第34話 神殿と
昔の僕は、物心ついた時には家族や少ない友人だけで関係が成立していた
何人かは仲の良い人達もいた気がするけど、覚えていない。その人達も姉か妹の友達だった
昔は引っ込み思案で、やたらと人見知りしていて、誰かに話しかけられても無言で返事もしない。
面白がって歩み寄ってくれた人に、何と言っていいかわからず半べそになりながらひたすら逃げた
追っかけられたりすると、妹か妹の友達がやってきて追っ払ってくれて、我ながら情けなかった
高校からはマシになって友達も出来て、なんとか就職するようになって
就職すると聞いた友達が、「俺が面倒みてやるから、一緒に大学に行こーぜ」って誘ってくれたな、面倒みてやるからってのが引っ掛かったけども。
そう言えば、僕を可愛いと言った後輩はその話を聞いてからなんか態度がまるでお姉さんぶってるみたいだったような?
そんな日々には、戻れない訳で
異世界に来てからは、異世界にいるという事実でテンションハイで人見知りなんかしてなかったような。治ったんだろうか? だったら、お祝いだ。今夜は呑もう。ビールを、ジョッキ2杯でアウトするけど
なんでこんな事を思い出してるんだろうね。僕は
「うぅ……いたた、なんか目が回る。頭がガンガンする」
夢、だったんだろうか? 何かを思い出してたような
どうなったんだっけ? 確か、建物に近づいたらあからさまな位に怪しい魔法陣が彫られた壁を見つけて触ったらなんか声がして目の前が真っ白になって
「えーと、ここは、神殿の中?」
まだ目が回るけど、上体を起こして周囲を確認
天井は高くて真っ暗で見えないが、壁には何かの動物やらが描かれた壁があって
床は、両端には水路があり水が流れているのが見える
なんか床が淡い光を放っていて足下が明るい。ふらつく足でなんとか立ち上がる
後ろは行き止まりで何も無し、目の前は通路。進むしかないんだろうなぁ
他に出来る事なんかそれだけしかない
「あの時の声、魔力測定だとか基準値がどうとか言ってた」
進みながら、思ったんだけど
僕でも入れたなら、カインさんなら余裕で入れるはず
あっ、あの人は壁を破壊しようとしたんだっけか
だったら、あの魔法陣に気づかなかったのかもしれない。あり得る
頼りになる照明は床だけだなんて、なんで柱に松明とか無いんだろうね、ここは?
この光はなんなんだろう? 異世界的に言えば、なんか光る性質の石とか
「実は、電気とか?」
ないね、言ってみたかっただけです。ハイ
いかにもな場所なのに魔物が襲ってこない、居ないのかな?
だったら、ありがたいけど
と、目の前が行き止まりで道が終わっている
………詰んだ? いやいや、それは困るから。探し物があるのにもう行き止まりとか困るから
何かないかと壁を観察すると、文字が彫られた部分を発見した
しかも、この世界で頑張って覚えた文字でなくて日本語で書かれてる
なぜに? 前にここに僕と同じく日本から来た人がいたとか?
「えーと、『目に見える物が必ず正解とは限らない。正解とはその時、その瞬間によって変わっていくものだ
何が正しいかなんて分からない、分かるわけがない。人間だけだ、正解とかに拘るのは
いや、この世界では、全種族か』」
ヒント? とは違うよね
なんの事か分からない
他にも探すと、今度は床スレスレの部分に見つけた
「『壁に書くネタがない、小難しいのは勘弁な
でさ、この世界はゲームがないんだよ
どうなったんだろう、俺のオ〇ガモン。あのゲーム、育成頑張ってやったのにな
あと、ど〇ぶ〇の森も。村人はどうなった? 気に入った村人に引っ越されてないといいが
最後に一つだけ、オレサマ、オマエ、マルカジリ』」
………知らないって
ネタだっだんだ、真剣に悩んだのに
思わず項垂れてしまう、壁にもたれかかる
その時だった。ゆっくりと壁が回転した
ビックリして、離れると元の位置に戻った
「えーと」
そっと壁に手をついて押してみる、動いた!
回転する壁とか忍者屋敷か、ここは
端に移動してから、押して僕が通れるくらいのスペースが出来るとそこから入っていくと通路が続いていた
後ろの壁にデカデカと書かれた文字が
『いったいいつから壁が動かないと錯覚していた?』
……なん、だと!?
じゃないよ。うっさい、悪かったな。気づけるかバカ
壁に小さく書かれた文字に気づいた
『嘘だ、ドンドコドーン』
無視する事にしよう。オン〇ゥル語なんか見なかった
そう、オンド〇ル語なんか見なかったんだ
神殿なんだよね? なんで日本語でネタが書かれてるのさ!?
この神殿では、日本から来た転生者でも祀っていたのか!?
考えても仕方ないんで進むことにした
で、辿り着いた場所には、大きな女性の姿をした石像が三つ
「………ここで終わり?
