第44話 ここは、何処?
わたし(ボ/く/ハ)は、どうしたものかと頭を悩ませた。いやね、ミリアさんに会って話を聞いて、どうするかを決めることには賛成なんだよ? じゃあ、いったい、何に悩んでるのかと言われると……
「まーた、ここかぁ」
また、夢の中にいるのだ。わたしの眼前に広がる太陽の光がきらきらと反射して輝き、湖は透き通っていて底の方までよく見える。魚の姿は見えないのに、倒壊した柱や階段が見えている、アレはなんなんだろうか?
さて、前回はどうだったっけ? そうだそうだ、小鳥の囀りが聞こえてきて終わったんだった。なんだろう、ここは来る度にわたしが最初に立っている場所が変わっている気がする。
ここからどうすればいいんだろうね。この湖の中にでも入ればいいのかな? どうすればいいんだろうね、本当に。
あそこに見える柱や階段とか、見た覚えがあるなぁ。どこだっただろうか?
なんとなく、しゃがみこんで両手で水を掬ってみようと触れた時だった
「ひっ、つ、冷たっ!?」
あまりの水面に触れた手を思わず引っ込めた。今度は恐る恐るといった風に触れてみる。身体中の熱が奪われるような錯覚を覚えさせるくらいに冷たかった
「………ムリ、とてもじゃないが入れない」
ぐるりと周囲を見回してみる。目の前には湖、左右真後ろは鬱蒼と生い茂る森といったところか
うーむ、前は進めない。とすればだ、もうバックしよう。バックバック。それしか出来そうにないし。名残惜しそうにチラチラと湖の方を見ながら森の方に進む。
またも、景色が変わった。今度は平原といったどころか。満天の星が空に浮かび、白銀に輝く月が浮かんでいて、僕の腰くらいまでの高さを誇る新緑の草が、そよ風に吹かれてゆらゆらと揺れている
『誰か居るのか?』
突然の事に呆けていたら、懐かしい声が聞こえてきた。力強くよく響くこの声は――――
「マクシミリアンっ!!」
『ム? この間抜けな声と魔力はまさか、シアか』
間違いない。マクシミリアンだ。良かった、(間抜けで悪かったな)知ってる人物もとい知ってるドラゴンの声が聞けた。でも、姿は何処にも見当たらない。いったい、何処にいるんだろう?
『其方の頭上だ。我が飛べる事を忘れてはいないか?』
「あ」
『やれやれ、やはりか。そこに居れ。今すぐ降りる』
ゆっくりと上を見上げる。彼の姿が見えてきた。大きな体躯がゆっくりとゆっくりとわたしの前に降りてくる。その翼の羽ばたきにより起きる強風で、髪が揺れる。思わずおさえる。
『久しぶりだな。シア』
地上に降り立った白いドラゴン、マクシミリアンが挨拶してくれた。わたしはそれに、笑顔で応える
「うん、マクシミリアン。ところでさ」
『なんだ?』
「ここ、何かあったの? なんだか、色々と変わっているけど」
マクシミリアンなら、何か分かるだろうと尋ねてみたが、ふーむ、と唸り声を挙げた
『いや、わからぬ。シアよ。我も突然の変化に驚いているのだ。此処は進めば景色が変わる。貴様の方でわからぬか?』
「ごめん。僕も分からないんだ」
『そうか。そうだろうとは予想してはおったがな』
特に残念がる様子もなくそう言って、彼はぐるりと周囲を見回している。わたしもそれに倣う。この平原は夜といった事しか分からない
「何もないね」
『フム』
「マクシミリアン?」
『どうした?』
わたしは、マクシミリアンのすぐ側まで近付き、その体にゆっくりと触れてみる。鱗がザラザラしていて冷たいが、さっきの湖程ではないから触れていれる
『シア?』
「良かった。マクシミリアンはちゃんとここにいる。』
『……? わからぬ事を言うでない』
