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秘封倶楽部の天気は現世のち幻想  作者: だみ
第七章 心狂硝子 ~ I Am You,You Are Me
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第九九話 不思議と鏡の主人公

「アリスぅ! 誤報だってねぇ」

 何処かの呑んだくれが言う言い方ね。何処か似ているかと思ってたら、これだったわ。

 私達の歩いていた道の先には、木もない開けた場所でそこに一人の少女がぽつんと座っていたわ。

「マッドハッター、後ろの人達は?」

「侵入者の人達だけど?」

「ひっ! 何で連れてくるんですか!」

 そうなるわよね。自分が敵だと思っていた人が自分の下へと来たら、誰だって焦るわよね。っていうか抵抗するわ。

「いやいや、それが違うみたいなんだ」

 笑いながらも的確に伝えるのって難しいわよね。にやにや笑っても、言葉は落ち着きがある。

 うぷぬしは言葉に詰まったり、噛んだりしたら何故か吹き出すんだけど、流石にそれはないわよね。

「違う? 誤報っていうのはその事なの?」

「あ、聞いてたんだね」

「大きな声で言ったじゃない。''誤報だってねぇ''って」

 ''誤報だってねぇ''のところを真似して、強調して言ったわ。マッドハッターの声より高い声は一生懸命頑張って言ったおかげでそれっぽく聞こえたわ。

「それは知ってた。知ってたけど、聞いてたとは思ってなかったって話」

「そうなの。で、そんな話はまた今度よ。重要人物が待っているじゃない」

 上から目線になるけど、切り替えが上手ね。何処かの誰かさんとは違って。

「はいはいはい」

「''はい''は一回」

「はい」

 いつか前に聞いた事のある台詞は置いて、早く先に進みましょうよ。

 心で愚痴って会話が終わるのを待ったわ。何だか、凄く関係なさそうなんだけど。

『調子はどうだい?』とか『やっぱりアリスは可愛いねっ!』とか『ま、僕の方が格好いいけどね』とか、意味合いが全く通じないマッドハッターの声は次第に聞こえなくなってきたわ。

 そろそろ蓮子の秘力効果が切れそうね、エニーは遠い目になっていないかしら?と考えながら空を見ると大変な時間だったわ。

「うわー……もう八時……」

 しかも丁度よ。何でここまで話したか分からないわ。ネタが尽きないわね。それとも同じ事を何度も繰り返していたりして。

 あれ、でもお茶会の時、ドロマウスが六時って言ってたような。

「は! ちょっと、マッドハッター! 今何時よ!」

「私の時計はいつも六時さ」

 あぁ、だからね。壊れてたらそうなるわね。

「あー……忘れてたわ。貴女達は今何時か知ってますか?」

 ずっとマッドハッターと向き合っていた彼女はようやくこっちを向いてくれたわ。何分待った事か。

「今は八時四十二秒よ」

 時間は早く感じる時、遅く感じる時があるわよね。あれはねジャネーの法則による『人が感じる時間の長さは、自分の年齢に反比例する』っていう現象によるものなのよ。まだ話したいけど、長くなるから止めておくわ。

「そんなに細かに言うの? 不思議な人ね。あ、私はここ辺りの土地の女王をやっている、アリスよ」

「よろしくー」

「よろしくお願いいたします!」

「よろしくね。それで、何故私達を襲ったのですか?」

 女王様というのはスルーしないと本題になかなか入れないわ。私達だって、ただここに来ただけじゃないんだから。事情があるのよ。事情が。

 不満が顔に出たのか、私の口は尖っていたわ。

「すいません。今、反対側の土地の軍との争いの真っ最中なので、今の私に邪魔が入ると困るのです」

 アリスは腕に抱えていた鏡をぎゅっときつく、ほどけないように持ったわ。

「それは?」

「これ?これは心狂いの硝子()、別名心狂硝子(しんきょうしょうし)。その名の通り、心を狂わせる鏡よ」

「しょうしとは硝子の事でしょうか? 鏡なのに何故?」

 確かに硝子って''しょうし''って読むわね。普通はないけど。

「ええ。そうなのよ。その理由わね━━」

「ちょっとごめんね。このままいくと私達の事情が言えないから、先にそっちからいいかな?」

 蓮子が不思議な話を打ち切るとは珍しいわね。

「え、ええ。いいけど」

「じゃあ、言わせてもらうよ。実は、かくかくしかじか……」

 説明のめんどくさい省略は無視して、さっさと先に進みましょう。うん。

「へー……そんな事が……私の考えでは、多分、心狂いの硝子のせいだと思うわ」

「それ、本当?」

 多分となるとより疑わしいわね。可能性はなくはないけど。

「でも、その夢に鏡が出てきたんでしょ? だったら可能性は大きいわ」

「じゃあ、その鏡でどうにかなるの?」

 蓮子はアリスの持っていた鏡に指を差したわ。確かに心狂いの硝子って言ってたわね。もしかして、戻れるの? 何だか嬉しいような、勿体ないような気持ちだわ。

「これじゃ多分無理。種類が違うもの」

「えっ、種類があるの?」

「ええ。これは闇と光の鏡。闇を光に変えて、光を闇にする鏡よ」

「私達のは?」

 そして、ここにその鏡があってほしいわね。あってほしくないっていう気持ちもあるけど。気持ち悪いって言っているけど、便利なのよ。この()