所有物なんかなかったけど」
「おや、客とは珍しい……巫女服だと!?」
「っ、誰?」
後ろから掛けられた言葉に思わず振り返る
そこには、見慣れた日本人風の顔立ちの男性が立っていた
歳は二十代くらいか? ややつり目の瞳が僕を珍しげに見てくる
服装は、神父さんが着てそうな服なのが気になるけど
「警戒するなって、ムリだろうけどさ
俺は檜山雄輔じゃなくてこっちだとユースケ・ヒヤマか、君は?」
「シア・ポインセチア……貴方は、えーと」
「雄輔でいいぞ、さん付けなしでも可」
「じゃあ雄輔は、なんでここにいるの?」
僕の問いに、雄輔はおお、きちんと発音されたと言ってから
「そうだな、神父だから、とか?」
「神父なの?」
「そうそう、神父。過去形だがな」
神父なんだ、でも、ここにいる理由になるんだろうか? 過去形ってどういう事なんだろう?
「えーと、シアでいいか?」
「うん」
「シアはどうしているんだ?」
「それは、ここに所有物を置いてきた人の友人に頼まれて」
正確にはドラゴンだけど
「ああ、アレな。ようやく引き取り手が来たか
こっちだ」
僕に手招きし、歩いていく。
その後ろに着いてくと、細い通路があった
「でもさ、正直な話し。ここ来るまで大変だったろ?」
「まあ、うん」
「俺も昔、ヘマしてここに送られた時は大変だったぜ」
「何したの?」
「いやぁ、綺麗なシスターをナンパしてるとこを同僚と大臣に見られただけ」
若かったからなー、と笑いながら話す彼は何歳なんだろうか?
と、ドアを開けて中に入るのに続くとなんか和室にやって来た
床は畳張り、真ん中に囲炉裏
「ビックリしたか?」
「えーと、なんで囲炉裏?」
「囲炉裏知ってんのか、って事は日本人?」
「………元だけど」
僕の両手を握りしめ、嬉しそうな顔をされる
「そっかそっか、あ、なら壁に書いた文字読んだ?」
「まあ、一応」
「おお、そっかぁ。やべぇ、誰も読めないと思って書いたからハズいわぁ」
なら書くなよ、と内心で毒づく
それから、彼は自分の身に起きた事を話してくれた
テンプレでトラックに轢かれて、気付いたらここにいて状況に流されるままに過ごしてたら神父になったと
「で、ここに赴任したけど誰も来ないわ。魔物強すぎるわで
しかも自棄で飲んだ酒に酔ってて、うっかり魔物対策に作られたセキュリティを弄ったせいで変な設定値になっちまって出れなくないわ、元に戻んないわでオワター、って時にやって来た黒髪ロングの美人さんに荷物を預かってくれって頼まれてさ」
「はあ」
知らんよ。でも、その人がカインさんの師匠でマクシミリアンの知人なんだろうな
「それ以来、交流があったけど。この部屋も彼女に改装して貰ったし
まあ、来ないって事は死んじゃったか」
「弟子の人が言うには、らしいよ」
「そっか、手のかかる息子みたいなのがいるって言ってたなぁ」
少し寂しそうに見えた。でも僕が何か言う事は出来ない
と、雄輔が押入れを開けて中から布で巻かれた小さな箱を取り出し引っ張ってきた
「ほい」
「これ、何?」
「荷物、開ければいいんじゃないか?」
箱の蓋を開ける、中から出ててきた手紙の束と本だった
本の背表紙には何も書かれていない、読むのは後にしよう
箱を閉じて脇に抱える
「これだけだよね?」
「そうそう、そんだけ」
「そっか、ありがと」
それから、雄輔の案内で帰りようの魔法陣のある部屋に向かった
「じゃあ、僕は帰るけど」
「んじゃ、俺もついてくわ 帰りのセキュリティだけは最近になって戻せたし」
「いいの、神殿は?」
「いいのいいの、どうせ、誰も来ないし。俺の存在なんか忘れてるって」
そういうものなんだろうか? いまいち納得出来ないけど
「いいんだって、この森は森の外とは時間の流れがビミョーに違うんだから」
えっ?
今、なんて言った?
「雄輔、今、なんて?」
「ん? 『黄昏の森』は奥に進むにつれて外とは時間の流れが違うんだよ。だから、奥にある神殿にいた俺の事を知ってる奴なんかいないんだって」
………もしそれが本当なら早く帰らなきゃ行けない
ヤバい、マクシミリアンの元に早く行かないと
僕は、魔法陣が起動する速度が酷くゆっくりに感じるのだった
スミマセン、ふと思いついた設定を黄昏の森に加えてしまいました。
ネタ込みでやりすぎでしょうか?
もし、楽しんでいただけたら嬉しいです
一部、追記修正しました(1/14)




