第51話 少しだけ時間を
ミリアさんが立ち上がり、わたしを見ている。何かあったのだろうか? 久しぶりにミリアさんの姿を見た気がする。実際のところ、本当に久しぶりなんだけども。見た限りでは、大丈夫そうなようだから良かった
「えっ、ウソ!? シアちゃん!? ああ、貴女はホントにシアちゃんなのね?」
「はい、そうです。シアです」
ミリアさんがゆっくりと近付いてくる、そっと伸ばされる両手がわたしの両頬に触れる。その手に自分の手を重ねる。ミリアさんは、色んな感情が混み上がっているのか瞳を大きく揺らし、わたしを見つめたまま動かない。わたしは笑顔を作り、ゆっくりと口を開く。
「ミリアさん、良かった。やっと会えました」
「よく、ここまで来れたわね」
「色々ありました。でも、カインさんから聞いて、心配だったんですよ?」
「そう、心配かけちゃったわね。ごめんなさい」
「まったくです。心配したんですから」
「もう、それは私の台詞でもあるわ。貴女だって、いきなり居なくなってたんだもの。心配したわよ」
そうだった。自分も王都で騒ぎを起こして居なくなってたんだった。すっかり忘れてたや
「ま、私が保護してるから問題ナッシングよ。ミリア」
「ユウキに、リント? 貴女たちまでいるなんて、いったいなんなの?」
優希の方を見て、驚きの声をあげる。そんなミリアさんの様子を見て、クスクスと笑う。悪戯が上手くいったと言わんばかりに
「ふふふのふ。さあて、なんででしょーうか?」
「まったく、貴女は相変わらず。もう、わからないわよ。からかわないで教えてちょうだい。」
「あら、ダメかね?」
「ええ、ダメよ」
「あー、取り込み中のとこ悪いんだが、お前さんがたは何者なんだ?」
二人がそんなやり取りをしていると、突然、声を掛けられた。それにハッとなって声のした方に目をやると、大柄で厳つい顔を白髪混じりの髪に顎に髭を生やしているオジサンが片手を挙げていた。見るからにガッシリしてる、なんというか、うん、あれだ、ガチムチさんだ。筋肉質というのだろうか? 祐輔が言っていた船長さん、なんだろうか?
「あら、失礼しました。私はミリアの友人の優希と言います。こっちのミリアに絡まれてたのはシア」
「シアです。宜しくお願いします」
「おう、宜しくな。嬢ちゃん。俺の名前はジョージだ」
差し出された手を握る。くぅー、イタタ、力入り過ぎだよ。離された手を見る。うう、手、赤くはなってないよね? あ、良かった、大丈夫みたいだ
「自分の名前はリントと申します。シア、それにそちらに居るミリアとは同じ旅団の一員です」
「そうか、アンタらがか。んで……久しぶり、なのかね?」
ジョージさんが、優希の後ろに隠れているリリーに声を掛けた。リリーが顔をそっと出した。
「……久しぶり。ジョージ、なんか、ちょっと老けた?」
「フッ、まあな。リリーは相変わらず変わらんなぁ、お前さんと会うのは何年ぶりだっけか?」
「二年ぶりだよ。カインさんと一緒にこの町に来て、その時に会ったのが最後」
「そういやそうだったな。んで、お前さんが誰かと一緒だなんてな」
「目的達成のため」
「そうかい、相変わらずかね。んでお前さんがたは?」
「カインさんから話を聞いて、ミリアにその時の話を聞きたくてきたんです」
わたしの言葉に、ミリアさんが止まった。どうしたのだろうか? 体が震えている。もしかして、言ってはいけない事だった?
「ミリアさん?」
「……ごめんなさい…大丈夫よ。私が見たのはカインさんに話した通りよ」
「そ。ねえ、マーカスはどんな感じだった? それだけでも聞きたい」
優希が言うと、椅子に座り天井を眺めて、深く息を吐いた。そして、ぽつりと呟いた
「団長……いえ、あの男は瘴気の中に死体を入れる時も、その光景を見て、恐くなって逃げ出した私を攻撃する時も、チラッと見たのよ」
「見た? 何を見たんだ?」
「……普段の分かるたちの知る振るまいからは考えられないくらいに冷たい瞳をしていたの。普段と違ったからよく覚えてるわ。あの人がなんだか魔物よりも不気味に思えて恐かった」
マーカスさんが、不気味に? ミリアさんの口から聞けば何か決まると思っていたのに、わたしは何も決めれないでいる。どうすればいいんだろうか。口を開いては何も言葉が浮かばずに閉じてを繰り返すわたし。そうしてる間にミリアさんは歩き出しわたし達の間を通り過ぎていく
「ミリア?」
「これで、この話は終わったわよね? じゃあ、私は行くわよ。貴女たちと話せて良かったわ」
「ミリアさん!?」
「……シアちゃん。私はね、あの男が恐いの。どうすればいいか迷ってしまう。どうするべきかを考える為にもここに残っているの。勝手だけど、許してちょうだい」
「ミリア、それは我々と一緒に行動する間には決めれないことか?」
「ええ、リント。少しだけ時間をちょうだい」
振り返ることなくそう言って、店から出ていってしまった。その背中をただ見つめるだけしか、わたしにはできなかった。
「お前さんがたは知らないだろうがさ、アイツもあれで少しはマシになった方なんだぜ?」
「そうなの?」