「あはは、ごめん。なんか安心しちゃって、つい変なこと言っちゃった」
『そうか。我は気にしてはおらぬ。しかし、寂しかったのか?』
「まあね。うん、寂しかった」
マクシミリアンは無言で何も喋らなくなった。でも、本当にありがとう
そのまま、しばらくの間マクシミリアンの側でしゃがみこんだまま、動かないでじっとしている。
そよ風は優しく吹いているだけだし、空には雲一つ浮かばない。何かがおかしかった
『この空間の時間は止まっておるのか?』
「え?」
思わず、マクシミリアンの方を向く。彼が頭を動かしわたしを見た。
『時間が止まっているのかと言ったのだ。見よ。空に浮かぶ月が浮かんだままだ。現実ならば、時間が経つ度に月も傾いていくものだ』
「そう、なの?」
『うむ、あの月をよく見てみよ』
マクシミリアンに言われて、月を見る。確かに最初に見た状態のままに淡い輝きを放っているだけだ。ちっとも動いてない……と思う
。自信があんましないけど
それよりも、わたしがここにいる時間が長い気がする。前回までが、どれくらいの時間いたかと測ったことないけどさ。そんな事は置いておいても、長い時間いる気がするんだよな。
ふむ、進んでますかね。よっと立ち上がる
『シア、どうするつもりだ?』
ん? このまま何もしないよりは動いてみた方がマシかなと思って」
『貴様という娘は、無計画にも程があろうに』
「まあまあ、何かあったらそれはそれだよ。何かあってもマクシミリアンがいるでしょ?」
マクシミリアンは呆れてしまったのか、黙ってしまった。それを都合のいいように解釈してわたしは歩み始めようとした
―――瞬間、視界が真っ暗になる。立ち眩みとは違う。脱力感はないし身体中をくる気だるさもない
ただ、真っ暗なのだ
「マクシミリアン!?」
『ムゥ、なんだ? 我の視界を遮るとはな』
「大丈夫なの?」
『そう、心配するな。我は問題ない。暫し、このまま堪えよ。いずれは治まるだろう』
「………わ、わかった」
返事をして、堪える。闇だ。黒い視界。完全なる黒だ。これでは、目を開いているのか閉じているのかが分からない。でも、さっきまでは開いていたのだから、閉じてはないはずで
ああ、もう、分からない。いったい、どうなってるんだろうか? 進もうとしただけじゃないか!!
『ヤレヤレ、暫シ堪エヨト彼奴モ言ッタデアロウ?』
「え?」
『ヨイ。ナカナカドウシテ、ソノ姿、良ク出来テイルジャナイカ、我ニシテハ、良ク造レタト思ウナ』
得体の知れない声が聞こえる。どこか不気味で恐ろしい感じがする。どこから聞こえるんだ? どこにいるんだ?
『ククク、ヨイ。ヨイナ。ヤハリ、器ガ出来テイテモ動カナクテハナ。ヤハリ、魂ガ入リ、チャント動ク実物ヲ見ルノハ良イ。ククク、彼奴モ面白イノヲ選ンダモノダ。コウモ怯エルトハナ
サテ、シア?』
「………な、なに?」
『シア? どうしたのだ?』
『直ニ視界モ戻ルダロウサ。現実モ少シハ状況ガ変化シタノダッタカ? ナラ、今日ハ、スグニハ帰サヌゾ?』
その言葉に言い様のない恐怖を感じた。恐い。耳を塞いでも頭に響いてくるような感じがしてしまう。
マクシミリアンがすぐ側にいるはずなのに、まるで一人でいるようで、じっと得体の知れない何かがボクを見ている
「あ、うぅ、あ、ぁあ」
か細い声が自分の口から漏れた。ボクは耳を塞ぎしゃがみこんだ。だけど、そんなちっぽけな抵抗をするボクを見て笑っているのだった
『サア、ソロソロダゾ? 準備ハヨイカ?』
少しでも読んで頂けたら、とても嬉しいです。
もし、アレ?ここの字間違ってね?みたいに、誤字脱字などがありましたら、教えてくださいませm(__)m




