第57話 状況を変えようか
状況は既に更新された。今更、舞台からは降りられはないし、後戻りや放棄する事は許されない。降りるつもりなど毛頭ないが
ここまで至るのには大変だった。僕には時間だけならたっぷりあったのだ。それを利用し、かつての戦友以外の同志も得た。下準備は出来ている。後はこの作戦を上手くこなすだけだ。問題だろう、僕らならば上手くやれる。
予想外の出来事にイチイチ頭を悩ますつもりはない。むしろいいじゃないか。歓迎しようではないか、僕の予想を覆す事態に出くわしたって。この状況を楽しめなくては面白くない。彼女だってそうする筈だ。
それに、だ。そうやすやすと上手く行くとは思ってはいない。ただ、早くもアイリーンの死は予想外だったけとも、なあに、進行に支障はない。
「マーカス、ちょっといいか?」
デイビットが僕の自室に入って来るなんて珍しいな、彼は正面に立ち腕を組んだ。おやおや、不機嫌そうだね。気のきいたジョークを言った瞬間にはハンマーが飛んできそうじゃないの
「なんだい、同志デイビット」
「……情報が入った。シンシアの奴が、ユウキのツレを連れて動いたとよ」
ほぉ、シンシアが。軍を抜けてないんじゃないかと予想はしてたが正解だったか。なるほど、シンシアか。彼女にはいずれにせよ接触する必要があったが、どうするか
「それで彼女は今、どこへ向かおうと?」
「ハサンだとさ、本人がそう言ってんのを聞いたとさ」
「………ハサン、か。何故とは聞かないよ。目的はあの光の発生源か」
「さて、どうだろうな。ま、ハサンへこのまま向かわれれば、嬢ちゃんと接触するかもしんねえぞ?」
「………シア君か。あの光は彼女の魔法だし、調べればいつかはぶち当たるだろうね」
ふーむ、シンシアが、か。前から軍が動くのは予想してたが、思ったより遅かったじゃないか。なら、そうだね。こっちも動くのもまた一興か
「デイビット」
「なんだよ?」
「僕もハサンへ向かう。転移魔法で移動し、近場にいる者と合流し、行動を起こす」
「あ゛あ? おい、テメエ、今なんつった?」
「ハサンへ行くと言った。デイビット、留守は君達に任せる」
「おいおいマーカス。テメエ、まさか真っ向から鉢合わせる気か!?」
「ほほお。なるほど、ソイツは妙案だ。流石は長らく共に歩んできた戦友だ」
僕は、デイビットの肩を叩き部屋を出る。後ろからデイビットの怒鳴り声が聞こえるが無視だ。
なに、折角の機会だ。少しだけ派手にやろうじゃないか
朝、宿屋へと戻り泊まっている部屋にはリリーは居なかった。ただリントさんに少し出かてくると伝えてどこかに行ったらしい
「で、貴方は何も尋ねなかったと?」
「そうだが、問題あるか?」
「大アリよ! もし、リリーに何かあったらどうするの?」
「なに、心配ないだろう。少し出かてくると言ったのなら戻ってくるだろうしな。それに、ここには彼女と旧知の間柄にあるジョージ氏もいる。向かうとすればそこくらいのものだろ?」
「そうだけど、そうだろうけど」
「やれやれ、そんなに気になるなら捜しに行ってはどうだ?」
「ええ、そうさせてもらいますよ~だ」
そんな事を言って優希はくるりと振り返り、出ていってしまった。かと思えば立ち止まり、
「別に、手伝ってくれてもいいのよ?」
とだけ言い残し、今度こそ出ていった。アレはひょっとして捜すのを手伝って欲しいのかな?
「……なにがしたいのかね、まったく」
「ええと、捜すのを手伝ってほしいんじゃ」
「かもしれないな。いや、素直に捜しに行ってからかわれるかもしれない」
まさか、いくら優希でも流石にそれはないんじゃないかな? うーん、どうだろうか。優希だし、あり得なくもないのかな? と、唸るわたしの頭にリントさんの手が乗せられる。なんだろうと首を傾げるとぽんぽんと軽く叩き撫でられる。少しくすぐったい
「君はユウキを手伝ってやれ、私はミリアの説得でもしに行く」
「え? 良いんですか?」
「ああ、構わない。さ、行ってこい。ユウキが見つけれるとは思えんしな」
それはそれで酷いと思うと苦笑いする
「じゃあ、行ってきますね」
「ああ、いってらっしゃい」
リントさんに見送られながら、宿屋を出る。さて、リリーはどこに行ったんだろう。ジョージさんに会いに行ったのかな? 一度向かってみようかな
船着き場に来てみたけど、ジョージさんはどこだろう? 辺りをキョロキョロと見回してみても見当たらない。いないのかな?
