第一一二話 戦乱をただ見届ける
「あんた、なかなかやるものねぇ」
「そんな平然とした顔はどっから出てくるのよ……くっ」
比那名居さんは戦っています。私達の行く先を狭める敵達と戦っています。
確か、鬼である星熊勇儀さんと嫉妬してばかりいる水橋パルスィさんでしたかね。こちらもまた、大地震を起こした事に対しての怒りに包まれています。
あ。私は意識を失った後、すぐに取り戻しましたよ。しかし、意識を失う前の事は、ハーンさんである宇佐見さんに言われるまで、全く知りませんでした。
「天人だけが……比那名居一族だけが地震を起こせるなんて……妬ましいわ……」
怒っているのだと思います。難しい表現ですね。
「五月蝿いわ!気が散る」
「しかも、有頂天で跡取り娘だなんて……益々妬ましい!」
「パルスィ。妬む時間があるなら戦ってほしいね」
「わ、分かったわよ……」
ここで、何故比那名居さんだけが戦っているかご説明を致しましょう。
私達は洞窟の奥底である広いくて暗い平地に降り立ちました。比那名居さんと永江さんとホワイトロックさんの体力が限界に近いそうです。帰る事もありますし、仕方なく歩いてハーンの居る地霊殿へと向かう事になりました。
比那名居さんの言うには、降り立った所が丁度要石が埋まっていた所、との事でした。隕石が落ちてきたような穴が広がっており、このまま掘り進めばこの幻想郷の核が見えそうなくらい深かったです。
こんなに大きな要石を抜く事が出来るのは総領娘様しかいない、と永江さんが言いました。
比那名居さんと永江さん以外の皆さんは要石の大きさにびくびくしていました。しかし、止まっていられなかった私達は先へと急ぎました。
それで、改めて向かっていたところに星熊さんと水橋さんに出会せたのです。
予想通り、戦闘が起こりました。本当は永江さんやホワイトロックさんも参加するつもりだったのですが、比那名居さんは『自分の引き起こした事はちゃんと責任を取らないとね!』と、らしくない事を言い、二人の戦闘の参加を拒否しました。
「あーら。一人しか追加してないのに、もうダウンかい?」
「違うわっ! ちょっと怯んだだけよ!」
「ほら、なら頑張ってくれよ。そんな攻撃、痛くも痒くもないよ?」
永江さんによれば、比那名居さんの持つ緋想の剣は気質を見極める力を持っているそうです。その力を利用して、相手の弱点にする事が出来るそうです。
しかし、鬼は退治方法が分からない妖怪みたいなので、例え緋想の剣を使ったとしても倒す事は不可能だそうです。
では、どうしたら決着がつくのですかね?
「まだ私が本気出してない事、貴女は知ってた?」
「そうなのかい? 知らなかったよ」
「じゃあ、見せてあげるわ! うあぁぁぁぁ!!」
「くっ!」
星熊さんは振られた剣を片手で受け止めました。しかし、無傷ではいられないようで、手のひらに引かれた一直線の切り傷から血が滴りました。
これが緋想の剣の力なのですね。素晴らしいです。
「どうかしら? 痛い想いをされる気分は」
「いいじゃないか。久々にやり応えのある奴と戦えるよ。ふん!」
「危なっ!」
星熊さんはぶら下がっていた片手を拳に変えてぶつけました。しかし、比那名居さんはそれを避けます。
「隙ありよ! 妬ましいっ!」
「貴女は本当に一々五月蝿いわ!」
水橋さんは嫉妬の緑目で比那名居さんを睨みつけました。泣く子も黙るような恐ろしさです。
右に行けば鬼。左に寄れば嫉妬。逃げ場はありません。
「あー!! もうっ、めんどくさい!!」
比那名居さんは一枚のカードを取り出しました。一体何でしょうか?
もしかして、あれが宇佐見さん達が言っていた『スペルカード』というものなのでしょうか?
「スペル! 『全妖怪の緋想天』!!」
緋かった剣はより緋く染まり、オーラを放っていました。凄まじい圧迫感が感じられます。
「!? 皆さん、伏せてください! 死にますよ!」
「し、死ぬ!? どんなスペカなのよ!?」
「とにかく、伏せてください!」
私達は訳も分からず、地べたに伏せました。地底の地面は温かいですね。下に核でもあるのでしょうか?
そんな事を頭の隅で思っていたら、緋い光線が真っ直ぐ一筋に放たれたのが見えました。




