第50話 再会
それが、私のワガママでしかないのは分かっている。だが、何度考え直そうとしても、同じ結論に行き着いてしまう。以前の私ならば、こんな事を考えることはなかっただろう。
私自身が変わるには、何か切っ掛けが必要だと思うのだ。その切っ掛けとして、背中で寝息を経てるお嬢さんを選び、実行する。拒絶されるかもしれない。それならそれでかまわない。受け入れてくれたなら、私は
「……その為にも、まずは話さなければな」
「リント、なんか言った?」
「いや、何も言ってないさ」
「そう。なら、いいけど。柄にもなく緊張してたりするかと思っちゃったのに」
やれやれ、ユウキは相変わらずか。と、ようやく目的地の町が見えてきたか。潮風の香りがし、活気づいた声が耳に届く。ここに来るまで問題はあの一件のみだけなのが幸いだったか。
……なんだろ……なにか、話し声がする。わたしは瞼を開けて、目を擦り、見てみる。優希とリントさんが話しているのが分かった。見れば、賑わい活気づいた声がする。どうやら、あの廃村ではないようだ。
「あ~~、長かった。やっとハサンに着いたわねぇ。馬車使わずに歩くのはもうウンザリでござる」
「ああ、ってなんだその語尾は?」
「嫌でござるか?」
「めんどくさいだけだ」
「つれないわねえ」
「ん、む……なにか、あった?」
「あら、シア。もう着いたから降りてちょうだいな」
「ん、わかった」
ゆっくりとリントさんの背中から降ろしてもらい、自分の足でちゃんと立つ。途中、よろけそうになるもリリーが支えてくれたのでセーフ
「ありがと、リリー」
「いいの。気にしないで、それより、瞳」
「え?」
リリーが、わたしに指差してくる。どういうことか分からず、思わず首を傾げてしまう。瞳がどうしたんだろうか?
「瞳、光ってる」
「……マジ?」
「マジ」
そうは言われても、自分の顔を確認する方法なんかないし、どうしよう。リントさんや優希の方を向いてみる
「確かに、金の瞳が光ってるな。シア、自分でなんとか出来ないのか?」
「出来たらやってますよ!!」
「ふぅむ、ドリスでも一回あったわね」
「そうなの?」
優希の言葉に、わたしは聞き返す。すると、優希、優しげに微笑み、わたしの頭をポンポンと軽く叩くとゆっくりとした動きで撫でてくる
優希の瞳に映る自分と目が合った。本当に右目が淡い輝きを纏っている。そのまま、立ち尽くしている内にスッと光が治まっていった
「ありゃ、治まったわね」
「うん」
「身体は大丈夫か?」
リントさんの言葉を聞き、手を振ったりジャンプしたりしてみる。何ともなさそうだ……服のお腹の辺りがあの時に刺された血で真っ赤だけど。服も穴が空いてるし
服の裾を捲り、傷の状態を確認する。服は真っ赤なのにも関わらず、白い肌には傷は一つもなく赤に染まってはいなかった。これも、初めて使った時と同じか
「……何をやってるんだ、君は」
「傷がないか、確認を」
リントさんが溜め息を吐くと、羽織っていたコートをわたしに投げつけてきた
「わっ!?」
「宿を取るまで着ていろ」
「え、でも」
「いいな、着ていろ」
「あ、はい。ありがとうございます」
凄まれてしまい、その勢いに負けて羽織る。ブカブカだ、手なんか指先しか出てない
「ふふ、着替えなきゃいけないのは確かだしね。宿で着替えてからミリアを捜しましょ?」
「うん」
「……やれやれ、シア」
「何ですか?」
リントさんが真剣な表情でわたしを見ている。なんだろうか?
「ミリアから話を聞いたら、時間を空けてくれ。話がある」
「あ、はい、分かりました」
それだけ言って、先に行こうとするリントさん。わたしは一つ気になったことがあったのを思い出した
「あ、あの!!」
「どうした?」
「……わたしを襲ってきた人はどうなりましたか?」
「君が倒した相手か。ああ、自分を討ったことを誇りにしてくれと遺言を預かっていたな」
「そう、ですか。」
「話は、それだけか?」
「は、い」
討ったことを誇りに、怒りに我を忘れてわたしは殺したのに? ああ、でも、どうしてだろう。人を殺したのにわたしは罪悪感に捕らわれたりしていない。あの時はアレが正しかった、そうとしか思えないだなんて
「……君は間違ってなんかないさ、君はやらなければやられていたかもしれない。だから、気にするな」
「あ、ありがとうございます」
「なぜ、礼を言う?」
「励ましてくれてますから」
「知らんな。勝手にしろ」
「はい、勝手にします」
それから、宿を取り、着替えてからミリアさんを捜す為に外に出る
「さて、カイン氏はここにミリアがいると言っていたが」
「ミリアを捜すのかぁ」
港町ハサンは、広い。行き交う人の中から見つけなきゃいけないと思うと気が進まない。あ、今、思い出したけど、祐輔まいるんだよね、ココ。祐輔なら知らないかなぁ。というか祐輔はココで何してるんだろ? 港町だから、船乗り? あはは。似合わない
「シア、どうしたの?」
「あ、ゴメンね。そう言えば、ココにはわたしの知り合いを送ったってカインさんが言ってたのを思い出したから」
「カインさんが?」
リリーが、小さく首を傾げ、腕を組み考え込む。何か心当たりがあるんだろうか? というか、リリーはカインさんと知り合いなんだろうか?
