第54話 僕と海賊戦
「あらあら、鳩が豆鉄砲を受けたような顔して、恐怖のあまり声も出ないのかしら?」
いや、ま、うん。それはそうだろうね。女性みたいなしゃべり方をしてくれば。わたしたちが唖然としているとオルドレイクと名乗った男はククッと喉を鳴らして口角をつり上げて笑った。今、見た限りでは武器は持っていないように見えるけど。ひょっとして、素手で戦うつもりなんだろうか? 考えていたわたしは、一歩前に出てオルドレイクの前に立ったジョージさんに気付くのに遅れてしまった
「さあて、どうだろうな? なぁ、海賊さんよ。暴れるだけ暴れて気が済んだなら帰ってくれないかな?」
腕を組み、静かに睨み付けるジョージさんを顔にはまだ笑みを浮かべ、ただ無言で観察するオルドレイク。
「あの船長の言葉を素直に聞き入れるとは思えないが、さて、どうなるやら」
「リント、戦闘準備は必要かな?」
「必要だろうな、ユウキ。相手はそのつもりで事を起こしているからね」
「戦闘だって分かってはいるハズよ。ただ一応の確認のつもりでしょうね」
「………ならば、少しの間は見守るとしよう」
リントさんとユウキにミリアさんは小さな声で、様子を伺いながらそう言っている。むぅ、大人しく引き下がりはしないというけど。ジョージさんは、今も腕を組み、相手をただ黙って見据えているだけ。と、様子を見守るわたしにリリーが近寄ってきて腕を引っ張ってくる
「どうしたの?」
「シア、その眼。また光ってる」
ああ、その事か。そうは言われても、わたしには見えないわ、自覚ないしどうしようもないんだけどな。
「気がついたら、こうなってたんだよ。あはは、ひょっとしてまだわたしの眼、光ってる?」
「うん。光ってる。そのせいで目立ってるけど……。あ、状況が動きそう」
そう言ってリリーは視線を正面でのやり取りに向ける。わたしもそれに倣う事にした。動かずにその場で佇むジョージさんに対して、先程まで沈黙していたオルドレイクが一歩、また一歩と歩き出してジョージさんとの距離を詰めていく。互いの視線をぶつけながらも海賊、オルドレイクはニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
ゆっくりとした動作で右手を挙げると、握り拳を作り殴りかかった。顔面目掛けて繰り出された拳をジョージさんは、咄嗟に身を捩らせて躱す。だが、オルドレイクは間合いを詰めるとジョージさんの腹部目掛けて膝蹴りを食らわした。膝蹴りを受けて、半歩よろけながらも、キッと眼前に立つオルドレイクを睨み視線を逸らさないでいる
「おぐッ!? ガッ。ハッ、やるじゃないか」
「ふーん。面白い。面白いわ、アンタ……ま、今の攻撃がアタシら、海賊の答えよ。出てらっしゃい!!」
「ヘイッ、船長ッ!!」
その言葉に応えるかの様に、他の海賊達が次々と姿を現していく。
「ジョージ、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
リリーの心配する声に、片手を挙げて応える。不味い、さっきまでならオルドレイク一人だったのに、急に敵が増えた。
「あーあ、数の上では不利かな?」
「さてどうかな、意外と見かけ倒しということもあり得るが」
リントさんと優希はそんな風に、特に動じた様子も見せずに会話をしている。オルドレイクは二人のやり取りに気付き、こちらを見て口を開いた
「へえ、この状況でその態度だなんてアンタ等、面白いじゃない。特に、そこで金色の眼を光らせてるお嬢ちゃんとか」
「っ!?」
「アラアラ、身構えちゃって可愛いわね。滅茶苦茶にしたくなっちゃう♪」
思わず背筋に悪寒が走り、自分の体を抱き締めながら後退るわたし。うう、冗談じゃない。滅茶苦茶にってなんだよ!? どういう意味だ。いや、やっぱり知りたくない!!
