第43話 状況が理解できない
いかん。カインさんの言葉が理解できない。いや、理解する事をわたし自身が拒んでしまう。だって、そんなハズがないんだから。
「……え? 今、なんて?」
「信じれんじゃろうな。ワシとてまだ疑っておる段階じゃしな
もう一度だけ申そうか。マーカスらが最近、騒がれておる魔物を生み出すのに加担しておるらしい」
ウソだ。そんな事あるわけない。だって、マーカスさん達だよ? そもそも、そんな事があるのだろうか
マーカスさんやデイビットさんがそんな事するとは思えないし、思いたくない
どうしたら良いかわからずに何気なく優希の方を見ると、視線が合うなり頭を撫でられた。慰めてくれているのかな? ちょっとありがたいな
「……それで、アンタはミリアから話を聞いたらしいが
どういう事だ?」
リントさんがカインさんに尋ねる。ミリアさんから聞いたと言っていたけど、そもそも、ミリアさんはなんでそんな事を言ったんだ?
「ふむ。そうであったな。まあ、シアと別れユースケを知人の住む港町『ハサン』に送った後の事じゃよ。えらく美人な娘が倒れておったのでな、ワシは町に引き返した」
「それで?」
「それから大変であったよ。翌日の朝に眼を覚ますや否や暴れだすわ、魔法を使おうとするわでな。冷製さを取り戻すまでの間ずっとワシは思いきり叩かれて散々じゃったよ」
左頬を擦りながら、痛かったのと小さく漏らした。あ、左をぶたれたんだ
眼を覚ましたら爺口調の若者がいた光景か、戸惑うよな
ゴホンと、カインさんが小さく咳払いしてわたしをチラリと一瞥した。うう、なぜ、見たし
「……まあ、落ち着いたところで事情を聞いておったら、マーカスやシアの名前が出てな。カッカ。あの娘にお主は可愛いがられておったようじゃな。
おっと。でじゃ、ワシがなぜ、離れてあのような場所で倒れておったのか尋ねたら恐る恐るといった感じに話してくれたわ」
「なんて言った?」
「俄かには信じれぬが、道中で見つけた死んでおる旅人の遺体を障気の中に放り込み、聞いた事もない魔法を唱え出し、障気の中で遺体が不気味な姿に変わり出したのだそうだ。
得体の知れない恐怖とおぞましさに襲われた彼女はその場から一目散に逃げ出したそうじゃよ 。背後からいきなり、マーカスの魔法に襲われながらな」
「……では、カインさんはミリアの話の真相を確かめる為に二人を探してるのね?」
優希が、わたしの肩を掴みながら、カインさんに尋ねる。わたしもおずおずと上目遣いで見上げる
「うむ。その通りじゃよ。着物の娘よ。まあ、結果は知っての通りに逃げられたがのぉ」
「それで、どうするので?」
「そうじゃな。」
わたし達をくるりと見回して、空を見上げるカインさん。
ふうとため息を吐き、ニッと笑い出した
「決まっておる。探すだけじゃよ、先程のデイビットの言葉も気になるのでな。して、お主達はどうする?」
「あ、どうするだって?」
「オジサンは黙ってて」
「うえ? ソイツはねえぜ、ミレイナよぉ」
「でもよお」
「はいはい、オジサンは僕とコレを売りにいこうね♪」
「おいおい、アレンもかよ。くぅぅ、なんかオレの扱い悪くねえか?」
「気のせい気のせい♪」
アレンがオッサンの背中を押しながらこの場から離れていく、オッサンがぶつぶつと何かを呟いているが無視されている。オッサン哀れ
「ふむ、私達としては件の魔物に興味があったのでな。先程の話が本当なら確かめたいな」
「……マジで?」
「ああ、ミレイナ。マジだ!! 本気と書いてマジだ!!」
ビルマさんの言葉に、ミレイナちゃんが呆れたかのように尋ねるとなぜかイキイキとした表情で応えた
「………うはぁ、マジかぁ…マジでかぁ」
「ならば、主らはワシと来るかね? ワシも一人よりは誰かと行動した方がいざというとき助かる」
「わかった。では、仲間が戻り次第出発と行こうじゃないか」
なんかイキイキしてるなビルマさん。何かあったのだろうか? 変わりにミレイナちゃんが疲れたような顔をしてる
「いつもそう。新しい興味が沸くと向こう見ずなんだから」
「苦労してるんだね」
「ま、いつものことだけどさ」
「決まりじゃな。で、他の者達はどうする?」
他、わたしはどうしたら良い? リントさんは何か考え込んでいるし、ハルトは黙ったまま、優希を見ている。優希はそんな二人を見てから、やれやれと肩を竦めさせて、わたしを見て微笑んだ。
どうするつもりなんだろうか?