「シア? どした?」
声を掛けられたので、そちらを向くと雄輔がよう、と片手を挙げていた
「あ、雄輔」
「おう、俺だ。姐さんに用なのか?」
「ううん、ねえ、ジョージさんはいる?」
「船長? 船長は甲板にいるぜ。なんか用なのか?」
「うん。ちょっと聞きたい事があって」
「うし、分かった。ちょっとついてこい」
「いいの?」
「ああ、船の前までなら大丈夫だろ、行くぞ、はぐれないように手でも繋ぐか?」
「ううん、大丈夫。はぐれないようにするから」
「そっか、分かったよ」
そう言って笑いながら、手を下げて、歩き出す雄輔の隣に並び進んでいくことにした
「ユースケ、仕事サボってナンパか?」
「違いますって」
「おい、ユースケ。サボって女の子と遊んでっと船長に叱られても知らねえぞ!」
「や、だから。サボってないっすよ」
すれ違う人達に祐輔がからかわれながらも、停泊中の一隻の船の前まで着いた
「ちょっとここで待ってろ」
言い残して、雄輔は船内へと進んでいってしまった。ここで待つんだ、ここまで来たんだから中に入りたかったな。一人ぽつんと立ち尽くし、海を眺める。陽の光を浴びてキラキラと輝き、波により海面は揺れている。
「………」
ヒマだ。はっきり言ってすることがない。こんな状態でどうしろと言うんだろうか。うう、雄輔。早く戻ってきて
「すまない、待たせたな」
「っ!?」
海を眺めていて、気が抜けていたところに声を掛けられわたしは、びくりと体を震わし後ずさってしまった。そこで気付く、今、後ずさった場所には、足場がないと
「おい、シア!?」
雄輔の慌てた声。それを聞きながら体は傾いていき、他人事のように理解した。あ、コレ落ちるや。そして、海面に水柱を立て、沈んでいくわたし。なんだろう、前に似た事をやったような。あー、でも、今回はマクシミリアンはいないんだった。というか、ジョージさんに悪いことしたな、声を掛けられただけでビックリして落ちるとか
水中で沈んでいくわたしはただ水上を見上げている。このままでは雄輔に心配を掛けてしまう。早く出なくては
「――」
瞬間、わたしの体に熱が走った。体を淡い輝きが包みこむ。もう必死に水上に上がる事だけを考える。揺れる、波の動きが激しくなっていく、押し出されるようにわたしの体は上へ上へと上がっていった
「ぷはぁ!? ケホケホ、ハァハァ」
「シア、大丈夫か!?」
「……ハァ、ハァ。ん、なんとか」
呼吸を整えながら、雄輔に返事をする。くう、服がずぶ濡れで肌に貼りついて気持ち悪い。着替えに戻らないとダメだな
「しかし、お前さん。そのままで大丈夫なのか?」
ジョージさんの質問に、思わず首を傾げる。何の話だろうか? 服ならずぶ濡れで大丈夫じゃないけど
「分からないのか?」
「何がですか?」
「いや、お前さんの立ってる場所なんだが」
ジョージさんが指を指す。わたしは恐る恐る指差した方を向く。そこは今も光を浴びて輝く海面があった。慌ててわたしは移動して、ホッと一息つく
「ハァ~、ビックリした」
「いや、ビックリしたのはこっちだって。浮かんできたのも驚いたけどさ」
「あはは、ごめん」
「さて、それでユースケから聞いたが、俺に何か用か?」
ジョージさんが尋ねながら、わたしにタオルを掛けてくれた。あ、そうだった。リリーの事を聞かないと
「こちらにリリーが来ませんでしたか?」
「リリーか。いや、来ては――いや、今、来たぞ」
その言葉通りにこっちに来る人物が二人いた。リリーと優希だった
「あらま、ずぶ濡れだねえ。アレかな? 若さに身を任せてみたのかな?」
「ち、違うし」
「船長に声を掛けられて驚いて、落ちたんだよ」
「雄輔!?」
ちょっと、わたしが恥ずかしくて答えなかった事をあっさり言わないでよ!
「ほおほお、なるほど」
「むう」
「戯れてないで、ちょっと聞いてほしいの」
リリーが口を開いた。優希もわたしを弄るのをやめてリリーの方を向いた
「後でリントにも言うけど、私の知人がこっちに迎えに来るらしいの。だから、ここで待ちたい」
「リリー、貴女の知人ってどんな人?」
「スゴく変な人だよ。その人の飼ってる鳥が早朝に来てたの。その足に手紙が結ばれてた」
そう言って、小さな紙を見せてくれた。確かに文字が書かれている
『ハサンにて待機せよ。至急そちらへと向かう。同行者にも伝えておくべし』
それだけだった。リリーを見ると困ったような表情を浮かべた。優希は手紙を陽の光で透かしてみたりしていた。なにしてるんだろう?
「で、私にどうしろと?」
後からリントさんに説明すると、開口一番にそう言われた。まあ、そうなんだけど
「えっと、それでいいのかなと確認をですね」
「なら、ユウキ。君はどうなんだ?」
「さあ、どうでしょうね?」
「君という奴は、相変わらずか。で、シアはどうなんだ?」
「え、わたしですか?」
「ああ」
うーん、どうなんだろ。チラリとリリーを見るとこちらの視線に気付いたのか首を傾げる
「……わたしは、リリーの知人を待ってみようと思います」
「ゴメン、そうしてもらえると助かる」
「やっぱりシアはチョロいのかな?」
「今の流れで、それは関係ないよね!?」
「なんとなく、頭に過ったのだよ」
優希の言葉にリントが小さく吹いたのを見て、わたしがキッと睨むも笑うのを止めないのだった。
僕は、転移後に同志諸君を集める。皆、静かに僕の言葉を待っているようだ。まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。ふぅ、緊張してきたがやりますか
「さあ、我が同志諸君よ!! 動く時が来た。今ここに行動を起こす! 武器を取れッ、我らが意志を示そうじゃないか!!」
「「うおおおっ!!」」
「進軍する、我に続けッ!」
さあ、行こう。ここからが本格的な行動開始なのだから
誤字修正しました。(14/12/28)




