第62話 選び、決めること
事情を説明しろ。とカインは言って上を指差し笑っている。説明は言われずともするが、あの鳥はいったいなんなんだ? まさか、リリーの言っていた知人の鳥なのか? そうだとしたら、何故、彼の肩にいるんだ? いや、それよりも、あの時、この男について行った者達は何処にいるんだ? ダメだ。何処から追求していいのか分からん。
「あの……カイン、さん?」
おずおずとリリーがカインに近づいて話しかけた
「む? オヌシ、まさか、リリーか?」
「はい。お久しぶり、です」
そう言って深々と頭を下げる
「ウム。久しぶりじゃな。彼奴、ヌシの父は息災かの?」
「……わたしの知る限りでは元気なはずです」
「そうか。彼奴のペットがワシの元に来るとなれば、そうなのじゃろうて」
カカカと笑うカイン。あの鳥はやはりリリーに手紙を寄越してきた人物の鳥だったか。しかし、知人ではなく父親だったのか。知人と偽っていたが何やら事情があるのか、単純に恥ずかしかったのかどちらかだろうか。カインは何か言いたげに口を開閉しているリリーの横まで歩み寄り、周囲を見回して倒れている。いや、死んでいるジョージに気がついたのか笑みが消えた
「つい最近にこの港町に来たが、ここまで荒れておったか? いったい何があったのじゃ?」
その言葉にリリーが俯く。それに構わずカインは言葉を続ける
「リリー、何があった? 何故、彼処でジョージが死んでおる?」
「…ジョージは、ジョージは……」
「殺されたわ」
キッパリとシンシアが言い放つ。その言葉に釣られてカインはシンシアを見た。驚きからか大きく目を見開いている
「シンシア? ヌシが此処におるとは……いや、それよりもどう言う事じゃ?」
「殺されたのよ。カイン、つい先程までこの町にマーカスと彼が率いる集団。それに噂となっている魔物が襲い掛かってきてたの」
「そうか。マーカスが……そうか、そうか。ワシはまた、友を失ったのか……ジョージ、すまぬ。すまぬ」
横たわるジョージの元まで来て、カインはすまぬと呟き一筋だけ涙を流し、目を閉じ掌を合わせた。彼の独自の風習だろうか? 暫くの間、そのままでいたが涙を拭いシンシアを見る
「続けていいかしら? 此方は、応戦するも撃退が手一杯だった。マーカスは、貴方が来ると報せを受けて撤退していった」
「ぬう……そちらはマーカスか。ワシ等の元にはライが来おったぞ」
「何ですって!?」
「状況は更新された。と、彼奴は言うておったが何を意味しているのかさっぱりじゃ」
そう言って黙り込む二人。先程の会話からして彼方の元にも襲撃があったようだが、あのメンツがいない事の説明にはならないな
「それで、ビルマ達はどうしたんだ? 見た限りでは姿が見えないが」
私の言葉にまた彼は上を指差した。いったいなんなんだ? 上に何かあるとでも言うのか? うん? ユウキとハルトが上を向いたまま固まっているがどうかしたのか? 私も指差した先を見て、止まった。黒い影が降りて来る。空を切る音がしてきた。なんだ、アレは!?
「うわー、あんなのもいたのかぁ」
「ウソ、アレってドラゴン!?」
ミリアが驚き、ユースケが呆れたように声を漏らした。二人が言うように迫って来る影の正体は漆黒のドラゴンだった。その上で此方に手を振る者がいるのが見える。あのドラゴンの背に乗っていると言うのか!?
「道中で久し振りに出会うてな。ツレを乗せてもらっておったのじゃ」
「……貴方という人は、相変わらずよくわからない交友関係があるわね」
「カッカッ。そうじゃろうそうじゃろう。彼奴は見た目がアレじゃが中々面白い奴でな」
笑うカインに私は溜め息をつき、降りて来る巨体を見据える。生き残った船員達の慌てふためいている。確かにあんなのが降りて来るとなればそうなるだろうな
「カイン坊よ。あの男、オラヴィからは町と聞いておったが肝心の町は何処に失せた?」
「ウム。レジナルド。どうやら、マーカスの奴が暴れ回ったようじゃ」
「件のエルフ、か。今は姿が見えぬとはいえいずれ戻ってくるかもしれんな」
ドラゴン–レジナルドと言ったがそれがあのドラゴンの名前なのか?–とカインがそんなやり取りをしているとあの時別れた者達が降りてきて、こちらへと向かってきた
「あー、シアは眠ってるんですか?」
「何かあったの?」
アレンとミレイナ、だったか。二人の子供たちがさっきから私が抱き抱えているシアを見ながら尋ねてくる。
「なに、戦闘で体力をまた消耗して倒れただけだ。放っておけば起きるだろうさ」
「ふーん、そうなんだ」
「しかし、コレはいったいなんなんだよ? 嬢ちゃんがやったのか?」
「ああ、一部だけならそうなるな」
「そうか。嬢ちゃんが滅茶苦茶なのは前に見たが、こいつはスゲえな」
ジョゼフの言う通りだが、一瞬にして多くの魔物を前方に建つ建物を巻き込んで消滅させるなどマトモではない。だが、私が今抱き抱えている娘に恐怖といった感情はない。こんな華奢な娘を怖がるなどあり得ん
「ええと、何か分かったことある?」
「ああ、そうだな。ライという男があの時に倒した魔物と同じモノを連れてきてな。しかもだっ、ソレを従えていたんだ!」
我に返ったユウキがビルマに話しかけると、彼女は自分達の起きた事を語ってくれた。魔物を従える、か。アレは死体が変貌した物のようだったが人間の言う事に従うなんてあり得るのか?
