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この世界で  作者: 甘栗
38/73

第38話 また『アレ』が?

王都を出発してから、早いもので三日が経っていた。

 まだまだ、拠点のある町アスビスは遠くにある。そして今、現在は泊まる宿を探して寄った小さな村、ドリスにいる。そこにある宿屋で食事を取っている


優希とハルトは、初日に軍服から着替えて最初に会った時の服装をしている

二人がついて来てくれる事になって、正直に言えば、ありがたかった。

 六日間も、一人で歩いていくのは僕に心細いのだ。一人は寂しいと感じるのは贅沢な話かもしれない

それでも、僕は親しくなりたいと感じる相手といたいんだから、仕方ないじゃないか。


「ガッハッハ、羨ましいねえ!

可愛いお嬢ちゃんに挟まれて、旅だなんてよお!!」


おっと、失礼………デカイ声で騒ぐ男の声が突然、すぐ近くで聞こえた

何事かと声の主を見る。

頭に派手なバンダナをしてて、ギョロりとした目付き、背中に背負った斧だけ見ればきこりか、山賊と見間違えても悪くない風貌のオッサンだ。

 この村に着いてから、やたらと絡んでくるこのオッサンは、なんと僕と同じく冒険者でどっかの旅団の団員だと名乗った

旅団の名前は、可愛らしかったから似合わねえ。と内心、思ったのは内緒

旅団名―『月夜の妖精団』。ね? 似合わないでしょ?


それに僕だって、口が悪くもなるというものだ。このオッサンはハルトに絡んでは、やれ、羨ましいだとか、やれ、恵んでほしいだのと言ってくるのだ

 特に、優希の胸やら腰を舐め回すように見ていた。しかも僕には、チラッとだけ見て可哀想な物を見る目をしてきた。それだけで、カチンときているが我慢だ


「真っ昼間から、酒を呑んでる男の言葉に耳を貸す気はない」

「おっ? 言ってくれるね。だが、こいつは、儂には必要不可欠な原動力なのさ」


言い終えるジョッキに注がれたビールを一気に飲み干した

……さっきより、顔が赤くなったオッサン


「なあ、姉ちゃんよ。ちょっと儂と話をしないかね?」

「おい、ジョゼフ!?」

「うっせえな、今は、こっちの姉ちゃんと話してんだよ」


仲間と思われる女性―長く延びた薄い黄緑の髪をポニーテールにしローブを纏った―が、窘めるも聞く耳持たず。むしろ邪険に扱う始末

オッサンは、優希の隣に座るや否や肩に手を回してなんか喚いている。優希の表情が珍しく険しくなってきた


「そっちの兄ちゃんは、そこの胸が残念な嬢ちゃんとベッドの上で遊んでろや。ガッハハハ!!」

「やめんか、ジョゼフ!!」

「貴様、事もあろうに俺の仲間を侮辱するのか!?」


アカン、もう無理。僕は凄くキレた。ハルトの肩を押さえて立ち上がり相手を見る

腰掛けたままのハルトが、僕を見てギョッとしたのか固まった


「……シア?」

「あ? んだよ? 残念なお嬢ちゃん。グッワッハハ!」


許さないし許すつもりなんか微塵もない。優希がポカンと口を開いたまま止まっている。そんなに僕は怒りの形相を浮かべているんだろうか?

今は、ただ。言葉のキャッチボールをしない事に定評のある某対戦カード物を参考にしよう


「おい、決闘しろよ」


僕の言葉に馬鹿デカイ声で爆笑するオッサン。周りのギャラリーと化した客たちも騒ぐ


「お前みたいなちんちくりんが、儂と戦ってみて勝てると思ってんのか!! こいつは、愉快だなあ、オイ!」

「………」

「いいぜ、表に出な。準備運動は大事だしな」


オッサンは、優希と何かする気満々らしい。笑いながらオッサンは先に外に出ていきそれに続く

村の広場で、斧を担いだ酔っ払い。見れば足がふらついている

それで、勝つつもりなのか? 対する僕は素手だ。装備は食事の時は必要ないと思って泊まる部屋に置いてきたまま

オッサンの右隣に見える井戸が、なぜか目に留まった


「さあ、始めようか。勝ったら、今、着てる修道服を――ちょっ!?」


ムシャクシャしてやった。

いや、ほんとに。まさか、自分がこの言葉を使う事になるなんて

僕は開始の言葉なんか無視して一気に駆け寄り、股間にあるたった一つの勲章を思いきり蹴った


「ぐっ、うぉ!?」


勲章を押さえて、しゃがみ悶絶するオッサンの顔面にアッパーを当ててからをひたすら殴る!!


「ブッ!? あだっぢ!? あだだ」


殴る、腹立つから殴る。魔力を籠めて抉りこむように打つべし打つべし!!

ほお、魔力を籠めて殴ると威力が上がるのか初めて知ったよ。あはは、知らなかったやー♪

とりあえず、そのまま殴り、左足で回し蹴りを当てた。

オッサンはフラフラとふらつき、井戸に手を伸ばしもたれ掛かった所を蹴った

すると、頭から嵌まり腹が引っ掛かったのか落ちずにすんだ


「燃えたろ?」


僕はおかしな事を呟いて、唖然としたギャラリーに背を向けて宿屋に戻り冷めかけの食事に手をつけた

戻る時に、後ろで懸命な救助活動の声を聞いたが知った事ではない。



「私は旅団の団長のビルマだ。突然の訪問を許してほしい

昼間は仲間が悪かったよ。すまないね」


あれから、夕方になってから僕らが泊まる部屋にあの時の女性と金髪ツインテールの十代前半くらいの女の子が訪ねてきて頭を下げてきた

ハルトも呼んで話を聞く事になった


「いいのいいの。お蔭で私は大笑いさせてもらったから」

「……あれは、確かに笑えた。あのバカは大変だったけど」

「あのオッサン、どうなったの?」

「ん? 君にやられてからは部屋に籠り女の子こえぇと震えてたよ

アレで反省すればいいけど」


それは無理だと思う。あのオッサンが反省なんかしないように見えたし


「とにかく、ほんとにごめんなさい」

「あ、そうだ。ねえ、どうして、この村にいるの?」


優希の質問に、二人は顔を見合せて無言になる。言えない事なんだろうか?


「いい。オジサンを黙らしてくれたから。言う」

「……ミレイナ」

「まず自己紹介。私は、ミレイナ。種族は人族

それは、そっちのビルマも同じ

職業、魔法使い

そいで、旅団として各地を旅してたらこの村の近辺の平原で妙な化け物が出るっていう噂を聞いてやってきた」


ミレイナちゃんは、淡々とした感じで説明してくれた


「妙な化け物?」

「ああ、まだ噂だが。前に騒がしたのと同じ細身で真っ白な体に異様にデカイ目と口に、鋭い爪をしたヒト型の魔物だそうだ」


僕は優希と顔を見合せる。優希は無言のまま頷いた

たぶん、あの時の魔物だ


「で? アンタ等は見つけてどうする気なんだ?」

「どうする、か。ただ見つけて倒すだけだな、死体と一緒に国に報告すれば

新種の魔物の発見として、多少は報酬を貰えそうだと踏んでる」

「出来るのか?」


ハルトの言葉に、ビルマさんは目を伏せ腕を組んだ


「ムズい。だから、協力者募集中

見つかるかも分かんないし」

「こら、ミレイナ」

「んでも、事実。私達とオジサンにアレンだけじゃ厳しい」


アレン、残りの仲間だろうか? でも、またアレが出たのか。被害を受けたとか聞いてない

そもそも、アレは、なんなんだろう?


「そいで、貴方達に協力してほしい。頼めますか?」

「……ハルト、私は賛成するわ」

「だがな、ユウキ」


二人が小さな声で会話している。内緒話なら交ぜてほしいなぁ


「アレは討つ必要があるわ。被害が出される前に」

「だが、俺達には」


と、ハルトが僕を見た。思わず首を傾げると慌て視線を逸らされた


「シアは一度倒してる経験者よ。経験者から情報を得て対策を取れば」

「………分かった」


話が纏ったようで、ビルマさんにハルトが手を差し出した

突然の事に、ハルトの顔と手を何度も見るビルマさん


「協力する、最善の努力はしよう」

「ええ、頼むわ」


ガッシリと握手を交わす二人。それから、優希が僕が一度倒してる事を話して、僕の知ってる事を全て説明してから対策を考えて、お開きになった


対策といっても伸びる腕や仲間を攻撃範囲内だと巻き込んで攻撃することがあるとか、ほんとに僕が見た限りの事だけど


出発は、朝の10時からになった

また、アレが出た

眠る前に自分のお腹を見た。その魔物に貫かれたお腹

今は、綺麗に塞がっているし傷痕はないけど

またあんな目には遭いたくない


とにかく、嫌な予感がする。僕は不安になりつつも就寝する事にした





眠ったハズの僕の意識はハッキリとしていて、立っているのだと自覚できた

ゆっくりと目を開けると、相変わらずの世界が広がっているハズだった


「ここ、は?」


足下は白い石畳に変わっているし、景色が違うのだ。目の前に広がる朽ちて倒壊した白い四本の柱と絶え間なく水を流し続ける噴水、それらをびっしりと覆う蔓、存在を自己主張する色とりどりのバラの花々

それらを紅く、赤く、朱く染め上げる夕陽が見える

なんだか、この景色はどこか、終わってしまったような印象を受けて寂しくなった


「久し振り。今回がボクと君が、逢える最後の時間だ」


うっすらと目の前に姿を浮かばして現れるあの少年の姿

彼はいつもの笑顔を浮かべている


「いつもと周りが違うんだけど?」

「そうだね。でもこの光景を形作ったのは君だ。ここはそういう場所だからね」


この景色を、僕が? そう言われても実感がないんだけど


「また、アレが現れるよ。」

「うん、分かってる。アレは、なんなの?」

「さあね。それは、自分で調べてみなよ

それより」


彼は僕に近寄ると、トンと胸―心臓のある位置―を突いた


「ひゃっ!?」


彼から距離を置き、思わず睨む。心臓がバクンバクンと高鳴る

ビックリした。胸を両手で覆い隠しながら、いきなり何するんだと非難の視線を向ける


「ゴメン。驚かしてしまったね

ボクはただ、君が対価を支払えば、特典が強くなる事を伝えたかっただけなんだ」


それなら口で言えばいいだけだ。わざわざあんな事する必要ないじゃないか


「そうだね。君の言う通りだ

忘れないでほしい、シア。あの特典は対価を支払うと得るモノがある分、君の中から喪うモノもある事を」

「分かった。ありがと」

「甘いね。君は甘い

だけど、ボクはその甘さが嫌いじゃなかったよ」

「それはどうも。ねえ、結局。君はなんなんの?」

「さあね。自分でも分からないんだから」


最後まで教えてはもらえないのか。ちぇっ


「必要と感じたら、対価を払えばいい。

最も払うタイミングはまた、死にかける事だけど」


なんで、死にかける事なんだ? 戦ったりしない限りは滅多にそんな機会なんかこないじゃないか?


「君の為さ。君がこの世界で寿命以外で死なせない為

まあ、対価にも限りがあるけどね」


そうなんだ。僕の為なんだ

それは、わからなかったけど、せめて自分の意思で使えるようにしてほしい


「どうなるかはその時次第。さて、時間切れだ」


言い終えると彼の姿は、うっすらと消えていく

穏やかな笑みを浮かべて、僕に近寄り頭を撫でてくる


「今は、これでお別れだ。さよなら」

「えっと、うん。またね」


少年は、消えた。風が吹き、どこかで鐘が鳴る音が耳に届いた。

この風や鐘の音も、僕がやったんだろうか?

そんなの分からない。ただ分かるのは、別れがあった事だけ


彼がさっきまで立っていた場所に立ち、今見える光景を眺めるのだった

ご意見、ご感想がありましたらよろしくお願いいたします

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