「んー……聞いただけでは分からないわ。もしかしたらここにはない鏡だったりするし、貴女達の世界の方にあるかもしれないし、名も知れない世界にあるかもしれないわ」

「つまりは、何の鏡が私達を変えさせたのか分からないっていうわけね」

「まあ……そうなるわ」

「そうかぁ……」

 皆肩を落としちゃったわ。こんな上手くいかない時もあるのね。

「ごめんなさい。実際に鏡に貴女達を映すのもいいけど、危険だからやらないわ。本当にごめんなさい」

「別を当たらなければなりませんね……」

「うーん……ヒントも聞いたし、帰る?」

「そうね。貴女、戻り方知ってる?」

「貴女達が何処から来たか分からないと、何とも……」

 分かってたわ。分からないふりをしてたのよ。

「そうよね。えっと? かくかくしかじか……」

 本日二度目ね。うぷぬしも大変ね。文系大嫌いな十五歳以下なのに。

「なら、あの道を真っ直ぐ進んだらいいわよ」

「そんなに簡単に? 本当に大丈夫なの?」

「ええ。そしたらあの小部屋に着けるから」

 普通ね。蓮子もエニーも、戻り方とかってもっと複雑かと思ってたでしょうね。

 空は八時二十分十三秒よ。そろそろ帰りたいわ。

「そう。なら早速行こうか!」

「あ、あの! イートミーパイは持ってますか?」

 私達が進み出そうとしたら、アリスがそれを引き止めたわ。私達はアリスに背を向けて歩いていたから、振り向かないといけなかったわ。

「イートミーパイ? あ、エニー持ってる?」

「ちょっと待っててください。……あれ?ありませんねー。確かに持っていた筈ですが……」

 エニーはいつも持っている斜め掛けバッグを漁り始めたわ。それだけ漁っても見つからないという事は、絶対になくしたわね。

「そうじゃないかと思って予め作っておいてたのよ。はい、これ」

 アリスはわざわざこっちまで来て、三つのパイを差し出したわ。''Eat Me''のメモはないけど、きっとイートミーパイでしょうね。食べてあげるから待っててね。

「全部食べるくらいが丁度よ。残さず食べなさい」

「そんなに不味いの?」

 確かにアリスのその言いぶりは不味そうな雰囲気よね。疑うのも分かるわ。

「どうでしょうね」

「はい、不味いんですね」

「不味いなんて言ってないでしょ」

「まるで''不味いですよー''みたいな言い方だからそう思うの」

 何? 二人とも、今日初めて会ったばかりなのよね? なのに友達みたいな関係作っちゃって。無理しないの。

「だから分からないわって言っているのよ。早く行って」

「はいはい」

 私達はアリスの適当な見送りを後にし、前に進んだわ。あんまり探索出来なかったけど、あまりにすると暗闇の中で迷子になっちゃうわね。

「アリスさんって、ハーンさんに似ていましたね」

「そう?」

「言い方も素振りもそっくりでしたよ」

 私にはそう見えなかったわ。

「似ている事くらい、あるわよ」

 こう、理由付けしておいたわ。蓮子にも突かれそうだし。

「あ、そろそろ秘力切れるかな?」

 分かるのかしら?まさか電波ってところまで流されてる?

「もうとっくに切れているでしょ」

「そうかもね」

 私達は蓮子の秘力切れを待ちながらも前に進んだ。あの扉が見えてきたわ。その扉を蓮子が開けて、小部屋の中に入ってからイートミーパイを全部食べたわ。単なるラズベリーパイな味だったわ。

 元の大きさに戻ったならば、後は真っ直ぐ帰るだけよ。早くゆっくり休みたいわ。



極「メリー、人のプライバシーを勝手に言わないの」

メ「あら、ごめんなさいね」

蓮「何でメリーだけは説教をしないのかな?」

極「エニーにもしないよ」

蓮「いや、そういう事を言いたいわけじゃないんだけど」

メ「それほど気に入られているのよ」

極「流石!メリーは分かってくれるね!」

蓮「分からないなぁ……」

極「ま、そんなに落ち込まない落ち込まない、蓮子。あ、そろそろ就寝時間?早く寝たらいい事あるよ、蓮子」

蓮「何となく分かった。じゃ、私はこれで失礼」

メ「私も失礼するわ。お休み」

極「お休みー」

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