「ハサンだから。あそこか、分かった。行こう」
「え、ちょっ!?」
リリーがわたしの腕を掴み、歩き出す。そのまま、わたしは引っ張られていく。リリーはまっすぐに港の方へと向かっているようだ
「ちょっ、リリー。待って」
「待てない」
「カインさんとリリーは知り合いなの!?」
「うん、そう」
あっさりと言ってのけると、また歩き出すリリー。ずんずんと進んでいき、港町まで着いた。急に立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回している
「誰を捜してるの?」
「……」
無視された。優希に応援を求めようとするも、優希はクスクス笑っているし
「あれ、シアじゃん。久しぶりだなぁ!!」
突然、目の前から声を掛けられた。何事かと見ると見覚えのある人物がそこに立っていた。雄輔だ、雄輔は出会った当初の神父服ではなくて、頭にバンダナを着けてラフな格好でいた
「おお、その人達がお前の仲間か!!」
「アンタは誰だ?」
「リントさん、彼は祐輔です。以前、知り合ったんですよ。祐輔、こっちはリントさんに、優希にリリーだよ」
「なるほど、王都での一件でか。私はリントだ」
「よろしく!」
「ほお、雄輔ね。つまり、同郷さんか。ドーモ、雄輔=サン。優希デス」
「ドーモ、優希=サン。雄輔デス…って、何をやらすんだよ!!」
「からかったでござる」
「なんで、ござる!?」
優希が、雄輔をからかって楽しんでいる。そんな様子を一瞥だけして、リリーはまだ辺りを見回している
「ありゃ、嫌われてる?」
「リリーはカインさんの知人を捜してるんだよ。祐輔、何か知らない?」
「あー、船長か? 酒場じゃねえかな」
「酒場?」
「昼時だからな、飯だろ。」
船長、さん? え、じゃあ、雄輔はやっぱり船乗り?
「雄輔、船乗り?」
「まー、水夫見習いだな。仲間内には馴染めたけど船長がいい人なんだけどなぁ、これがまだ一人前と認めてくんないんだよなぁ」
そうは言うけど、どこか楽しそうだ。良かった。雄輔は雄輔で楽しそうなようで
「あ、ねえ。雄輔?」
「ん、どった?」
「カインさんが運んできた女の人は、知ってる?」
「んにゃ、知らんな……って、ウソだよ、悪かったってそんなヘコむなよ」
ヘコんでないし、別にヘコんでないし。
「ま、姐さんも一緒なんじゃねえかな」
「姐さん?」
「まー、会えば分かるかもよ。近場にあるから行ってこいよ。俺、まだ仕事あるしよ」
視線を反らして、言う雄輔。ミリアさん、何かやったんだろうか? っていうか姐さんってなんなんだろう?
「あ、うん。ありがとう雄輔。会えて嬉しかったよ」
「おう、俺もだ」
ニッと笑う雄輔に手を振ってから、その場を後にする
「ずいぶんと親しげだったな」
「あはは、友達みたいなものですよ」
「そうか、しかし、姐さん、か。何をやらかしたんだ、彼女は?」
「ミリアだからねえ、楽しみね」
頭を抑えるリントさんと、楽しそうに笑う優希。と、とりあえず、ミリアさんの情報を見つけれただけ上出来だと思うのだけど。なんか、トントン拍子で後が怖いけど
道行く人に場所を尋ねながら、酒場の前に到着。中から笑い声がしている。リントさんが扉を開けて中にはいっていくのに付いていく。中はこじんまりとしているけど、おき客さんで賑わっているようだ。
「……いたぞ」
リントさんが、ボソリと呟く。指差す方を見ると、確かにそこにいた。見覚えのある懐かしい姿のままで。隣に座る大柄の人が船長さんなんだろうか?
ゆっくりと近付く、楽しげに会話する二人と距離が縮まっていく
「ミリアさん?」
わたしと振り向いた。振り向き、驚愕の表情を浮かべている
「………シア、ちゃん?」
ミリアさんとの再会だった
ミリアさんと雄輔との再会です。
誤字脱字がありましたら、教えてください
名前を修正しました
×祐輔




