第一〇六話 鳳凰の風起こし
「あー……えーと。わけ分からない事言っちゃってごめんなさい」
「いや! 大丈夫だよ!」
暫く経って、やっと話す気になれた。
鳳凰が言った言葉の予測はたった。ただ、何でそうなるのかが分からないんだけどね。
「そっか、よかった。それで、帰り道の事なんだけど」
そうだった。私達、帰らなきゃいけないんだった。早くしなきゃ。
「どうやって帰るの?」
メリーの言葉ではっとして周りを見たけど、辺りは闇色。境界の中は黒いのが多いからあったとしても同化して、きっと分からない。
「簡単だよ。切り裂かれた道を見つけるんだよ。それまでの道のりが大変なだけであって」
「簡単じゃないじゃん……」
見つけるのは簡単でも、それまでが難しかったら難しいに決まってるじゃん。
「じゃあ、そんな君達にヒントを与えようか」
鳳凰はそう言って大きく羽ばたき、大きな風を起こし私達を叩きつけた。
「ちょっと! 何処に行くの!?」
私は鳳凰が風を吹き付けながら上っていくのを見た。ヒントを与えると言いながら逃げるのら許さないからね!
「ちゃんとヒントは伝えておいたから、後は頑張って!」
そのまま見えなくなった鳳凰。何も言ってないよ!?
「ちょっと!? ちょっとぉぉぉ!?」
怒りたい気分である。誰かに当たっていい?皆に当たっていい?
そんな怒りで溢れていたから、エニーの表情は認識出来なかった。
「宇佐見さん……ハーンさん」
エニーが私達の名前を呼んで、やっと分かったよ。鳳凰の目的が。
「何か聞こえた?」
「はい! 三つあります!」
風だよ。鳳凰が起こしたのは風だった。だから、風の声を聞く事の出来るエニーには風の声が聞こえた筈なんだよ。
「何なの?」
「まず一つ目は『他の目に映るもの』」
他の目に映るもの……私達の事かな?
「二つ目は『夜空に映るもの』」
私は空を見た。疎らの星、一つの月が浮かんでいるのが分かるわ。今のメリーの瞳……?
「最後の三つ目は『現世の己が居た筈の場所』」
現世の己が居た筈の場所? よく分からない話だね。
でも、場所って言うんだから、これもメリーの瞳だね。
「です!」
「空に映るもの……」
星と月をずっと見続けていたメリーは首を痛めていた。上の見すぎには注意だよ、メリー。早く帰りたいのは分かるけども。
「どうだった? メリー」
「何故か月が宇治駅前を示しているわ。時間は八時四十八分二十九秒」
「宇治駅……? 何で?」
ここは鳳凰の住んでいる場所なんじゃ?全く違う場所なのに現世の場所?
「知らないわ。私も吃驚したもの」
ま、そうだよね。知ってた。
「そっか。それでぇ、最後の『現世の己が居た筈の場所』。分かるようで分からないなー」
「普通にそのままで解釈でいいじゃないのですか? それで駄目でしたら他を当たりましょう。取り敢えずは行動ですよ」
エニーの発言は正しいと思う。何せ今、夜だし、何も居ないとは限らない。周りに妖怪やら何やら居たら大変だよ。私達食べられちゃうよ。
「そうだね。じゃあ……本来居た場所、鳳凰堂を探そうか。メリーよろしく」
「はいはい」
神界っぽいで結界探し。いつもと違うっていうのもいいね。
メリーは三歩前に出て、また空を見上げた。
「ここはー……同じく宇治駅前ね。八時四十九分三十秒」
「でも何故宇治駅前になるのでしょうか? 私達は鳳凰堂から来た筈ですよね?」
「さっきの風でいつの間にか飛ばされてたんじゃない?」
取り敢えず適当に言ってみたんだけど、何故かエニーは納得してしまった。
「……鳳凰堂はあっちよ。行きましょ」
「どうして分かったの?」
「貴女よりは周りを見るからね」
偉そうにしているメリーさんが地味に怖く見えた。夜空から見下ろしてくるヴァンパイアみたいにね。
「うわー……きついお言葉」
私とエニーは先々と進むメリーについていったよ。メリーはまるで私がやるように、ぶつぶつ何かを言いながら歩いていた。
まさか、知らない内に秘力が? となると、私ももうすぐだね。
「……着いたわ。丁度ここよ」
意外に維持は出来てたみたいで、口調はメリーだった。
「ここ?」
メリーに追い付いて傍に寄ってみたら、ちょっと嫌な予感がした。
━━がたっ
「「「えっ?」」」
下っ! 下がっ!? ないっ!!
前にもあったような気がするけど、いつの時だっけ? そんな事より下に穴がっ!
私達は勿論、落ちた。
「ひゃっ!?」
「ぬぁっ!!」
「あわぁわ!!」
結構落ちるかと思ったけど、地面が近かった。
「こっここは!?」
「ええとー、鳳凰堂の……外?」
「そう……みたいね」
風が当たってくる。鳳凰の本当の風なのかな。
「ん……明日行こうか」
「木曜なのに?」
「大丈夫だよ! 夜に行けば!」
「また楽しみの始まりですね!」
「もう、戻ってもいいと思うんだけどなぁ」
「まだ時間かかりそうな気がするわ」
「えぇー……」
鳳凰の風はギャップがありすぎた。ああ見えても、いい事しているね。




