第一〇八話 天人助太刀
まさか、嫌われ者の居る穴の底に落ちたなんて思ってなかったよ。そう聞いた時、思った。
行かなきゃ。
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「長いですね……」
「本当だね……」
エニーの言葉に同感した。前はこんなに歩いたっけ? あ、落ちたから歩いていないんだった。
「宇佐見さん、秘力が長続きしてますね。仕様ですか?」
「仕様……なのかな? 私に言える事は、分からないって事だね」
「そんな言い方だったら、てっきり分かると思ったわ」
私は何故かメリーの後ろを歩いていた。秘力は切れてきているみたい。
「まだかな?」
私達は境界の中を歩いて三分。ずっと境目を歩いている事になるね。その境目は何の境目かな?私は現世と幻想の境目だと思うけど、こんなに長いんだ。
「あ、着くみたいですよ。先に光があります」
「本当だね。早く行こう!!」
「あっ、ちょっと待ってよ」
私達は光に向かって走り始めた。メリーは早くて追い付けなかったけど、光は徐々に近づいてきているのが分かった。
でも、光の先には闇が潜んでいたよ。
「きゃーーーー!!」
先頭を走っていたメリーが光の中へと入ると、悲鳴が出された。その理由は何となく察していた。
そのまま私達も光に飛び込んだ。
「また、下がないっ!! うわーーーー!!」
「ちょ、ちょっと!どういう事ですか……って、わーーーー!」
光から抜け出したら、その先は闇だった。しかも、再び。目を強く瞑って下を見ないようにした。
私達も悲鳴を上げながら下へ落ちる筈だった。メリーと一緒に落ちる筈だった。だけど、重力に押されるような感じは消えた。その代わり、誰かに捕まっている感じがした。
「ちょっと! あんた達大丈夫!?」
「総領娘様! まだもう一人います!」
「うっそ!?」
そんな声がして、助かったのだと思い目を開けてみた。
空中で止まっていた。
「はわはわわ……な、何ですか?」
隣には、私と同じ状態のエニーがいた。私達、誰に捕まっているんだろう?
「ちょっと! あんたこれ持って!!」
「はっ!? ちょ、ちょっと何よいきなり!」
「取り敢えず持て!」
「わ、分かったわよ」
私を持っていたと思う人が違う人に私を預けて下へと落ちていった。
「あ、貴女達は……誰ですか?」
ようやく落ち着いたエニーが聞いた。
「私は竜宮の使いである、永江衣玖と申します。今、もう一人の方を追いかけていらっしゃったのは天人の総領娘……比那名居天子様です」
「私はレティ・ホワイトロックよ」
あれ……ちょっと待って。今ここに居るのは四人。私とエニーを抱いているのはあの二人。だとしたら、メリーは……?
「メリーは! メリーは何処に居るの!?」
「恐らく、貴女の言う''メリー''さんは下へ落ちていきました……今それを総領娘様が追いかけております」
「そんな!! メリー! メリー!」
私は捕まってて動けない体をじたばたさせた。メリーが落ちたなんて、助かるわけがない!
ここが幻想郷だとしても、この人達みたいに飛べるわけじゃないんだ!最初は何故か浮いたけど、その後から全く……!!
「暴れないで! 貴女だけじゃなくて私も一緒に落ちるわ!」
「そんな事言ったって!」
「とにかく、落ち着いて下さい! 貴女のお気持ちも分かりますが、ここは総領娘様に任せましょう!」
「宇佐見さん!!」
「!!」
エニーの言葉で、やっと私は正気戻れた。
「……落ち着きましょう。この方達のおっしゃる通りですよ。暴れるだけ無駄です。追いかけた方の帰りを待ちましょう」
「う、うん……エニーごめん。ちょっと……私……」
「分かりました。事情説明は私がちゃんとしておきます」
秘力と体力の限界がきた。エニーはそれを分かってくれたので、ゆっくり、意識を遠くした。
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「あ、大丈夫ですか? 宇佐見さん」
私は意識を元に戻して、目を開き始めた。いつの間にか仰向けになっていたみたいで、エニーは私の視界に覗き込んでいた。
そんな心配してくれたエニーに、最初に放った言葉は、
「私はマエリベリー・ハーンよ、エニー……」
完全に秘力が底に達しちゃった。おかげでこの有り様だよ。恥ずかしい。
「あー、すいません、ハーンさん」
「本当に人格が変わってた」
誰が言ったかは分からなかったけど、多分、メリーの名前を聞いて思ったのかも。
「忘れているかもしれませんので、自己紹介をしましょうか」
「え、ええ。ありがとう。ここは?」
「天界ですよ」
私はエニーの差し出された手を握った。エニーも私の手を握った。すると、簡単に立ち上がる事が出来た。
……天界?
