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秘封倶楽部の天気は現世のち幻想  作者: だみ
第七章 心狂硝子 ~ I Am You,You Are Me
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第一〇〇話 味わえない事 〜 蓮子編

※地文地獄です。

 皆は『鏡の国のアリス』の事は知ってる? 題名は知ってても内容は知らないっていう人が多いと思う。

 因みに、『不思議の国のアリス』とは違うんだよ。登場人物も内容も。

『不思議の国のアリス』は白兎を追いかけて穴の中に落ちてトランプの国に行くんだけど、『鏡の国のアリス』は自らチェスの世界に紛れるんだ。

 そんな事でいきなりだけど、今、私は何処に居るか分かる?

 おっきなチェス盤の上だよ。

 あ、いきなりそんな事言っても分からないよね。説明をしようか。単刀直入に言えば、アリスの世界に居るんだ。夢でね。

 きっとこうなる時があるんじゃないかって思ってうずうずしてたんだ。もしかしたら、メリーの能力の事、分かるかもしれない。いや、知りたいんだ。

「チェスかぁ……」

 でも、今はそんな事考えている場合じゃないんだよね。周りにはチェスで必要な筈の、ポーンやクイーン、キングやらがない。ただ立っているだけ。

 でも、ずっとそこに居られるわけじゃなかった。

「うわっ!!」

 誰かに強く引っ張られる感覚を感じたんだ。誰だかは分からなかったけど。

「ちょちょちょちょっと!? 落とそうとしてるよね!! っていうかしてる!!」

 強く引っ張られていたから止まる事が出来なかった。そして、そのまま━━

「ぐあっ!」

 落ちるかと思ったけど、違った。周りは植物に囲まれて、引っ張られる感覚は消え失せていた。

「ここは……?」

 またここでも立っているだけになった。豪華な貴族が住んでいそうな薔薇園だった。沢山ある薔薇はどれも美しい深紅の中の深紅に染まっていた。だけど、その薔薇の中に一本だけ純粋に染まりすぎているって言ってもいいほどの白薔薇が華やかに咲いていた。周りが深紅薔薇だという事もあって、より華やかに見える。

 ぼーっとして白薔薇を見つめていたら、後ろから草を踏む音が聞こえた。



 ━━━━



「むらなく塗る、か」

 私は深紅のペンキがなみなみと入ったバケツと赤みが少し残っている刷毛を持っていながらも、あの真っ白な薔薇を見ていた。そして、はっとして刷毛にペンキをたっぷりとつけた。縁から溢れそうなペンキは刷毛を入れても、表面張力が働いているおかげで溢れる事はなかった。

 私がそんな物を持っている理由?それは、あの足音が鳴った後、いきなり気取りすぎな女性が『あーー! なんて汚ならしい薔薇が咲いているのかしら!』なんて言ってから、『貴女、何処から来たか分からないけども、これであの薔薇をむらなく塗り潰しなさい!』って怒鳴ってからね。私にペンキのバケツと刷毛を持たせて何処かに行っちゃったわけだよ。だから、そのままにしておけず、薔薇を赤くしようとしているからなんだ。

 仕方なくも綺麗な白の服を深紅の服に着せ替えしていく。白の方がいいのにな。

 丁寧に塗る事、十分。白薔薇は深紅薔薇に早変わり。勿体ない気もしたけど。

 今、思うと夢って感覚がないね。メリーだから? それとも私が現実に似た世界を作ったから? でもそれなら、これから起こる事が分かっててもいい筈なんだけどな。頭を捻らせてもよく分からなかった。

 今の私でもメリーの事を知らないんだ。どうしたらいいの?

 深く考え込んでいたら、バケツの取っ手を握り締めていた手が解けてしまった。

「あっ!!」

 叫んだ時には、ペンキはもう全体に広がっていた。横になったバケツからまだまだ溢れ出ている。

 深紅のペンキは広がって、広がって、芝生を赤く埋めつくそうとしていた。

「ど、どうしよう!」

 バケツが落ちてすぐさま後ろに下がったけど、靴には深紅のペンキがついていた。

「夢ならばなかった事に……出来る?」

 無理と分かっていても、やらないと落ち着かない。瞑想をして、赤は消えて緑の芝生がある事を考える。

 充分瞑想をした後に目を開いても、深紅のペンキは芝生を踏んで停止していた。

「駄目かぁ……どうしよう」

 私は転がっていたバケツを取って、取り敢えずはと溢れたペンキを掬った。上手く入ってくれないけど、何もしないよりましだと思って、掬い続けた。

 集中していたから気付く事が出来なかった。後ろから、再び草を踏み潰す音が鳴っていた事を。



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