第一〇話 少女達はおもかる石に何願う
千本鳥居を抜けたら奥社秦拝所に着いた。雑草だらけだけど。
「うわぁ……こっちもこっちで嫌だなー」
鳥居を抜けた瞬間、眠気は覚めたものの━━
━━暑い
その暑さは初夏にしては異常なほど。カフェテラスにいた時はそうでもなかったけど、稲荷山は暑い。何がこうさせるのですかぁ。
「仕方ないじゃない。夏だし」
「うぅ……」
「あっ、そう言えば」
メリーが何かを思いついたみたい。
「どうしたの?」
「面白いものがあったなって。こっち来て」
「う、うん」
私は糸に引っ張られるかのようにメリーの後を追った。追っていくうちにメリーの行先に目星がついた。
「ここよ」
「灯籠?」
そこには二つの灯籠が置かれていた。やっぱりこれも汚い。
「灯籠って言えば灯籠だけど立て札を見て」
メリーが指差した方向には蔓が沢山巻き付いた立て札が立てられていた。そこには読み辛いけど何かが書かれていた。
「うん? えーっと……おもかる石? ……へぇー」
立て札にはおもかる石と言う石の扱い方が書かれていた。石灯籠の前で願い事を祈念してその灯籠の空輪(灯籠の頭の丸い石)を持ち上げて、予想していた重さより軽かったら願いは叶い、重ければ叶わないという。
「前やった時は想像以上に重たかったわ……今回は同じ事を祈念しようかな」
「んー……」
私は悩んだ。今叶って欲しいこと。
夏の朝の日射しが熱くて、私の帽子に火が付きそう。
「決めた! メリー、一緒に持ち上げよう」
「ええ」
私達は二つの灯籠に並び祈念した。その祈念が消えないうちに持ち上げる。
「いくよ、せーのっ! ……おぉ、軽いじゃん。やった」
「うぅっ……重い」
そのとき空に少し掛かっていた雲が一気に大きくなった。雨までは降らなかったけど、暑くて眩しい日射しが急に暗く染めた。
「あれ? 急に曇ったわね」
「本当に願いが叶ったよメリー!」
「えっ?」
まだきょとんとしているメリーのために補足説明をし始める。
「実は私、あの熱いのを雲で隠して欲しいって頼んだんだ。そしたらどうだろう! 本当に隠したよ!」
「えっ!? そんなことあるの? 本当に不思議ね」
「でしょ? 私も吃驚しちゃったよ」
最初はちょっと半信半疑だったけど、まさか叶うとは思ってもみなかった。
「メリーは凄く重かったみたいだけどどんな事願ったの?」
「ひ、秘密よ!」
「えー教えてくれたっていいじゃん」
私は甘えてメリーに駄々をこねる。だけどメリーは頑固だった。お陰様で一発喰らっちゃった。
「痛い……」
「ごめん、痛かった? ついうっかり━━」
「''つい''でやっちゃいけないって! うぅ……」
私は喰らった所を擦る。本日で二発目だ。一発目は何処かって? カフェテラスで足を踏まれたんだよ。理由は遅刻したから、だって。
嫌だなー、そのくらいで足を踏むなんて。
「さ、さて。次行きましょうか!」
「何処に行くの? そのらへんは観光案内者メリーさんにお任せするよ」
「んー。ちょっと寄り道するけどいい所あるわよ。こっち」
私はまたメリーの後を追って、次の目的地へと鳥居の参道を通った。
━━━━
「おっ? なんか曇ってきたね」
空を眺めれば雲が太陽を隠していっている。
「おもかる石……? でもあれにはもう力は……」
雲は白く、雨は降りそうになかったが空全体に雲が掛かっている。
「なんか凄い人が来ているみたいだね。会うのが楽しみだ!」
少女はまた消えてしまった。そんなことなど秘封倶楽部には一ミリも知らなかった。
行ったことがある人は知っているであろうおもかる石。
私は行ったことがないんですよね……(苦笑)
行ってみたいです!