第61話 例え、理解されずとも
ボクには、目の前でにこやかに笑みを浮かべて賞賛の拍手を送ってくる人物に何か言いたい事があった筈なのに、何も浮かんでこず口をパクパクと開閉させることしか出来なかった。
「マーカス!! なぜ、このような事をしたのです!?」
「 シンシア、ちょうど良かった。君に用があったんだよ」
なんなんだ? あの人はなんでこんなことをしておいて微笑を浮かべていれるんだ? ボクのよく知る表情だけど、こんな状況でなんで?
「マーカス、私の質問に答えてっ!」
「おお、恐い恐い…君の、いや君達の質問は受け付けない。これは始まりに過ぎないんだ。一々、目くじらを立ててたらキリがないよ?」
「始まりですって!?」
始まり? マーカスさんはこんなことをまだやるつもりなのか? 両手を広げて空を見上げるマーカスさんとそんな彼を見て信じられないと言ったように目を見開き後ずさるシンシアさん。シンシアさんの肩を掴み後ろに下げて前に出たのはジョージさんだった。
「ジョージ?」
「おや、まだシンシアに用があったんだが……ふむ、あの様子を見るに話を持ちかけてもムダ、か」
『おい、大将。アンタは自分のやってることを理解してんのか?」
「勿論。それがどうしたかね?」
マーカスさんの言葉を聞き、ジョージさんの体が震える。後ろからではわからないけど、たぶん怒っているんだろう
「アンタは、多くの奴らを殺させて! 挙句、死んだ奴らを化け物にしやがった。それは、許される事じゃあねえだろうがッ!!」
「ジョージ!?」
「うおおおぉッ!」
言い終えるのと同時に走り出すジョージさん。リリーが小さ手を伸ばすも届かない。そのままマーカスさんの前まで詰め寄ろうとするジョージさん。それを冷たい眼で一瞥し嘆息して片手を挙げる。イヤな予感がしてボクがは走る。止めなくちゃいけない気がする。胸騒ぎがして落ち着かない
「ユウキ、リリーの目を閉じておけ」
「ええ、そうするわ」
「ユウキ!?」
「……あまりオススメ出来ないの。……親しい相手の、っていうのは」
「ハルト、まだ戦えるな?」
「なんとか、しかしあまりにこちらに分が悪い」
「だが、凌がなければならない」
「待って、ジョージをとめないと!」
「ああ、ああ、分かっている。分かっているとも、だがな、もう遅い! 遅すぎるんだ!」
挙げられた手を合図としたのかマーカスさんの左右に立っていた騎士二人がマーカスさんの前に出ると剣を抜いた。鈍い光を放つ剣に怖気付くことなく進んでいくジョージさん。ジョージさんを引き留めようと手を伸ばした時だった。白い何かが突然、私の目前まで迫ってきていた。碧い光が壁になってそれを遮る。バチバチと火花が散っていく。それはマーカスさんの後ろにいたあの魔物の内一体の腕だった。それに他のも倣うように手を伸ばして襲い掛かってくる。何度もぶつかってくる腕を睨みつける。障壁が防いでくれるけど足が止まってしまう。
「っ、こんな時に邪魔しないで!!」
碧い光が飛んでいき、一体に当たる。それだけ。歩みを再開することはできない。光球が数を増やして当たっていく
「グルルルゥウオオ!?」
そうして足止めを食らっている間にジョージさんがマーカスさんの前に出た。その前に二人の騎士が構える
「やれ」
「ハッ」
「どきやがれえ!!」
「ジョージ!!」
そして、非情にも短く告げられた。まず、右側に立っていた騎士が斬りかかり、その後に続き左側にいた騎士がその手に持つ剣を振り下ろした。ジョージさんの身体から鮮血が飛び散る。その間に、なんとかボクに襲いかかる腕が数を減らしていき、やっと前に進める
「ぐあっ!? ぐ、テ、テメエ」
「船長!?」
「ジョージ!? ジョージ!?」
倒れずに覚束ない足取りで前に進んでいくジョージさん。騎士がまた斬ろうと構えるのをマーカスさんが制止して前に出た
「……あガ、クソ、この」
マーカスさんの右頬にジョージさんの拳が当たる。乾いた音がしただけで終わる。その拳をマーカスさんの手が掴んだ