「では、私はこのままシアを連れて港町まで行きますかね」
「ユウキ、どうするつもりだ?」
「ハルトは今から、一度王都に戻って報告してきてちょうだいな。任せれる?」
「……なんで俺だけなんだ? しかもなんで今からなんだ?」
「まあまあ、思い立ったら吉ということで、それにだね。私が説明するより貴方が説明した方が納得してくれるでしょ?」
「またワケわからん事を、だいたい、誰が言っても一緒だろうが」
「だからこそだよ、キミ」
ぴしっと人差し指をハルトに指差す。ウンザリした表情を浮かべるハルト
「それに、シアと居たいし」
「……お前なぁ」
「不服かね?」
「いや、もういい。シア」
「ん。なに?」
じっとわたしを見てくるハルト。力強い意思を感じさせる瞳。わたしは(ぼ/ク/は)は思わず見つめ返した。急にズキリと頭が痛んだ。突然の事に頭が付いていけないのかもしれない
「気をつけてね、ハルト」
「それは、こちらの台詞だ」
「うん」
「決定か。なら私もミリアと合流してから方針を決めよう。シア、構わないな?」
「あ、はい。リントさん」
突然、会話に割り込んできたリントさんに驚きながら頷く。リントさんのことだから、もう決めててすぐに行動に移すのかと思ってたのに
「よし、各々の目標が決まったの。まあ、いずれはまた合流するじゃろうて。その時は頼むぞ?」
「ああ、だが、その時は依頼と判断して金を貰うがね」
「カッカッカ。成る程、そうきたか。考えておこう
さて、では行くかね」
「ああ、ミレイナ。行くぞ」
「……はいはい。じゃ、シア。またね」
「うん。またね」
小さく手を振るミレイナちゃんに私も手を振ると、はにかんでくれた。
そして、後に続くようにハルトも行ってしまった
「さて、私達はどうするつもりだ?」
「明日からじゃダメ?」
「君は、相変わらず」
「フフ、もっと褒めていいのよ?」
「誰が褒めるか。まあ、私も装備を整えたかったしな」
「シア。行きましょ?」
そう言って、差し出された手と優希の顔を何度も見回してからわたしはその手を握るのだった
まだ真実は分からないけど、ミリアさんやマーカスさんに会えば本当のことがわかるのだろうか?
わたしは、そんな事をぼんやりと考えながら優希の手の暖かさに感謝した
僕は帰ってきたデイビットの話を聞き、顎に手を添えて何気なく無断でお借りしてる場所の天井を見上げる。しかし、ここに長居し続ける訳にもいかないんだよねえ
「…………フム、いいね。まさか、カインまで関わってくるとは面白い」
「どうすんだよ?」
「まあまあ、落ち着いて。却って都合がいいね」
「それはテメエだけだろうが」
デイビットの言葉に僕は苦笑いで返した。そう言われては返す言葉もないからね
まさかカイン。君まで関わってくれるとはね。雛鳥を動かす以外に目的が出来たじゃないか
「彼らは?」
「チッ。テメエに任すとよ」
「そうかい、わかったよ。では、あのハルト青年は無視だ。どうせ軍は大した動きは見せないさ。だから、シア君やカインにちょっかいをだそうか
状況は更新した以上は、進まないとね」
そう言って、僕は静かに笑った。そうさ、転がりだした玉は何かにぶつからないと止まらないんだから
カイン「あれ、ワシの出番こんだけ?」
また間が空きすぎました。スミマセン
もしちょっとだけでも読んでいただけたら幸いであります




