第九七話 飲み込まれたい奴、食われたい奴
「ん、この音は?」
「どうかしたの? マーチヘア」
「遠くの方で誰かが浸入したみたいだよ」
「こんな時に……」
一人の少女は一つだけの鏡を持っていた。それも、とても大事そうに。
「じゃあ、よろしくね」
「分かった」
一匹の兎は何処かへと消えてしまった。
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「ドリンクミーリクイドとイートミーパイですか……やはり、完全に鏡の国ですかね?」
私達は神界の鏡を潜って、どんどん先へ進んだ。だけど、いつの間にか小さな部屋に閉じ込められていた。
「じゃあ、実際に試せば? メリー、よろしく」
「何で私なのよ」
「ほら、物は試しって言うじゃん」
「それが何で私なのかって言っているの!」
十人で窮屈になりそうな小さな部屋の真ん中に丸いテーブルがある。その上には''Drink Me''と書かれた紙が貼られている液体の入った小瓶と、''Eat Me''と書かれた紙の上にパイが置かれていた。真ん中には花瓶に差された赤の薔薇と白の薔薇がある。上品だね。
薔薇が差された花瓶の傍には普通の鍵が置かれていた。
「いちゃいちゃするのはいつも通りなのですが、心がいつも通りじゃないと、本当に気が狂いそうになりますよね」
そっか。秘力の効果が消えて、メリーになったんだ。ま、このままでもいいけど。……今はね。
「本当よ!」
これは本音だよ。っていうか、メリーも言うと思う。
「で、どうするの?」
「扉を開けるにはドリンクミーリクイドを飲まなきゃいけませんよ?」
この部屋には人間は誰しも入れない、新たな世界に通じる小さな扉があった。入るためには小さくならないといけない。だから、飲まなきゃいけなかった。
そういえば、皆は知っているよね?不思議の国のアリスと鏡の国のアリスの事を。相当有名な話だから知らない人はいないと思う。
「じゃあ、皆で飲もう! いくよー!」
「あー! ちょっと待ってください!」
「何?」
「鍵があるのですから持っていきましょう。後、イートミーパイもです」
「そうね……置かれているのだから持っていった方がいいわよね。念入りが一番よ」
エニーはそれぞれが置かれている物に一番近かったから、それを取って戻ってきた。
「よし、準備OKみたいだね。エニー、メリー大丈夫?」
「大丈夫」
「大丈夫です」
本当は''蓮子''なんだけど、仕方ないね、うん。
「じゃあ、私からいくね。すぐエニーに渡すから」
「はい」
蓮……いやいや!
メリーが最初にドリンクミーリクイドを飲んで、エニー、私と続いて飲んだ。
やっぱりここはあの世界みたい。背景が遠くなっていくよ。
「うわー……天井が遠いですねぇ。改めて、秘封倶楽部はいいと思います」
「ありがとう!早速行こう!エニー、鍵貸して」
「はい!」
もしかしてメリー、裏の維持が出来なくなったのかな? 理由? 何となく。
「よし! じゃあ……開けるね」
動悸がしてるけど、慣れているよ。いつもこんな感じだからね。
メリーは小さかった扉をゆっくり開けた。開いた隙間から光と温もりが溢れ出てきた。その光と温もりはさっき居た神界に似ていた。
「こちらもまた、さっきと似てますね」
扉の先には、あの小さな部屋とは全く違う世界が広がっていた。神界とは、光と温もりは似ているのに見た目が全く違った。緑は広がっているんだけど、何て言うか?広がり方が違うんだ。ジャングルって言うのが適切かもしれないね。
「空気がね。仕様は全然違うよ」
「そう……ですね!」
「早く行きましょ?」
維持するのは辛い。メリー多分駄目だっただろうけど、頑張ってみるよ。
私達は小さな空間から壮大な空間へと、一歩踏み出した。するとね……。
「俺はチェシャ猫。猫にない笑いって、皆からよく呼ばれるんだ」
これからは、映画『アリスインワンダーランド』や原作の二作品を参考にしています。