「地獄に落ち、やがれ」
「そうだな、それも悪くないな。ああ、許せとは言わない。事が終わり次第に咎は受けよう」
ボクは崩れ落ちいくジョージさんに手を伸ばして、その場に座り込む。ジョージさんが青白い顔をしてゆっくりとボクを見た。
「ジョージさん!?」
「ああ、嬢ちゃん、か。悪い、な……嬢ちゃん。ガハッ…り、リリーと、ユースケを、頼める、か?」
言葉が浮かばず何度も頷くボクを見て、ジョージさんの赤くなった手が頰に触れた。その手に自分の手を重ねる。その手から暖かさが抜けていくようだった。最後に力無く笑うとゆっくりと、 ゆっくりとジョージさんの瞼が閉じていった
「いやああぁ!?」
後ろから、リリーの絶叫が聞こえる。重ねた手をゆっくりと降ろし、立ち上がる。甘かった。このは敵なんだ。その事を自分の中で理解していなかった。その甘さが、ジョージさんを失ってしまった……許せない、ボクの周りを漂う光が輝きを増して激しく回る。空高くに描かれていた魔法陣が消えていき、かわりに足下に現れていった
「ボクは、貴方を許せない」
「そうか。元々、許しを乞うつもりはない……さ、全員、攻撃を開始せよ!」
この人を倒さなきゃいけない。倒さなきゃ、ボクが倒さなきゃ!! 二人の騎士が先程やったようにボクに斬りかかろうとしてくる。その攻撃を障壁が防いだ。二人目の騎士をリントさんが蹴り、ハルトが上段から剣を振り下ろした。
「ぬうお!?」
「大丈夫か!?」
「ああ、問題はない!」
障壁を解き、右手を前に翳すと魔法陣が現れて周囲に浮かぶ光を吸い込んでいく。
「対象が何かしようとしている!」
「阻止するぞ!」
「そう上手くは行かせんよ」
二人の騎士がボクを止めようともう一度攻撃を開始する。それをリントさんとハルトが遮る。光を集めていた魔法陣が眩い輝きを放ち出した。それでもまだ集めるのを止めない
「団長、アンタは何をする気なのかは聞かせていただきたいものだがな」
「リント。平穏が続くだけではダメなのだよ……それだけさ」
「なるほど、わからん」
二人が一瞬、ボクを見て頷きあうと騎士の足止めを止めて距離を置いた。魔法陣に光が入りきらないのかより一層強く輝きを放ち、光が漏れだしてきた。右手が重く感じブルブルと震える。これ以上はダメだ
「うああぁあ!!」
「グルウウウウ!?」
絶叫と共に光が激流となって直線上に駆けていく。その直線上にある物を全て飲み込んでいった。視界が碧く、碧く染まっていく。光が収まっていくと二人の騎士も、たくさんいた魔物の姿が見えなかった。光が進んでいった先にあった立ち並んでいた建物は大穴が開き、地面を抉っていた。それを眺めていると力が抜けていき、視界が霞んでくる
「……やはり君は。いや、今は、これでいい。これでいさ」
「隊長、まもなくカイン殿がこちらに到着するとの報せがありました」
わかった。全軍に通達!! 撤退するぞ!!」
あの男の声がする。それに応えるように多くの声がする。待て、まだボクは
「シア、いいんだ」
「リン、トさん?」
「君は良くやった。だから、今はそのまま眠れ」
ボクは、その言葉に頷き意識を手放していった
団長、いやマーカス達が去っていったか。ふう、一応は一安心か。しかし、酷いな、コレは。シアの放った魔法が当たらなかった場所はまだなんとか原型を留めているが。
「船長、くそ、どうして」
「アンタのせいじゃないわ、自分を責めないで」
「…わかってる。わかってるんだけど」
ミリアが、シアの友人を慰めているのか。彼女がか、珍しいこともあるのだな
「これは酷い有り様じゃなあ」
足音がしたと思えば、そんな声がした。なるほど、この男か。カインがそのまま私の近くまで歩いてくる。その肩には何故か白い鳥を乗せていた
「は?」
いや、待て。なんだアレは? なぜ、肩に鳥を乗せているんだ? などと混乱する私の肩を叩きカインは上を指差しながらこう言った
「カカカ、さて。ヌシ、ワシらに事情説明を願うとするかの」
少しでも読んで頂けたら幸いです




