第60話 対象を発見
大事な物が、ボクにとって大切だと思えた掛け替えのないモノが自分の中から消えていく不思議な感じがした。ボクの手は自然と空へと挙がる。その手が掴むものなんて何もなく、ただ虚しく空を切るだけで
「あぁ、ボクはなんて…無様なんだろうか」
ポツリと零れた自分の言葉に苦笑し、周囲を確認する。空からは碧い光が空から降り注いでいく。その光はボクの周りをぐるりと囲みフワフワと漂っている。物言わぬ光がボクの指示を待っているように思えた。光から視線を変えて眼前に立つ敵を睨む。あっちは盾を構えた奴がジリジリと前に出てその後ろで敵意剥き出しで武器を握りしめている三人の姿があった
その奥で、あの魔物がゆっくりとこっちに向かって歩いてくるのが見えた。の咆哮がまた響いた。その咆哮に応えるように別の場所からもし出した。こっちに向かってきてる?
「シア、出来るだけ速く終わらせるぞ」
リントさんがボクの横に立ち、そう告げた。そうだった。増援が来るかもしれないんだ。時間をかけ過ぎていては敵の数が増えてしまう。そうなったら、ミリアさん達を捜すのが難しくなる。ボクは頷き、地を蹴り駆けた
「対象が来るぞ!」
盾の男が、後方にいる奴らに叫んだ。腕を大きく振りかぶり殴る。その拳に燐光が集まり、覆っていった。その拳が盾とぶつかる。盾にぶつかり、勢いが削が敵れていった。一旦、距離を置いて腕を二回、小さく振る。どうやら盾を破壊することは出来なかったが、拳を当てた箇所はヒビが入っているのが見える。
「ぬう!?」
「コンチクショウがぁあ!!」
驚嘆の声をあげる男に向かって、もう一度拳を振るう。盾がそれを防ぐべく構えられたが今度は盾とぶつかる直前に光が覆っていき、盾に当たる。ボクの拳が盾にめり込んでいくが勢いはまだ止められていない。ググッとめり込んでいき、貫通した。だけど、男は、盾を放棄して後ろへと跳んで距離を離し、槍を持ち直した
「チッ、突破しただと!?」
後ろに下がるのと同時にさっきまで後ろにいた三人が前へと出て、それぞれの得物を構えてボクへと迫ってくる。ボクの前に光が集束されていく
「こちらを忘れんでもらいたいな!!」
ハルトが、ボクの前に出て、三人の前へ駆けていく
「くっ、コイツ!?」
「構わん、排除する!」
「攻撃を止めるな、俺に続くのだ!」
「ハルト!?」
そのまま、駆けていき振るわれる剣戟を紙一重で避けていき、跳んだ。三人の男と槍を持つ男の間に着地するとそれぞれを見合わせて、ハッと鼻で笑った
「なんだ、動きはいいがこの程度か? 正直、拍子抜けもいいところだな」
そう言って、肩を竦ませてみせた。目の前の三人が身体を震わしている。後ろの男はただジッと動かずにいる
「言いたいことはそれだけか!?」
「我らを愚弄しよって!!」
「元々、始末する奴だ。構わん。目に物見せてくれる!!」
「ハ、来るなら来い。来ないならこっちから行くぞ…ユウキ!!」
「アイアイサー」
優希が普段の様に軽い感じで返事をすると、彼女の前に魔法陣が浮かんでいく
「雷よ、全てを揺るがし、轟かす雷よ。我の声に応えよ。今、我を遮る障害を飲み込む奔流となれ–––『サンダウェーブ』」
魔法陣から雷が現れると前方にいる三人を飲み込まんと襲いかかっていく、アレ、これ、ボクも危なくない? そう思ってボクは慌てて横へと跳んだ。あ、ハルトがギョッとして大慌てで横に跳んだ
「ぐあああっ!?」
「くっくっ、油断大敵だよ。君たち」
「貴様ッ、俺たちがいるのになんでソレをえらんだ!?」
「躱すだろうなと思って」
「本気で焦ったぞ!?」
怒鳴るハルトを見た、笑う優希。二人は戦いの最中でまるで普段のやり取りをしているようだ。それを見て、ハルトさんが溜め息を吐いた
「じゃれ合うならよそでやれ、まだ敵はいるんだからな」
「はーい」
「なっ、コレはユウキがですね」
「ぐ、舐めた真似をしてくれる!」
フラつきながらも三人が立ち上がり、ハルトに走った。今のハルトは壁を背にしているから三方向からじゃ危険だ
