい光があるけど、大丈夫なんだから! なんたって━━
━━━━━
大爆発が襲いかかったわ。何とか耐えてこいしちゃんがいた所を見ようとするけど、まだ風塵が舞っていて周りの風景が曖昧だわ。
こいしちゃんはあの人の撃った、今までで一番強力なレーザーをまともに受けてしまったわ。無事でいるかどうかもまだ分からない状態なのよ。
「こいしちゃん!」
蓮子の声だけど、やっぱり慣れなのかしら? 前まで感じてた違和感はいつの間にか消えていたわ。
そんな違和感と同じように風塵も消えていったわ。
「いない……?」
でもこいしちゃんは何処にも見当たらないわ。あの人なら分かるんだけど。
今は十一時四十七分五十二秒。凄い長期戦ね。疲れも酷いでしょうね。
私は終わったと思ったわ。あの人がこっちに近づく。と思ったら━━
「『サブタレイニアローズ』!」
「!!」
あの人の背後にはこいしちゃんがいたわ。しかも、凄い近くに。
こいしちゃんはスペルを唱えて、そこから沢山の薔薇を百発百中でぶつけたわ。衝撃波が生じて吹き飛んじゃいそうだったわ。
吹き荒れた風で私の目を強制的に閉ざされ、揺れるコスモスとこいしちゃんとあの人が見えなくなったわ。
状況も収まって、目を開けて見るとこいしちゃんがそこらを舞っていたわ。
「やった! 倒した!」
でも、戦いは終わりじゃなかったのよ。
活動報告で続きを書いたと書いたのに、続きが出ていませんでした。
すいませんでした。