「目的は略奪と捉えて構わないかな?」
「もちろんでしょ? アタシらからソレを取ったら何が残るのよ?」
「そうだな、ソレを取ったらただの変人かな?」
「アラアラ、誰が変人だと!? ソイツはあまり笑えないジョークじゃないかァ」
「ふむ、違ったかな? 私としては事実を言ったんだが?」
リントさんの言葉にオルドレイクがぶるぶると怒りで肩を震わしている。
「テメエを海賊をバカにしやがったな!」
「舐めた口聞きやがって」
「悪いこたぁ言わねえ。謝っておきな」
「いや、謝るつもりは毛頭ない」
きっぱりと言い放つリントさんに、ミリアさんが溜め息を吐いた。
「上等だ、ハナからやる気だったしよお。野郎共ッ、コイツらをぶちのめすぞ、ゴルァ!!」
「応ッ、船長!」
船長の言葉を受けて、子分達が剣を抜き襲い掛かってくる。それにすぐに対応したのは先程、オルドレイクの攻撃を受けたジョージさんだった。ジョージさんは武器を持った海賊達に物怖じせずに拳を迫ってくる海賊の一人の顔面へ放つ
「おぐァ!?」
顔面にもろに受けた海賊がそのまま倒れ、鼻を押さえながらジョージさんを睨む。拳を構えながら、それを見下ろすジョージさん
「どうした、もう終わりか? なら、一つ言っておくぞ。海賊恐くてな、海の男が務まるかッ。さあ来い。相手になろう!」
「野郎がぁ」
「おもしれぇ、やってやろうじゃねえか!!」
その言葉を受けて、三人の海賊がジョージさんに迫った。それを落ち着いた様子で観察し、躱して隙を見つけては攻撃を浴びせていく
「よそ見してる場合じゃないわよ、お嬢ちゃん!」
「えっ? うわっ!?」
振り向くと、オルドレイクがすぐ正面まで迫り、回し蹴りを放っていた。気付くのに遅れたわたしは横腹にそれを受けてしまい吹っ飛ばされ、地面に転がってしまう。横腹が熱を帯びた様に熱い。しかも、転がってる時に短剣を手放してしまった。顔を上げて探して見ればアイツとわたしの間に落ちている。
「お仲間は、アタシの子分達の相手をしてる。だから、助けは来ないぞ?」
よろけながらも、なんとか立ち上がった時には、オルドレイクはまた接近してきている。大振りに振りかぶられる拳を腕を顔の前で交差させてガードに入る
「ハッ!」
拳が当たる。当たった場所から痛みが走り、顔を顰めさせる。でも、何とか堪えれる。けど、クロスアームガードからでは、わたしは攻撃に移りにくい。今もオルドレイクの顔面への攻撃を防ぐので手一杯だし、正面以外からの拳をには無意味なのは知ってたハズなのにやってしまった。それを相手が見逃す訳がない
「腹ががら空きじゃないッ!?」
言葉通りに蹴りが、わたしの腹にもろに入り蹲る。なんであんな防ぎ方をしたのかさっきまでの自分に問い詰めてやりたい。クソ、最悪だ。痛いじゃないか。内心で悪態をつくわたしの髪を掴み、引っ張られる。伝わってくる激痛に涙が目尻に溜まる
「ったい」
「でしょうね。でも、ダーメ。放さないから」
「あっ……くっ、この」
「いぎっ!?」
ジタバタと足を降り下ろす。それが当たったのか。髪から手が放され、わたしは自由になった。オルドレイクを見ると、股間を抑えている………うわぁ、痛そう。流石にそこは鍛えれないもんね
「よくもやってくれたじゃない!?」
「そっちに言われたくない」
「ボケッと突っ立ってんのが悪いんじゃないか?」
「それは、そうかもしれないけど。だいたい、なんでこの町を襲うのさ!」
「海賊が襲うのに理由を求めんじゃ、ねえ!」
言い終えるのとほぼ同時に動き出し、わたしの顔目掛けて、繰り出される拳。それを受けて、倒れこむわたし。許せなかった。砲撃で町を滅茶苦茶にして、まだ満足せずに暴れている。そう言うものなのかもしれないけど納得出来ない。納得なんかしたくない
「もう終わり? なら、死にやがりなさい。大丈夫、お仲間もすぐに送ってやるからサァ!!」
「………す」
「なぁに、聞こえないわよ!?」
「殺す、お前達を許せない」
「ハッ、許しを乞うつもりはないわ。この生き方を選んだんだもの。今更、殺すか殺されるかしかないわ」
嘲笑が、不愉快だった。耳障りで仕方ない。だから、使う。身体中に一瞬だけ、脱力感が走った。でも、それは一瞬だけだった。足下に描かれていく魔法陣と暖かな碧い光が僕を包み、身体中の痛みを取り除いていった。
「なっ、ナニよ。ソレは、魔法だとでもいうの!?」
困惑するオルドレイクを無視し、魔法陣が完成し、光の柱が天高く伸び雲を貫く。上空に足下にあるのと同じ魔法陣が現れる。その魔法陣から碧い光が降り注ぐ。先ずはアレを狙おう。手を挙げる。光は僕の周りを舞い踊る。海に浮かぶ『ソレ』をボくは睨む
「行け」
ただ、その言葉を言っただけ。それだけで僕の意思を理解したかのように光は一つの奔流となり、ソレを貫き飲み込んだ。為す術もなくソレは飲み込まれ、姿を変えて沈みそうになっている
「まさか、アタシの船、が?」
もう一度、光が貫くと今度こそ、ソレ、『海賊船』は沈んでいった。次は、視線を移すと目があった。オルドレイクは色んな感情を混ぜたような何とも言えない顔をしていた。
「次は、お前達だ」
僕は、ただ静かにそう告げた
お久しぶりです。読んでいただけたら嬉しいであります。




