第36話 ポチャ時々王都
「シア、しっかりと掴まっておくがいい」
「……ぁ、うん、掴まってるよ」
「ならば、よい」
マクシミリアンの言葉に、僕は声をなんとか絞り出して答える
小さな声だけど、マクシミリアンには聞こえたらしい。彼の力強い声に安心感が抱けるがそれとこれは話が違う
どういう事かと言われれば、こう答えようじゃないか
「高いとこは、高いとこは怖いんだって~~!」
青空にムダに響いた僕の絶叫
いやね、うん
最初は、最初だけは良かったんだ。上昇してく自分の視界に妙な感動と興奮を覚えてたから
だけど、暫くの間、こうやって飛行するマクシミリアンの背中で打ち付けてくる風や、雲の中を突き進まれ、見なきゃ良いのについ見てしまった辛うじて見えてる小さく見える建物とかを見て恐怖がやってきてしまった
くそう、見なきゃよかった。でも、見たくなくても何気なく視界に映っちゃってて、なんだろうとか気になっちゃったんだよ。仕方ないじゃんか
って、誰に言い訳してるんだ僕は。
「マ、マクシミリアン~?」
「どうした?」
気を紛らわす為にも、話し相手となってもらわなくては困る
えーと、何を話そう?
「……王都へは、夜に着く事になるだろう。
陽が昇っておる間にも着けるが、これ以上の速度を出さねばならなくなる
それで、お前を落としてしまう可能性がある」
話し掛けておいて、何も考えてなかった僕が何を話そうか考えてると、マクシミリアンが先に話題を出してくれた
「そっか、そんなに『黄昏の森』から近いの?」
「直線上にあるからな、人の足では近いとは言えぬがな
途中で通過した山脈、アレは飛べぬ者にはあの山を越えるのだけでも厳しかろう」
「えーと、山道が急傾斜だとか?」
「山道もだが、彼処を住処とする魔物がそれなりに強いのだ。
昼夜で姿を見せる魔物も違ってくる。昼の間は鳥系が、夜はアンデット、ゴースト系が主に活動する」
へぇ、そうなんだ。同じ山で出現する魔物が変わるとか僕は初めて聞いたな
うーん、もし挑戦する事があったら。旅団の皆で挑みたいなぁ
その時が来るとは思えないけど、あ、いやでも個人的には行ってみたいような
「何か悩んでおるようだが、やめておけ
勇敢と蛮勇は紙一重だ。死を恐れぬ覚悟がないならばな」
「う……わかったよ」
「ならば、よい
ああ、道中で見えてくる湖であの阿呆が武器を落としたのだ」
「ああ、例の湖ね」
人の武器をうっかり水ポチャさせられた湖か
思い出したら、げんなりしてきた
「一度、そこで休んでもよいがどうする?」
「いいの?」
「我は構わぬ、シアが決めよ」
「じゃあ、休憩しよ」
僕の言葉に応えるように、ゆっくりと速度を落としつつ高度が下がっていく
近づいてくる、遠かった景色。嘘だろ、近づいてくる!?
い、イヤ~~!? なんの問題もなく、僕らは湖のある場所まで降りられたのだった
地面に降り、マクシミリアンの背中から降りて、体を丸めて休んでいる彼の傍で僕は座りこんだ
「はあ、ビックリした」
「出発するならば、伝えよ。すぐに行く」
「あ、うん、わかったよ」
自分の中では、二日ぶりだけど実際は一週間も経過しているなんて思わなかった。その事に驚いてしまったけど、王都近くまで戻ってこれた
後は、帰るだけ。ぐっと握り拳をつくる
「少し湖に近付いてきていい?」
「よい、だが、落ちるなよ?」
「わかってるよ」
子供扱いしやがって、ふんだ。落ちるわけないでしょうが、子供じゃないんだから
湖に透き通るような青い水面は、太陽の光を反射しキラキラと輝いていて眩しい
落ちないように注意しつつ、水に触れて、引っ込めた
冷たい、指先から伝わるその感覚に驚いた。もう一回、冷たいけど。さっきよりは触れていれる
そんな事に意味もなくはしゃぎ、うっかり両手を水に突っ込み、僕は顔面から落ちた
派手な水飛沫を経てて、沈む。身体が回転し水面を眺める体勢になった。水の中から見える太陽は眩しい光を放っていて、水中に目を向ければ魚達が穏やかに泳いでいた
綺麗だ、落ちた事も忘れてしまいそうになるくらいに
遠ざかる太陽に、手を伸ばすも手が届かない
ああ、このまま沈むのか。でも、きっと
あの子供扱いし、僕を心配してくれた彼なら、きっと
『―シアッ!!』
ほら、来た。太陽を背にしながら自らの白い輝きを負けじと持つ彼の頭に直接響いた声に思わず微笑み、両手を広げて受け入れる
僕を腕で掴み、浮上し、僕よりもはでな水飛沫を経てて天高く飛翔する。
「――あっ」
水滴が、彼の身体が、翼を広げて太陽を浴びている。それだけなのに言葉が出なかった