「ああ、初めのうちは周りを必要以上に警戒していつ見てるこっちが心配なくらいだった。今でこそ、多少は打ち解けてきたな」
「ふむ、そうか。あのミリアがね」
「ああ、そうだ。さて、そろそろ俺も行くがお前さんがたはどうすんだ?」
「この町で、仲間と合流する予定でね。それまでの間は滞在する予定でいる」
ジョージさんの質問にリントさんが返すと、「そうかい」と言ってジョージさんも店から出ていった。
「まさか、ミリアに拒絶されるとは」
「ミリアの事、どうするの?」
「本人は時間をくれと言った。となるとこればっかりはミリア次第だな。シア、どうした?」
「………」
「シア」
肩を揺すられて、ハッとなり知らない間に俯いていた顔を上げる。リントさんが心配そうにわたしを見ている。えっと、なんだろう? 話を聞いてなかったや
「彼女の事、気になるのか?」
「は、はい」
「そうか。滞在する間はミリアもこの町にいるだろう。話をする機会は幾らでもある。彼女の事だ、暫くしたら決めるさ、だから、そう落ち込むな」
ポンポンとわたしの頭に手を置き、撫でられる。慰められてるんだろう。だとしたら、嬉しい反面申し訳なくなる
「そうですね、ありがとうございます。あの、先に宿に戻ってます」
「……分かった。後で合流する」
「はい、それじゃ行きます」
わたしはみんなに頭を下げてから店を出て、宿へと戻り。部屋へと入りベットに倒れ伏す。この町に来れば何か決まると思っていたけど、そうならなくてどうしたらいい? ダメだ、何も思いつかない。どうしようと考えている内にゆっくりとゆっくりと、わたしの意識を闇に沈んで
いく
ん、アレ、ここは何処? 見覚えのあるような景色が視界に映る。閉めきられたカーテンにより光が遮られ、部屋の片隅には乱雑に雑誌が置かれている。机の上でパソコンが電源が着いた状態のままでほったらしにされた部屋にわたしはいた。
こんな場所にいつの間に来たんだろうか? 頭を捻り考えてみるも思い出せない。というか、あの世界にパソコンなんかあっただろうか? いや、それより、ここは誰の部屋なんだろう? 知ってるような気はするのに思い出す事が出来ない。
「……ホントにここ、何処?」
残念ながらその言葉に返事をくれる人はいなかった。多分、あの夢だとは思うんだけど。どうして急にこんな
とりあえず、辺りを見回す。壁には時計が掛けられている意外何もない。本棚には漫画だらけ、タンスには男物の衣類が仕舞われていた。見覚えはない、はずなのに知ってる気がする。
「わたしはここ、知ってる?」
『気に入ってクレたカな?』
「え?」
背後からした声に振り向く。そこには黒い靄が人の形をしていた。思わず、後退り壁に背中がぶつかる。黒い靄がゆっくりと近づいてくる。距離が縮まっていく
『少し趣を変えテみたがどうダッタかな?』
「ここは何処? お前は誰?」
キッと強く睨みながら質問する。その間にも距離を埋められ、もうそれはすぐ目の前に立っている。恐い。この声、何処かで聞いたような
『ククク、そう怯えルナ。マァ、いイだろう。ここは夢の中だ。今回は我ガ少しばかり弄ったがナ』
「弄った?」
『そウダ。さて、我ガ誰かだが。お前の父でアリ、母であると答えよう』
「意味がわからない」
『フム、そウか。我ガお前の今のカラダを造ったノダ。コレガ一番しっくり来る表現だ』
わたしの体を造った? いったい何の話をしてるんだ。問い詰めるようと口を開く前にぐにゃりと視界が曲がる。立っていれなくなりその場に座り込む。なんだ、これ。力が入らない
『残念なガら、時間切れか……マァ、良い。いずれ会うかもシレヌしな。その時まで暫しの別れダ』
待って、どういう意味? 言葉を発するよりも早くそこで時間切れになってしまった
「シア、起きろ!」
誰かの声がする。いつの間にか眠っていたようだ。わたし瞼を開けてボヤける視界で声がする方を向く。チラッと見えた窓の外では陽が沈みつつあるのか赤く染まっていた
「リント、さん?」
「やれやれ、気になって見に来てみれば寝てるとはな」
「うう、ごめんなさい」
「まったく、君という奴は」
上体を起こし、リントさんの様子を伺う。うう、呆れられてるんだろうか? でも、わざわざ起こしに来てくれたということは何か用があるのかな?
「それで、リントさん。わたしに何か用ですか?」
アレ、リントさんが溜め息を吐いてしまった。何かあったっけ?
「ハサンに着く前に言ったな。ミリアから話を聞いたら私も話があると」
「あ、う、そうでしたね。ごめんなさい」
「忘れてるとは思っていたさ。まあ、今回は許すとしよう」
リントさんが、近くにあった椅子に腰かける
「さて、話の内容だが、君にいつか話すと言った事と、私からの頼みだよ」
「話は分かりますが、頼みですか?」
「ダメかね? 頼みは話の後に言う。話を聞いてから考えてほしい」
「えっと、分かりました」
わたしが頷くと、リントさんはゆっくりと口を開いた
随分と間が空いてしまって、申し訳ありませんでした。これからはまた週一でやっていきたいと思っています。
少しでも読んで貰えたら、嬉しいです。