「従えて?」
「そうだ。奴の言う通りに私達に攻撃してきたのだよ! ああ、あの時は流石にもう駄目かと思ったが何とか無事だ」
「それで、あのドラゴンは何処で出くわしたの?」
「アレはね、カインさんとハサン目指して歩いている最中に突然、小鳥が飛んできてー」
「––その後に続いて現れたんだ。しかも、ハサンに迎えにいかなきゃいけない子がいるとかなんとかで」
「ほおほお。ついでに乗せてもらってたと?」
「そう言うこと。あの子がそうなのかな?」
「ええ、そうでしょうね。ここで待つように手紙が届いたし」
ミレイナがチラリとリリーを見た。リリーはカインの隣に立ちシンシアとカインの会話を聞いている。と、突然、ユースケがパンパンと手を叩いた。何事かと全員の視線が向いた。
「あー。話の途中で悪いが、アンタらはこれからどうすんだ? 俺は乗組員のみんなと相談して船長を教会に運んでくけど」
「む、そうじゃな。ワシも手伝おう」
それから、ジョージを担ぎ教会に運んだが教会には既に人は居なかった。見れば、ここも所々が壊されているようだ
「ま、外にいるよりかはマシだろ。助かったわ」
「いや、気にするでない。して、合流したもののどうするかのう?」
「どうするだと?」
「そうじゃよ。リント。ここから先どうするか決めてあるのか?」
「ああ、リリーの迎えについて行きそこに行く予定だったが」
「ふむ。そうか。シンシア、オヌシはどうじゃ?」
「私は一度王都に戻り、今回の一件を報告するわよ」
む、となるとハルトとは別れるのか。だが、道中での襲撃があるかもしれないがどうするつもりだ?
「隊長。しかし危険では?」
「この一件を報告し対策を講じる必要があるのです。ユウキ、貴女も来てもらいたいのだけど?」
「……さて、どうしたものか」
「軍属である以上は従ってもらう必要がある」
「軍属か。やれやれ、潮時かな。仕方ないか、イエス、サー」
そう言い敬礼した後にリリーの頭を撫でて彼女の耳元で何か囁き微笑んだ。ユウキの事だ、何か良からぬことに違いないが
「ねえ、私達も連れて行ってくれる?」
と、ミリアが言った。こうなってしまうとは
「貴女とそこの皆さんを?」
「ええ、保護してくれるかしら? 道中で戦闘になっても私は協力することができるわ」
「姐さん!」
「ユースケ。ジョージさんを然るべき場所で埋葬してもらう必要がある。そうでしょ?」
「ぐっ、た、たしかに」
「だから、ゴメンなさいね。リント、貴方達に協力は出来ないわ」
「……そうか。残念だ」
ミリアの説得は、無理だったか。ジョージさんの死を切っ掛けにと少しは考えてたんだが、彼女は私とは違うか。シアが目を覚ましたらなんと言ったものか
「カイン坊よ。話は決まったか?」
「レジナルドか。粗方はな。そうじゃのお、ワシ等もリリー共々よろしく頼む。ビルマ、ジョゼフ。良いか?」
「おう、大将。オレらはそれでいいぜ」
「ああ、ジョゼフの言う通りだ」
「さようか。と、言うわけじゃ」
今度は彼らとか、どう行くのか考えると不安だが。なるようにしかならんか
「リント」
ユウキが私を呼びかけてくるとは碌でもない事を言われるのか?
「どうした?」
「シアの事、任せるわよ」
「そうか、ああ、任された」
その位ならば任されてやろうではないか。私でもそれならば出来るだろうさ
「ならば、行くぞ。オラヴィが待っておる」
「リント、リリー。もう発つが良いか?」
「はい」
「構わない」
レジナルドの背に乗るビルマ達の後に続く。大丈夫なのだろうか? いや、なるようになれかっ!
「レジナルド。頼む」
「承知した」
レジナルドかろ翼を広げて羽ばたいた。地上が段々と遠ざかっていく。まだ眠るシアを抱え直し、空を仰ぎみる。空に近づいているのか。なんとも言えない高揚感があるな。さて、これから先で何もなければいいんだが
『シア』
何か、音がする。ううん、違う。コレは声?
誰かがボクを呼んでいる。そんな気がした。声が聞こえる所にボクは向こうとして失敗した。なんだろう、ボクはこの声を知ってる
『シア。シアよ我の声に応えよ』
少しでも読んで頂けたら幸いあります。