「ダメええぇえ!!」
ボクの声に反応して、光が燐光を描き飛んでいく。
「うお!?」
「なんだ、この光。ちょこまかと動き回りやがる!?」
光は三人の顔に、腕に、胸、背中に、脚にぶつかり爆ぜていく。それを防ごうと剣を振るうも光がぶつかるのは止まらない。一人の剣にぶつかり、剣は宙へと舞っていき、ボクの前に突き刺さる。その間も容赦なく光がぶつかっていき、遂に一人が膝をついた。
「うおお、貴様がぁ!?」
槍を持っていた男が、いつの間にかボクのすぐそこまで迫ってきていた。驚き、目を見開いてしまう。槍の穂先が鈍い輝きを放ちボクに向かって伸びてくる。
「なっ!?」
迫り来る槍とボクの間に碧く薄い壁があった。それがボクを貫こうとしていた槍を防いでいた。三人に注がれていた光が男の背後から襲いかかっていく
「があぁあ!?」
チラリと見れば、三人は倒れて動かない。ハルトがア然としている。が、リントさんの姿がなかった。どこに行ったのかと視線を動かすと目の前の敵の後ろにいた。その手に剣を持って
「……リント、さん?」
「ぐあああっ!? き、さま。卑怯な」
「生憎と、私は騎士道の類は持ち合わせてない。恨んでくれて構わんさ」
男の背後から剣を突き刺していく、驚愕に眼を見開く男の口から血が噴き出る。剣を無造作に引き抜くと、そのまま崩れ落ち倒れた。
「ふう、行くぞ。今は、時間が惜しい」
「…ええ」
シンシアさんは頷き、倒れている四人を見てから、ボクを見た。まだ碧い光をボクの周りを漂う。腕を組み何か考えている
「……天に描かれる魔法陣。術者を護り、必要以上に嬲り、敵を殲滅する魔法。その昔。ある暴君が編み出したとされる魔法……名前は、たしか『デストラクション』」
「…!」
「シンシアさん?」
ボクの呼び掛けに、ハッしてなんでもないと返事をして先に行くリントさんとハルトの後に続いていく。何なんだろうと首を傾げるとボクの服の裾が掴まれた。何事かと見るとリリーが裾を掴んでいた。俯き、震えている。どうしたんだろうか?
「リリー?」
リリーがびくりとさせてから、ボクを見る。どこか縋るような感じがする。そう思えるくらいに普段のリリーと何だか違い様子が変な気がする
「どうしたの?」
「なんでもない。ううん、まだ断定したわけじゃないんだから」
「何かあった?」
「ん。なんでもない。いきましょ、ジョージ達をみつけなきゃ」
「あ、うん」
リリーの言葉に頷き、ボクらもリントさん達の後に続いていく。シンシアさんが呟いた言葉。『デストラクション』、それがボクが貰った特典の名前なんだろうか? リリーはその言葉に反応して様子が変だし、二人は何を知っているんだろうか? ボクの頭の中に色々な疑問が浮かんでいった
新手に見つかることなく、なんとか船着き場に到着した。昼間までは浮かんでいた船は帆は破れマストが折れてしまっていた。船体には横穴が開いている。見るも無残なくらいボロボロになり、傾いている。アレでは航海は出来ないだろう。その船の近くにボクらは捜している三人の姿を見つけた。ジョージさんとミリアさんが周囲を見回して警戒している。雄輔が、こっちに気づいて手を振ってくれた。そのまま三人に近付くと、二人は一瞬身構えたが、すぐに解いてくれた
「雄輔、ミリアさん達無事ですか!」
「俺らは、な。でも、先輩たちがケガしてて動けない」
「俺の船の乗組員はコイツらを除いて、船を動かそうとして準備している所だったが肝心の船を魔法で狙われてこのザマだ」
「その後、黒い鎧を着た着た連中が現れて襲ってきたのよ。ついさっき、なんとか追い払えたけど」
パチパチと乾いた拍手がした。その音がした方を見るとあの人がそこにいた。彼の左右には大剣携えた二人の黒い鎧を身に着けた騎士がいた。そしてその後ろにはあの魔物がゾロゾロと姿を見せた
「やあやあ、お見事。流石だよ、シアくん」
その人、マーカスさんがそこにいたのだった
戦闘描写が難しい
少しでも読んでいただけたら、幸いです。