「おはよ! 私は比那名居天子よ。天人なんだから絶対に覚えておきなさいよ、マエリベリー」
黒帽子……私の帽子にそっくりだ。ただ、鍔の上にのかっている桃は何?
「私は永江衣玖と申します。竜宮の使いをやっております」
こっちも黒帽子? 黒帽子に何か意味があるのかな?
「私はレティ・ホワイトロック。被害者よ」
「被害者?」
誰にどんな事をさせられたの?
そんな事など、すぐに分かった。
「ちょ、あんた何言ってんのよ! 人が落ちてんのに、持ったままだったら助けられないでしょ!」
最初に私を持ってくれたのはこの人だったんだ。確か、天子って言ってたかな? それでメリーを助けるために、この人に私を預けたんだね。
あれ……メリーは?
「どうせ天人くずれの有頂天さんの事なんだから、自慢するためなんでしょ」
「あんた言ってくれたわね。こうなったら私の緋想の剣で━━」
「はいはい。総領娘様も貴女様も。話が進まないので喧嘩はそのくらいにしましょう」
衣玖……だったっけね。おかげで、二人の争いになりそうだった喧嘩は抑えられたよ。これで話しやすくなった。
「あ、あの……蓮子は?」
「ん? 蓮子……あの人間の事? あいつは……」
天子が俯いた。この場にいないって事は……! そんな筈、あるわけないよ!
「あいつは、地底に落ちた。無事でいてくれている事を願うけども、あそこは嫌われ者の妖怪がわんさか居る噂だからなー……」
「何で追いかけなかったのよ」
反射的に言ってしまった。仕方がなかったよ。親友の中の親友だもん。地底ってなんだかよく分からないけど、何が何でもいなくなられたら困るよ!
「単独行動は命取りだから……」
「わー、まともじゃない奴がまともな事言ってるわー」
「く!こ、これから行こうじゃん!!」
その言葉を聞いて飛び上がりたい気分になった。
「一緒に来てくれるの?」
「勿論じゃない! 困っている人が目の前にいるのに、置いていくのは嫌よ!」
嬉しい事だよ! 天人って言うんだから、強いんだろうね! 心強いよ!
「じゃあ、お願いします!」
エニーがお辞儀をして嬉しそうにした。エニーも同じ思いだもんね!
「じゃあ、私は失礼するわー」
寒気で溢れているレティはそのまま帰ろうとした。だけど、それを天子は許さなかった。
「待ちなさい! あんた」
「な、何よ! ちょ、痛い!」
天子は逃げようとしたレティの肩をがっちり掴み、逃げられないようにした。凄く痛そう。流石天人って言うところなのかな?
レティは掴まれた手を振り解こうとして、じたばたした。
「あんたも行くのよ!」
「何でよ! この事件、私と全くの無関係じゃない!」
「全然無関係なんかじゃないわよ。貴女も関わっているわ!」
「何でそう言い切れるのよ!」
「だって、私の事を手伝ったわよね? あの時……」
天子は凄く怖い顔をしてレティを睨んだ。今のレティは蛇に睨まれた蛙だね。
「そ、そこを突くのは卑怯よ……」
「よし! なら決まりね! 早速行くわよ!! マエリベリー! エボニー!」
反撃出来ないレティは天子計画の道連れになってしまった。何か悪いね……。
「え、ええ!」
「分かりました!」
「じゃ、二人共私に捕まりなさい!急降下で突っ込むわよ!」
「分かりました、総領娘様」
「ジェットコースターは苦手ですって……」
「何で私まで……」
私達、五人はメリー探しにへと、地深くにある地底を目指して進んだ。
無事でいてね、メリー。




