表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で  作者: 甘栗
41/73

第41話 目を覚ました場所は

対価を支払ったせいか、今のわたしは、自分について思い出せないでいる。


他にはぼんやりと、浮かび上がっていたあの暖かな記憶の中の『家族』も、姿が、輪郭がうっすらと浮かぶ程度だ。どんな会話をして、どんな風に過ごしたのかが思い出せない


それは、仕方ないことなんだろうけども、なんて――――寂しいことなんだろうか


さて、それよりも、わたしはなぜかわたしの世界ユメの中に、居る。なんで居るんだっけ? 目を閉じて、思い出してみる。確か、あの魔物に近づいたら変な煙が出て、


「………対価を支払った。そして、使って気を失ったのか」


閉じた瞳を開き、周囲をぐるりと見回す。何も無かった筈の空間には、今は夕焼けの赤に染められた神殿がそこにはあった。所々が欠けている屋根や柱には蔓が絡みつき、その蔓からは色とりどりの花が咲き誇っている。 以前の場所と違って噴水は見当たらない

 別の場所なんだろうか? 眼前にはこれも所々が朽ちている階段がある。先に進んでみようと決心し、一歩、また一歩と歩いていく。階段に恐る恐る足を乗せてみる。よし、階段が倒壊する事はなかった。次に進むぞ―――


「はい?」


――朝の木漏れ日が微かに漏れている森に立っていた。後ろを振り返るも何も無かったわたしが歩いてきた道や階段は、姿形など何処にも。わたしは首を傾げる。神殿みたいな場所にいた筈なのに、なんで森に居るんだ?

そんな事を疑問に思うわたしの頭上で、小鳥の囀りが聞こえた。その囀りに、慌てて見上げるも木々で遮られている。そして、わたしは時間切れになった。




眩しい日差しが、容赦なくわたしを照らしてくる。その事に顔をしかめるも、意識がはっきりしてきたのか、暑さまで肌に伝えてくる。これでは、眠れないじゃないか。仕方なく上体を起こしたわたしの耳に、ドアを開ける音が届いた


その音がした方を見ようとして、わたしは何かが落ちてぶちまけられた音がしたのと同時に、何かに押し倒された


「シ~~ア~~♪」

「うわっ!?」


視界に映るのは淡い銀色の髪、同じ色の瞳を揺れ、目尻に涙を溜めた優希の顔が見える。え~と、わたし、何かしたかっ!? あっ、そうか。気を失ってたから


「もう、君という娘は私がどれだけ心配したと思ってるのかな?」

「あ、うん。ごめんね」

「まったく、貴女は~」

「だから、その、ごめんなさい」


優希の頭に手を伸ばして、わたしはゆっくりと撫でる。それを驚いた表情をしつつも受け入れてくれる。さらさらとした髪の手触りが伝わってきて


「何をやっとるんだ、ユウキ……って、お前!?」


ハルトの声がする。頭から手を離して再度、上体を起こす。ハルトの立っている場所は扉の近くで、床には桶が転がっていた。ああ、あのぶちまけられた音は桶に汲まれていた水か、と納得した


「おはよ、ハルト」

「ああ、もう良いのか?」

「大丈夫。それより、わたしは魔物を倒した後、何があったのかな?」

「覚えてないの?」

「えっと、変な黒い煙に包まれたのは覚えてる」

「そうか、あの煙は瘴気といってな――」


それから、ハルトの説明では、わたしは瘴気の中から自力で脱出して、リントさんに抱き抱えられて気を失ってしまったようだ。その間にリントさんがビルマさんに依頼して、町に帰るまでの間は一緒に行く事になったそうだ。


わたしは眠ったままだったが、リントさんがおんぶして運んでいたらしい。そして、昼過ぎに寄ったこの町、ルーセントという名前の宿屋で泊まるらしい。


「あ、そうだ。あれからどれだけの時間が経ったの?」

「ん、ああ。お前はあれから二日間眠ったままだったぞ。起きたばかりだ、ムリはするなよ?」

「うん。わかった」


ハルトが転がっていた桶を広い、雑巾を持ってくるとそれで床に出来ている水溜まりを拭いてから、部屋から出ていった。


「律儀よね、ハルトって」

「うん、そうだね」

「さて、そんな事は置いといて」


なんだろう? 何かあるんだろうか? 優希は、ゆっくりとわたしから離れ立ち上がると手を差し出してくる。その手をじっと見つめてみる。白くてきめ細かい肌をした綺麗な手だった


「ちょっと出掛けよ?」


わたしは頷いて、その手を握り宿屋から出る事にした



色々と歩いてみて分かったのはルーセントは、アスビス程ではないけど、多くの人で賑わっているみたいだということ。


「ルーセントはね、商業が盛んな町よ。区画整理がきちんとされてるわ。いい意味でも、悪い意味でもね」

「………それは、どういう事なの?」

「貧富の差が激しいの」


抑揚のない淡々とした声。ミレイナちゃんとアレンがいた。ミレイナちゃんがわたしの疑問に答えてくれた。


「裏路地からは、治安が悪いの。お金ない人とかがいてシアには勧めれない」

「わたしには?」

「そだね。シアはなんか抜けてそうだし、チョロそうに見えるしね」

「んなっ、誰がチョロそうだって!?」

「シアがチョロそう。騙されて、有り金持ってかれるとか、こういう場所だとよくある話なんだって、オジサン言ってた」


騙されてか、そうだよね。わたしは同情とかするかもしれないし

っていうかおっさんの経験談なんだ。あの人、被害にでもあった事あるのかな?


「そういった訳なのだよ、わかったかな?」

「あ、うん」

「ま、そんな事より。体は無事?」


ミレイナちゃんが、わたしの顔を見上げてくる。心配させちゃったのかな? アレンはニコニコしてるけど


「うん。問題ないよ。ありがとう」

「そう。よかった」


そう言って、ミレイナちゃんは少しだけ笑った。照れたようにほんの少しだけど、その笑顔は可愛かった


「でですね。僕も心配してたけど、良さげなら何より、今日はムリしないで下さいね」


分かりましたかと、わたしの顔を人差し指を向けてくるアレンに返す言葉が浮かばなかったので、こくこくと首を縦に振った。


「なら、いいんですよ」

「わかったよ」

「それでいい。んじゃま、行こ?」


話を聞いて気にはなったけど、わたしはその場から離れて、宿屋の前に着いたときだった


「ほお、久しぶりだね。シア君

マーカス殿から聞いてはいたが、息災なようだね」


宿屋の前に立つ一人の老齢の男性がわたしに話し掛けてきた。その声に思わず後退りした。この人と会うのも久しぶりだ


「君が無事なようで何より。今日はどこか顔色が優れない人ようだね。大丈夫かね?」

「はい、なんとか。それより、アルフさんはどうしてここに?」


アルフさん、アスビスの町長を勤めている人。相変わらずの逞しい体つきだ

彼は、顎髭を擦りながら、笑いつつも答えた


「ハッハッハ。知人に呼ばれてね。なんでも良い酒が入ったとかでね」

「お、お酒?」

「うむ、酒だ」

「仕事じゃなくて?」


お前は何を言ってるんだと言わんばかりにわたしを見下ろしてくる


「おっと、今日は秘書くんには内緒で来てるのでな。では、さらば」

「………」


スキップでもしそうな勢いで小走りしながら、わたし達の前から去っていった。三人を見ると二人は無言でアルフさんが去っていった方を眺めている。あ、優希が固まってる。というより、何をしにきたんだろ?


「……どうした、君達」


中からリントさんが出てきて、尋ねてきた


「なんでもないです」

「そうか。なら、いいがな。シア、君に一つだけ言っておく」

「はい?」

「貸し一つだからな」

「え?」

「今度、何かあっても私は捜さないぞ。わかったな?」


リントさん、それはわかってる。だから、わたしは頷いて


「はいっ!」


笑う。そんなわたしを見て、呆れたように溜め息を吐かれた。


「やれやれ、変わらないな。君は」


そうして、中に戻っていった。わたしはその後に続いて入った




「……やれやれ、変わらないねえ」


リントと戯れる少女を僕は高みから見下ろす。

少しは変化したようだけども、小さな変化過ぎて、周りも気付けていないようだ。


「んで、どうすんだよ?」

「どうもこうもないさ。我々は、この為に、アレを準備したんだから」


やれやれ、そっぽを向かれてしまったか。さて、行動を開始しようか


「さあ、帰って準備だ。お客様だぞ?」

「………状況は更新、されちまったんだな?」

「ああ、そうだ」

「んじゃま、仕方ねえか」


雛鳥を旅立たさせてやらなくては、ならない。それが出来るのは我々だけなのだから

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