第一〇一話 永遠の螺旋
※今日も地文地獄です。
「ちょっと! ちゃんと謝ったって言っているでしょ! 来ないでよ!」
急に叫び声から始まったのはわけがあるよ。叫びたくて叫んでないから!
話を五分くらい巻き戻して。早い?でも、本当に五分内の出来事なんだよ。
あの足音はさっきバケツを渡してきた、気取りすぎな女性だったんだ。一回目来た時は薔薇への怒りだったけど、二回目では私と溢れた深紅のペンキへの怒りだった。その怒りは既に噴火状態。冷やす事も困難だった。
その火山こと気取りすぎな女性は『なんて事をしてくれたの! 私の大切な赤薔薇を!!』と、さっきよりも強く、悲しく怒鳴った。その怒り面は赤よりも紅かった。
気取りすぎな女性は言葉かどうかも分からない事を再び怒鳴って言った。すると、綺麗だった筈の薔薇園は全て消えた。景色は暗くなり、棚が沢山あって机が一つの部屋に変わった。
目の前にいた女性も姿を変えてしまった。その姿は━━
「トラン……プ?」
無数のトランプが積み重なり、女性の姿をしていた。
「嫌な予感しかないけど……」
この後の事は多分、皆にも分かると思う。
非科学的なトランプは宙に舞い、薄い紙一枚一枚の矛先は全て私に向いていた。
「ええと……ご、ごめんなさいっ!!」
トランプは人が謝っているにも関わらず、矛先を変える事はなかった。そして、そのままトランプ達は襲ってきた。
これが今までの経路。五分内でもおかしくないでしょ?
「あーーー!!」
今でも追いかけられて結構きつい。今は人前じゃないから意識はこっち。維持しなくて済むけどその変わり疲れもこっちになるよ。メリーが前に体験した事と全く同じ。それにメリーの体って動きにくいからその分きつい。
そういえば、メリーが言ってたには襲われた夢から覚めるって言ってたよね!? 全然話が違うっ!!
「くぅっ……は!」
下げて走っていた顔が上がり、景色は棚しか見えないかと思ったら、アンティークな扉が目と鼻の先に待ち構えていた。
「あーー!体が思うように動かないってぇぇ!!」
足が縺れて転けそうになったけど、自分の体で慣らしていたのか、何とか立ち直れた。
扉まで全力疾走で走って、ドアノブを素早く回した。鍵は必要なく、扉は素直に開いてくれた。そして、扉が素直に開いた事を無意識に感謝し、体を引っ張らせてようやく部屋から出れた。
私は正面を見ずに、後ろを振り返った。直後に釘が勢いよく木にぶつかる音がする事を予想していたけど、扉からは何も鳴らなかった。
そしたら、扉の下の一ミリも満たない狭い隙間からトランプの裏に印刷されていた紫と黒のチェック柄が見えた。
「まさか……だよね?」
そのまさかだった。紫と黒のチェック柄の紙は隙間を出ると、ハートのクイーンを表に、こちらを睨み付けた。
トランプは徐々に増えてきた。ハートのエースからダイヤのキングまでのトランプが何枚も何枚もあった。数える事なんて、到底できないよ。でも、これほど襲ってくる物の目をしっかり見た事はない。
トランプ達は再び紙の刃をこちらに向けてきた。
「ですよねぇぇぇぇ!!」
私は正面を向いて走り出した。だけど、地面を蹴るという感覚じゃなくて、足を持ち上げる感覚だった。
「階段って酷いぃぃぃぃ!!」
そう。階段だよ。階段上りはきついよね。特に野球部だとか、サッカー部だとかは何回も経験があるんじゃないかと思う。
私は一、二回目やっただけなんだけど、もう二度としたくない気分を無理矢理味あわされた。
でも、こんな時は嫌々言っていられない。とにかく、階段を上るしか道はない。
だけど、嫌なものはすぐに降りかかってきた。
「わわわわ!!」
階段上りの試練があるのに螺旋は駄目でしょ! ただでさえ、夢から出られないって言うのに!
私は体の向きを変えつつ、スピードを落とさないように走った。螺旋でスピードが落ちるのは向こうも同じだと思うから大丈夫だとは思うけど。
この螺旋階段の最終段は何処にあるんだろう? ないとなったら、私は何処まで上り続けるの?
目の錯覚でよくある、上り続ける螺旋階段をモチーフにしています。永遠だね、うん。
蓮「私を殺す気!?」
極「お話だから仕方ない」
蓮「うぐぅ……酷い」




