第35話 行ってきます
神殿を出てから、僕は雄輔を連れてマクシミリアンのいる城に向かった
途中、襲ってくる魔物を神殿の前に落としてしまってた槍と今、使える魔法を使いながら倒していく
知らなかった、この森が外とは時間の流れが違うだなんて。だから、雄輔の言葉を聞いて動揺し慌てしまう
マクシミリアンは、彼はそんな事、教えてくれなかったから。違う、僕が聞かなかったから教えてくれなかったんだ
だから、マクシミリアンやカインさんは悪くない
だけど、知ってしまったからにはマクシミリアンに確認しなきゃ。それから、この手紙と本を渡そう
この荷物は、僕が持ってちゃいけない物だと思うから
「ちょっ、速い、速いって」
く
後ろからする声に、立ち止まって振り向くと息を荒くし今にも倒れそうな雄輔がいた
「雄輔、大丈夫?」
「大丈夫? じゃねえよ。こっちは、神殿の外、なんて、久しぶり、だっての
なのに、全速力で、走るなよ」
「まだ全速力ではないんだけど?」
息も切れ切れの状態の雄輔が、信じられない物を見るような表情をしてくる。そんな表情でこっちを見るな、そっちが怠けてるだけだ
「雄輔、えーと、頑張って?」
「普段なら、美少女からの応援キターとか喜ぶのに。疲れすぎてて嬉しくねえ」
むっ、嬉しくねえだと。なんて失礼な奴なんだ
「おーおー、ふてくされちゃって、まあ」
「ふてくされてないし」
汗を拭い、ニヤニヤしながら変な事を言わないでほしい、変態っぽい
ホントに僕はふてくされてなんかないぞ?
そんな事より、早くマクシミリアンの所まで行かないとな
「ところで、質問」
「なに?」
「マクシミリアンは、マジでドラゴンなんか?」
神殿から出てから言わなかったっけ? 今更、どうしたんだ?
一度頷いてから何を言ってるんだという意味をこめてじっと見つめると雄輔は、視線を反らして頬をポリポリと掻いた。
微妙に頬が赤いのはここまで走っていたからだろうか?
「あ、いやー、なんつうのかね。男としては興奮してきたつーか、緊張してきたつーか」
「そうなの?」
「ん、まあな。つか、シアは実際、会った時にどう感じたんだよ?」
僕か。僕がマクシミリアンを一目見て感じた事は、彼自体に夕焼けの茜色を浴びながらも白く輝く巨躯に広げられた翼、あの穏やかな瞳に何とも言えない暖かさと優しさを感じた
何て言べばいいんだろうか、あ、安心感? そう、安心感が近い
「うん。そうだね、興奮するよりも先に姿を見た時はなんか安心感を感じたよ」
「は? 安心感?」
「うん……彼はここに居て、僕の事を見守ってくれるんだなぁ、みたいな感じがした」
自分で言ってて気恥ずかしくなってきた。それを誤魔化すように僕はゆっくりと歩く
休憩は終わりにして、進まないとね
雄輔は、僕の言葉にうーんと唸っている。いやまあ、龍を相手になに言ってんだとは思うけど仕方ないじゃないか。他に言葉が浮かばなかったんだから、というかそう感じたんだよ
「雄輔も、実際に会えばわかるよ」
「いやいや、そう感じんのは多分、シアだけだって」
そうなのかな?
「なんとなく思ってたけど、お前、変わってんな
。その性格は転生する前からか?」
「そーだよ、性格はべつに変わってないし、普通だから」
「はいはい、フツーフツー」
流すな、人の話を聞けよ、コラ
こんなやり取りをしながら城に辿り着いた
マクシミリアンは何処だろう、中にいるんだろうか?
前からカインさんが欠伸をしながら歩いてきた
「お、御主か。帰ってきたようじゃな。ん、そちらの者は何者じゃ?」
「あ、俺は雄輔。神殿の中にいた神父だ」
カインさんは雄輔の自己紹介に、ちょっとだけ首を傾げてから、なるほどと呟いて
「ワシはカインと申す。以後お見知りおきを」
「あ、堅苦しいの苦手なんで」
「ほお、其方もかワシもじゃ」
「だよな、疲れるというか」
「ぶっちゃければ、めんどいしな」
「そーそー」
「「アッ、ハッハッハッ」」
ナニコレ、どういうやり取り?
「カインさん、神殿から所有物を持ってきたんだけど、マクシミリアンは?」
「我を呼んだか、シア」
頭上から声がして、空を見上げると翼を羽ばたかせながらゆっくりと降りてくるマクシミリアン
隣を見れば雄輔が、マジでドラゴンじゃんとか呟いていた
「無事に戻ったか、心配したぞ」
「危なかったけど、何とかなったよ。あ、神殿で所有物見つけたよ」
「そうか
しかし、そこの男は何者だ?」
「雄輔だよ。あの神殿に居たんだ
所有物を預かってたんだって」
マクシミリアンに雄輔の事を簡単に説明する。雄輔を見下ろして
「そうか、だが、これからどうする?
あの神殿を出て自由の身となったが、森の外で貴様を知る者はおらぬだろう」
マクシミリアンが一瞬だけ、僕を見てから言葉を続けた
雄輔はその言葉を聞き、お手上げのポーズを取る
「マクシミリアン殿、晴れて自由の身だしな。森の外に出て好きにやりたいが」
「マクシミリアンで構わぬ、さて、貴様を森の外へ出したいが我はシアを王都へ返さねばならん」
「ならば、ワシが森の外、いや、安全な場所まで連れて行こうかの」
僕を置いて話がどんどん進んでいる、一応、いるんだけどなー
「ねえ、マクシミリアン?」
「どうした?」
「雄輔に聞いたよ、ここと森の外は時間の流れが違うんだって」
彼を責める訳じゃない、ただ、聞いてほしいだけだ
「すまぬな、伝えておけばよかったか。ただでさえ、強引に連れ込んだのだ、これ以上余計な不安を抱かす訳にはいかなかった」
「ありがと
一つだけ、人手がだけ教えて?」
「なんだ」
「森の外は、どれ位の時間が経ったの?」
最初の予定と違うけど聞いておきたかった、どれだけ時間経過しているのかを
「一週間と言ったところじゃよ、ワシが提案したのだ」
カインさんが?
「理由はマクシミリアンが言った通りじゃがな、カッカッカ」
いや、笑うところじゃないから。でも、一週間も経ったの?
帰ったらなんて言って謝ろう? ヤバいなんも浮かばない
「ところで、例の物は渡さないのか?」
「あっ」
「………ごめん
これ、二人宛の手紙と本が入ってる」
くぅ、雄輔に言われるまで忘れてた
箱を差し出しすとカインさんが受け取り、箱を開ける
「あの師が手紙とは、また、似合わぬな
むっ、なんじゃこの本?」
「中は読んでないから分からない」
本を開きペラペラと捲り、止まった
「………フム、自身の日記のようじゃな
大概が、ワシかマクシミリアンについてだが」
「本当か?」
「然り、しかし、まあ、きったない字じゃ」
「言うな、カイン
彼奴にそれを望むな」
「わかっておる」
……酷い言われようだ、そんなに汚い字なのか?
「それも渡すよ、日記なら僕には関係ないし」
「すまぬな、代わりにその槍と出発前に渡した服一式をあげる故に許せ」
「あ、ありがとう」
むしろ、そっちの方がありがたいし。コスプレだけど
「我の願いを聞き入れてくれたのだ、約束を果たさねばな
シア、望むならば今すぐに行くがどうする?」
そうだなぁ、マクシミリアンとはあの場所で会えるけど
チラッと雄輔を見る、目があった
「いいんじゃね? お前にゃあお前の仲間がいる。だろ?」
「ありがと、雄輔
またね」
「おう、また今度な」
片手を挙げる雄輔に、思わず笑う。ニッと笑い返してきた
「じゃあ、行こう。マクシミリアン」
「心得た」
カインさんに補助されながら、背中によじ登る
「行くぞ、落ちぬ様にはするが気をつけよ」
「うん、わかった」
マクシミリアンが飛ぶ。地上から少しずつ離れていく
「では、息災でな
王都ではシンシアを頼るが良かろうて」
「分かりました、カインさんもお元気で」
「なあに、ワシは簡単にはくたばらぬよ」
確かに、短いつきあいだけど本当にそう思える
短すぎるけどとか、突っ込んじゃいけない
さて、マクシミリアンの高さが木よりも高くなってきた
王都へ戻って、帰ろう。マーカスさんが、いなかったら優希たちに道を聞いて帰るだけだ
うん、そう考えたらワクワクしてきた
「じゃあ、改めて
行こう、マクシミリアン!」
「良かろう」
いざ、王都へ!