目が奪われるような瞬間だった。幻想的で美しかった
「貴様には呆れて物が言えぬ、このまま行く」
「………」
「シア、反省しておるか?」
「うん、した。ごめんなさい」
「ならば、よい。飛ばすぞ」
「マクシミリアン?」
「なんだ?」
「来てくれるって信じてたよ」
マクシミリアンが黙る、それに思わずまた微笑む
照れたんだろう、きっと
「……貴様は、まったく
いや、よい。」
それからも、彼の説教を僕は聞きながらも微笑み続けていた
夜になった。夕暮れしか見てなかったからか、新鮮な感じだ、またこうして、空に浮かぶ月を拝める事が出来るとは
あと、その頃には、僕の着てる服もとい巫女服も乾いた。いや、それよりもまずは
「着いたんだよね?」
「ああ、着いたぞ」
下に見える建物を眺めながら確認し、彼が応える
「目的地の王都にな、後はお前を降ろすだけだ」
「ありがと、マクシミリアン」
「ふむ、まだ礼は早いぞ
今から降ろすぞ」
僕が連れていかれた教会の裏に降ろされた。なんとか着地する
振り返るとマクシミリアンがゆっくりと飛んでいる
「では、シアよ。仲間の元に無事に辿り着く事を祈っておく」
「うん、ありがと
またね、マクシミリアン!」
「……またねか、悪くないな。さらばだ!!」
力強く羽ばたき、突風を起こすと彼はもう空にいた
「またね、マクシミリアン!」
そう叫び、手を振る
姿が見えなくなるのは呆気ないくらいに速かった
あの世界で、彼以外にあったドラゴン。またあの夢の中で会えると言ってくれた
だから寂しくない、また会えるんだから
「誰ですか!? 教会の裏で騒いでいるのは!?」
女性の声に気付き、振り返る
そこに居たのは、寝巻き姿のシンシアさんだった
シンシアさんは、僕の姿を確認すると驚いた顔をした
「貴女、シアなの?」
「あ、はい。お久しぶりです、シンシアさん」
ペコリと頭を下げる、シンシアさんを見ると驚いた顔からゆっくりと微笑んだ
「よく戻ってきたわね。無事で何よりよ
さ、中に入って」
シンシアさんに促されるままに中に入り、シンシアさんの自室にいる
そこで僕は、事情を説明した。彼女は相槌を打って話を聞いていた
流石に夢で会ったとは言えないので、幼少期に会う約束をしてて僕が約束の期日になるまですっかり忘れてた事にした
「えーと、つまり、貴女と親しい相手だから、マクシミリアンと名乗ったドラゴンについては咎めないで欲しいのね?」
「はい、悪いのは約束を忘れてた僕ですから」
「貴女は悪くないわ、悪いのは事を大事にしたカインなんだから」
騙してる後ろめたさで俯く、シンシアさんには落ち込んだように捉えてくれたようだ
ごめんなさい
「分かったわ、ドラゴンの襲撃は大事になってしまったけど、そのマクシミリアンが現れなければ丸く収まるでしょうから」
「はい、ありがとうございます」
「とにかく無事でなにより。マーカスったら、六日前に帰らずに待てばよかったのに」
そっか、帰ったんだ。多分、リントさん達に説明する為とかかな?
「仕方ないですよ、依頼で離れてた他の仲間に内緒で王都に来てたんですから」
「もう、マーカスなんかフォローしなくて良いんですよ?」
「あ、はは」
評価、低いですね。マーカスさん、同じエルフ相手なのに
乾いた笑いしか出ないや
「そんな事より、今夜は泊まっていきなさい。流石にこんな時間じゃあ宿も難しいわよ?」
うっ、デスヨネー
でも、迷惑掛ける訳にはいかないし
「大丈夫ですよ。さ、布団を持ってきますね」
「……ご迷惑をお掛けします」
「うふふ、いいのよ」
それから僕は、持ってきて貰った布団を使ってソファーで寝る事にした
シンシアさんは不服だったようだけど、これでいいハズ
「明日は、優希達に会おう」
そして、帰るんだ
その為にも、あの町までの道程を聞かないといけない。聞いてからは自力で帰れるなら帰る
よし、これで決定!!
「意気込むのは良いですが、休んだ方がいいですわ」
「あ、はい、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい。シア」
聞かれてたとか恥ずかし過ぎる。僕は自棄になりもう寝る事にする
優希達、いるといいんだけどなぁ
不安になるのはやめだ、やめ。お休みなさい
実はサブタイでスゴく悩みました。ええ、流石に―ごほんごほん、ゲフンゲフン、何でもありません
少しでも楽しんでいただけたら幸いであります。誤字、脱字やご感想がありましたらお願いいたしますm(__)m




