第九四話 秋風のオカルト
秋風混じりに北風が吹き抜ける十月中旬。寒いから部室の窓は閉めきってて、湿った空気が漂っていた。
いつもと違う私達はいつも通りの活動をしていた。今、何時かは分からない。だって私、メリーなんだもん。正確に言えば、メリーの体を借りている。
メリーに聞けば分かるんじゃない?
そういえばこの部室、時計がないね。前に壊れて、そのままだよ。
「早苗……秋風さんの事ですか?」
私達は逆転したままで、早苗から聞いた事を片っ端から話した。逆転の事を全然気にしてない時は、とても楽しく感じるのは何でかな?
「そうそう! それで、何処にあるかなんだけどね、伏見だよ」
「伏見ですか? どのみち行かなくてはいけなかったですね」
伏見といえば、稲荷大社がある所だよ。竺紗が住まう場所。今は不在だけど。多分。
「それで、伏見はいいのですが、伏見の何処でしょうか?」
「それが分からないのよ……」
私達の探しているのは、大鏡って言う太古の歴史物語の事。歴史を明らかに映し出す優れた鏡なんだよ。
歴史物語なのに何故探すか?細かいところは聞かない聞かない。
早苗は伏見にあるとだけは知ってて、伏見の何処までは分からなかった。要にはただの噂。
「どうしますか?」
「一応稲荷大社に行こうか。竺紗、居るかもしれないし」
もしかしたら、鏡もあるかもしれないしね。心で付け加えておこうか。
「そうね」
「八百万が神議に欠席って……あるんですか?」
「あるんじゃない?」
そうだね。前、竺紗は信仰が弱かったから行ってないとか、なんとか言ってたような気がする。ていうか、言ってた。
「そういうものなんですか?」
「そういうもんでしょ。信仰集まったとしても、少しだけだろうし」
「何故信仰が減ると神議に出られないのでしょうかね?」
「さぁ? 疲れるとかじゃないの?」
実際そう言ってた気がする。これは''気がする''だからね。
「まー……取り敢えず行きますか」
「そうね」
座っていた椅子から立ち上がり、メリーが。私の姿のメリーが勢いよく部室の扉を開けた。
湿った空気はこれから歩いて行く廊下にじわじわ流れ込んだ。
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「最近、変ですよね……? 宇佐見さんとハーンさん」
宇佐見さん達に鏡の事を聞かれて吃驚しました。いきなりだったものなので、噂でしか知られていない、四鏡の一つ、大鏡の事を話しました。
宇佐見さん達は私の話を聞いて、急いで部室へ向かっちゃいました。
あんなに慌ててるなんて。普段はないのですがね。
廊下は寒いですね。体が縮こまります。
親はするなと五月蝿いですが、言う事聞いていられませんよ。こんなに寒いの、凍え死んじゃいます。
閉められた三階の廊下の窓からぼんやり外を見つめていると、元気に動き回っている人がいます。
「セテントライトさん……ですね。相変わらず張り切ってますねぇ」
そういえば、セテントライトさんって秘封倶楽部に入ったって言ってましたね。聞いたら分かるでしょうかね?
私にはばたばたしているセテントライトさんが、さっきの宇佐見さん達にそっくりに見えました。
私の好奇心は抑えきれず、体を縮ませながらも軽快に階段を降りて行きました。たまに立ち止まって見ている、踊り場の壁に貼られた''黒漆新聞''の文字も見ていられませんでした。
いつもは考える筈の事も、考えていられません!
ようやく一階に着いて、中庭に突入しました。
「セテントライトさん!」
「あ、貴女は?」
背中を向けていたセテントライトさんは顔だけを私の方に向けました。
「相変わらず、ネタ探しですか?」
「まぁ、そんなところですね」
「やっぱり鏡ですか?」
「何故それを知ってるのですか?」
やはりセテントライトさんもでしたか。あれだけ走り回っていたら誰もが思いますよね。
セテントライトさんは意外性を出し、首を傾げました。
「さっき宇佐見さん達に鏡の事を聞かれましたから」
「宇佐見さん……ハーンさんです、ね……あ」
「えっ? 今、ハーンさんって言いましたか? 私、宇佐見さんと言いましたが?」
宇佐見さんと言った筈が、''ハーンさん''という言葉が出てきました。どういう事ですか? 宇佐見さんとハーンさんは逆なのですか? 上手く表現出来てなくてすみません。
「き、気にしないでくださいっ!! 鏡の事について言ったのですよね!?」
「え、ええ。言いましたよ」
セテントライトさんはいつも顔が近いですね。前に何度も経験しました。
近さを言い表すと、彼氏が彼女に接近告白するくらいですかね? 取り敢えず、近いんです。
「それならばもう戻ってますね! ……はい! では、失礼しましたっ!!」
「は、はい……あ……」
セテントライトさんは風のように走り去ってしまいました。まだ聞きたい事が沢山あったのですが、仕方がないようですね。
秋風はいつでも私の体を吹き抜けていきます。身震いが止まりません。
早苗さんだけ苗字がないのは可哀想なので、苗字付けてあげました。




