第九三話 秘力の効果
「それで結局どうなったの?」
私達はエニーよりも早く着いたから、部室で待ってるよ。相変わらずの高い声。
「キーパーが驚いてたからゴールしちゃったわ」
「なんじゃそりゃ」
メリーの声は私の声。メリーよりも低いんだ。
「そっちは?」
「んー、まあまあ?」
本当はまあまあどころかじゃないんだけどね。さっき話してくれてた事みたいになりそうだったんだ。っていうか流された。意識がふっ飛んだよ。それで気づいたらここに居たんだ。何仕出かしたかなぁ? まずい事だけは勘弁。
「そうなの?」
今でも見える空間の皹が気になって仕方がない。この好奇心でどれだけメリーを引っ張ったかも、今になって思い出せない。
「うん。あ、それで━━」
話がここで打ち切られたのは、この後、入ってくる人が来たからと思ったのは、当たり前だけど、その人が入って来たからだったよ。
「ただいま来ました、宇佐見さん! ハーンさん!」
「あ、いらっしゃい」
はい、逆転。正直、誰も来てほしくなかったな。仕方ないけど。
扉に背を向けて話していた私はエニーの方を振り向いた。一瞬見ただけだったんだけど、メリーの表情が驚きな表情になった気がする。逆転したからじゃないと思うんだけど……。
「えーと、こっちが宇佐見さんで、こっちがハーンさん……はいっ、すみません!」
見た目で判別出来ない私達に戸惑わないよう、エニーは指を差して確認した。やっぱり難しいよね。これぞ、''大同小異''なのかな?
「いやいや、全然大丈夫だよ。それで……あれっ……」
「どうしたのですか? ハーンさん」
エニーがこちらに歩みながらメリーに訊ねた。
確かに、メリーの様子がおかしいね。どうしたんだろ?
あぁ、なるほどね。そういう事だね。要には、私の言いたかった事をしたんだね。
「試した結果はどうなのかしら?」
全てを察した私は、やはりメリーの声、口調で聞いた。直るなら直したいけど……いや、もしかしたら?
メリー、ん。私の顔はこくんと頷いた。
「結果?どういう意味ですか?」
私はわけを分かっていないエニーを置いてきぼりにし、メリー……いや、私の姿をしたメリーの目に手を近づけた。
「えっ、ちょっと? 何するの? 蓮子」
「今、ハーンさん、何と……?」
今更メリーの事を察したエニーは戸惑っている。何たって、私達の事情を全て知っているエニーにとって、メリーが''蓮子''と呼ぶ事は予想外だもんね。
私は試したくてしょうがなくて、エニーに構っていられないよ。何を試すかは、まだ秘密!
「私も試すのよ。きっと、大丈夫な気がするから」
「な、何を?」
「その内分かるわよ」
さぁ! 私が私に触る瞬間っ! 皆さん、カメラの準備!
誰も撮る人いないよね。分かってたよ。
私は緊張しながら、私の目へとどんどん距離を積めていく。これで違ったら恥ずかしいなぁ。どう言い訳しよう?
そして━━
━━━━
「はぁー! 秘力って凄いね!! 自分でも初めて知った事だよ!」
私はメリー……何回間違えれば済むのかな?
そう、自分の目に触れてみたんだよ。自分の瞳が深緋だったからね。もしかしたらっ!って思ったら本当になっちゃった!
あ、分からない人に最初から説明しようね。
まず、メリーが急に意思が変わったって言った事から疑問が浮かんだんだよ。でも、結縁が言う秘力の効果とは違うし、秘力のせいではないって思ったんだ。でも、あの時……そう、エニーが来てすぐに、自分の瞳の色が変わった事に気づいたんだ。秘力って、念じれば出てくるから、メリーにも出来る筈なんだ。これで分かった。多分。きっと、秘力のせいなんだ。
そして、もう一つ自分の瞳の色が変わった事で、何となく思った事。それは、メリーも私と同じ事を考えたっていう事。まだ曖昧だったから、聞いたんだ。『試した結果はどうなのかしら?』ってね。結果オーライ。
待って。私、メリーの目に触れて、メリーの見るものを共有したんだよね?幻像だけど。取り敢えず、''目に触れる''……。
「なるほどね、はいはい。分かったわ。となると、結縁の言ってた事が嘘になってくるわね」
「本当だね……」
神にも分からない事ってあるんだなぁ。もしかしたら、よく分からなかったのかな?
取り敢えず、秘力の効果は絶対にあれじゃない。
何だか、謎を破りたくてうずうずしてきた! 今は、メリーに体を持っていかれているから、自分で試す事が出来ないけどね。
「ハーンさんも不思議ですが、宇佐見さんも不思議ですね……」
「ま、そこも私達の楽しいところだけどね」
本音で言った。蓮子さんは嘘ついた事ないんだよ。
でも、そんな事より……。
稀に見える不思議なビション。今、見えている。これが、あの時メリーの見てたものなのかな? 何だか……五色の羽が舞い降りているのが薄々分かる。白、黒、赤、青、黄……何処かで見た事ある。確か……。
「さて……何処に行くのかしら? 蓮子」
「あ、うん。今日は稲荷大社に行くよ」
考えていた事が打ち破られてしまった。今は活動の事を考えるべきか。
「稲荷大社? 伏見の所ですよね? 何故ですか?」
「神様に相談」
神様っていうのは、竺紗の事だよ。結構便りになるんだよ。
「? ……あーなるほどですね。でも、今、神無月の中旬ですが、大丈夫なんですか?」
「あっ……」
そうだった。竺紗は八百万だった。しかも、信仰も戻ったから、神議にも行ってるだろうし……あー!!
「どうするの? 蓮子」
「取り敢えず、情報かなぁ……」
「そうですよね。私、情報沢山集めてきますよっ! 行ってまいります!」
エニーは凄い速さで外を出た。これぞ、電光石火かな?
「私達も行きましょうか」
「そうね。秘力、戻してもいいわよね?」
「大丈夫でしょ?」
私達は人前に立つ度に逆転を繰り返しながら、鏡探索をした。すると、私達のそこそこの親友、早苗がね、
「大鏡なら知ってますが……」
有力情報が手に入りそうな予感がしすぎて、時間を忘れていた。今は五時過ぎくらいなのかな? 今、探索するのは無理かも。ただ、夜ならば……。
「何処っ! 何処なのっ!?」
この後、早苗に質問攻めになってしまった。ごめんね、早苗。




