第一一四話 鴉の翼のような夜
「ここに居ないなんてどういう事よ!」
「落ち着きましょう、宇佐……ハーンさん」
「ごめんね……」
「総領娘様は悪くありませんよ」
「まさか連れ去るとはね」
私含め、五人は幻想郷にぽっかり空いた地底に続く穴を出た。出た瞬間、赤くなった光が目に射し込まれ、心が痛い。
さとりはここにメリーは居ないって言った。しかも、その理由が人探しのためって。丁度貴女達が来る十分前にはさとりの妹が連れ去って消えたって……。
「無意識探し……ね」
「中々難しい事ですね」
「その、結界の境目を見るっていうので何とかならないの?」
「境界はそんな簡単には出てきてくれないから……」
表で呆れている私がいる。裏は別にそんな事言うつもりはないのにと思う私がいる。
人探しをするってに苦労するものだね。困ったよ。
「うーん……」
皆が立ち止まっていて全く前に進まない。陽がもう西の彼方へ消えるっていうのに……。
メリーを攫った子は無意識を操って姿を消す事が出来るんだって。まるで道端の小石ごとし。見つかるかな?
陽も落ちて不安の風が過り始めた。
「このまま考えていても仕方ないですよ。進みましょうよ」
「そうよね。とにかく何処かに行くのよ」
「って言っても、飛ぶ気力がない。歩こっか」
「私もくたくたよ」
飛び続きだったり、戦ったりしたもんね。それは誰でも疲れる。
私達はゆっくり歩み始めたけど、エニーが立ち止まってしまった。
「どうしたの?」
「天狗? 鴉天狗と白狼天狗ですか? ……来る?」
風から読みとったのかな? 不思議な事を呟いている。天狗とか何とか。
「天狗となると、文屋くらいしかないわね」
「文屋?」
「ネタが尽きた新聞編集天狗よ」
「私がコーチする必要がありますね」
エニー……怖い。
新聞という言葉を聞くと暑苦しくなっちゃうエニーの目は燃えていた。
その火炎は吹き消された。まさか、本当に天狗だったとはね。
「あれが噂の外来人です!」
「本当ですか!? いよいよ会えましたよ!」
木と木の間から黒い点がみえる。その大きさは句点を越えていた。
「文さん! スピード上げすぎです!」
「大丈夫ですって! こんなスピード、すぐに落とせますから」
「もう、フラグにしか聞こえないのですが……」
黒い翼が生えた人と抱えられている人が凄いスピードで私達の近くの地面を滑り、砂埃を立てた。
「何か言いましたか?」
「いえ……何も。そんな事より、この砂埃どうにかしてくださいよ。目が痛いです」
砂埃が辺り全体の風景を消してて何も見えないけど、耳が働いてくれたおかげで声を聞く事が出来た。
「はいはい、分かってますよ。そーれ!」
誰かの合図と共に、砂埃が渦を巻いた。この風……あの合図をした人が?
「風が嫌がってます!」
「今回ばかりは許してくださいよ!」
エニーには風の悲鳴が聞こえていた。
突撃してきた二人のどちらかに言ったんだと思う。だけど、普通の人が聞いてもわけ分からない事なのに、何で分かったのかな?
嫌がる風はまだ渦を巻いていた。砂埃は上昇してばらばらに散らばって見えなくなった。
だけど、夜の暗い世界が続いているせいか、落ちてきた二人の姿が見えない。
「ふう、こんなものですね」
「あの……どちら様ですか?」
「あ、すみません。夜分恐れ入ります。私は射命丸文と申します。こちらは犬走椛です」
とても礼儀が正しくて印象がいい。多分こっちの人が新聞を書いているっていう人だと思う。
こんな人がネタの尽きている新聞を書いている人のように思えないよ。
「こんな夜中に何の用なの?私はあんた達に付き合う暇がないくらい忙しいの」
天子の口からは威張りが剥き出されていた。言っちゃ悪いけど、流石有頂天娘。
「別に争いはしませんよ。蓮子さんとマエリベリーさんが来たという噂を聞きましたからね、来てみたんです」
「な、何で私の名前知ってるの?」
私とメリーの名前を知ってる?会った事ないのに?
でも、新聞記者だったら変なネットワークを通したりして分かったりするのかな?
「風の噂とでも言っておきましょうかね」
企業秘密でしたか。知ってた、うん。
「それで。弾幕じゃなかったら何なのよ」
「特に何もありませんが、貴女が人助けとは珍しいと思ったので。私達にも何か出来る事はありませんか?」
これを聞いた途端、私は嬉しくなっちやったけど、隣では何やら愚痴っている。
「本当なの? いいの?」
「ええ。丁度ネタを探していたところだったのでね。マエリベリーさんがいない事情などを話してくれれば協力しましょう」
メリーがいない事を知ってる。流石って言うところだね。
エニーの名前を聞かないけど、それも何となく分かる気がする。だって、あの時、エニーを置いていってここに来たんだもん。
「ありがとう! じゃあ━━」
''かくかくしかじか''は省いて、鴉天狗の文と白狼天狗の椛に今までの道筋を整えながら話した。それを聞いた二人は協力すると言って夜空に消えた。
「よかったですね! 助っ人が来てくださって!」
「すぐ見つかるといいんだけどね……」
こんな真夜中みたいな夜。多分、さとりの妹が傍にいてくれているんだろうけど、妖怪って夜行性でしょ? 襲われたら人溜まりもないよ……安全な場所に居れば、また話は別だけど。
今……何時だろう?
ここ……何処だろう?
純粋な不安がすぐ傍を過った。
第七章、何話まであるのでしょうか……。
完結は来年になりますね。




