第33話 黄昏の森の中で
ゴブリンロードに助けられて、しかも笑顔を向けられているこの状況
どうしてこうなった!?
状況がうまく飲み込めずに座り込んだままの僕の傍には、さっきまで離れた場所に逃げていたゴブリンがやって来て顔を覗きこんできてるし
目尻に溜まった涙を拭いて、ソイツの頭を人指し指でつついた
やめてほしいのか、両手をバタバタと振っているが構わずに続ける
あ、なんか楽しい。取り巻きゴブリン達も僕の真似してつついてるし、うーん、嫌がってはないよね?
「トコロデオマエ、ドウシテ、ココニイル?」
「僕?」
「ソウ、コノモリ、アブナイトコロ、ハヤクデテケ」
出てけと言われても、奥にあるらしい神殿に行かなきゃならない
「帰る為にも、この森の奥にある神殿に行かなきゃいけないんだけど、何か知ってる?」
ゴブリンロードは顎辺りを擦りながらウーン、と唸っている
ダメか、現地の人? なら知ってるかと思ったけか期待出来なさそう
巫女服は、レッドスライムのせいで着衣の乱れを直す際に触ってヌルヌルしてて気持ち悪かったけど替えなんてない
だから、このままで行くとして
まだ軽い脱力感がするけど歩けない程じゃない
「ヤメトケ、アノヘンハ、ドッペルゲンガーガイルカラ」
「って、場所を知ってるの?」
ロード含めたゴブリン軍団がコクリと頷いた。知ってるのか、でドッペルゲンガーが出ると
ドッペルゲンガーを倒さないと、進めないっぽい
「イクノ、ススメナイ、ヤメトケ」
「でも、約束したから行かなきゃ」
「アイツ、キケン、ヤメトケ」
「君が助けてくれたように、僕も彼の手助けがしたいんだ」
「……ソウカ、ワカッタ。ムリヤリ、イクナイナ、マア、ガンバレ」
また僕の頭を軽く叩くと、僕の背後を指差した
その指差す方向を向く、木々で何も分からない
「コノママ、マッスグ、ナンカ、デッカイタテモノ、アッタ。ドラゴンノ、ホウハ、アッチ」
ふむふむ、お城は僕がここに来るまでに通った道とは違うようだ。うわあ、無茶苦茶に進んでたんだな
落ちてた槍を拾って、最初に指差してくれた方を向いてゴブリンロードに頭を下げる
「ありがとう」
「キニスルナ、オレイオレイ」
「そっか、でも、ありがとう」
貞操の危機を助けられたのだ、感謝してもしたりない
ゆっくりと進むと、取り巻きゴブリンが手を振ってきて、思わず笑ってしまう
小さく手を振り替えして、いざ、行きましょうかね
ゴブリンロードの指した方向を進みながら、ふと思った事がある
起きてからだいぶ経ってるのに、空腹を感じてない。普段なら空腹を訴える腹の虫が大人しいな
この森の中にいる影響なんだろうか? だったら、良いような微妙な感じだけども
足元にはかなり注意してる、またレッドスライムを踏んづけてアレ的な行為をやられるのは健全な元――としては、勘弁したいのだ
「っ、また」
頭痛がした。ズキン、とする痛みに思わず俯いてしまう
考えるな、考えるだけ不安になるだけだろうに
だいたい、この世界に来る前の自分の事なんか考えたって帰れないのはもうわかってる事じゃないか。
「つい、頭に過る考えに悩やんだり、頭痛がするとかキツイな」
とりあえず深呼吸しよう、多少は落ち着くかもしれない
すーはー、すーはー、よし、さっぱりわからない
保留にすると決めたんだ、なら、保留だ
俯いてた頭を上げて固まった
視界に映る人物を見て、固まってしまった
その人物には、見覚えがある
やや小さめの身長に腰まである長い金の髪に、小さな顔立ちに、金と青という左右非対称の瞳、小さくて細い手には槍を持っていて、こんな森の中で巫女服を着ている女の子
僕が突然の事態に口を開き呆けているが、女の子は僕に気付くと微笑んでくる
なんて事だ、見覚えがあるなんてレベルじゃない
あの女の子は僕だ。
だけど、アレは僕の姿をした魔物、ドッペルゲンガーなんだ
そっくりさん、って説もあり得るけどあっちも巫女服着てるしあり得ない
自分で自分の姿を評価するなんてナルシストの気でもあるんだろうか? 違うと思いたいしそんな事今までなかったんだと言ってやりたい
「……ドッペルゲンガー、という事は近くに神殿があるんだ」
でも今、見える範囲にはソレらしい建物なんか見当たらない
だとしたら、何処にある? 考えれるのはあの偽物の後ろとかだけど
突っ込んで、振り切れるかが分からない。実力も僕にどれだけ似てるかもさっぱりだ
強さはまったくの別物って事もあり得る訳で
このままでは、距離は縮まるだけ
決めなきゃ行けない。戦うのか逃げるのかをきめるんだ
「あれ、ひょっとして
驚いてるの?」
小さな唇から出た声は、予想通り僕と同じだ。
返事をしない僕を気にも留めてないように、小さく笑った
「ねえ、こうして出会うなんて幸運だよね
そうは思わない?」
不運だよ。しかも距離は槍を振るえば切っ先が掠るくらいまで近付かれた
やるしかない。ドッペルゲンガーは本物を殺してから食べるそうじゃないか
迷ってる間に、近付かれた以上は戦うしかない
相手が槍を構える瞬間に僕は、槍で薙ぎ払う
それを同じ槍の柄で防がれてしまった
「うわっ、ビックリしたじゃないか!」
「我が声に応えて、我の前に光を集めよ、フラッシュ!!」
「眩しっ!?」
僕は、頬を膨らます相手を無視して目眩ましの魔法を発動させる。
これには流石に対応しきれなかったらしく、目が眩んだのか適当に槍を振り回している
その間に、僕は距離を離して魔法を唱える。
「サンダーレイン!!」
「キャアアァア!?」
放たれた雷撃がドッペルゲンガーと手に持った槍に当たり、ぷすぷすと煙を出しながら地面に膝を着いている
しかし、悲鳴が「キャア」か。女子力はアッチが高そうだ
魔法のレパートリーは、あんまりない。むしろ今まで使った魔法しか使えない、他の魔法はまだ勉強してる最中だからだ
よろよろと立ち上がり、僕をキッ、と睨んでくる
怒ったらしい。頭上で槍を素早くクルクルと回してから構えてくる
「ボクは君を殺しちゃうよ?」
「そっか、僕は死にたくないから抵抗するよ」
両者同時に槍を振るいぶつけ合う。いったん距離を離して突きを繰り出すと、それに合わせるかのように突きを捌かれていく
「ねえ、死にたくないから抵抗するって言い分はつまらなくない?」
「そうかな?」
「そうだよ、死にたくないなら敵は殺すべきだよ」
「本当にそう思うの?」
「もちろん」
僕の疑問に、笑みを浮かべて頷いた。僕にしては随分とあっさり言う
魔物だからなんだろうか?
ドッペルゲンガーは、いったん距離を離して槍を構えて突進してくる。その攻撃に対して突きを浴びせる
ドッペルゲンガーは咄嗟に後ろに下がり、掠り傷程度しか与えれなかった
「本当、鬱陶しいな。ボクにやられちゃえよ!!」
怒鳴りながらの攻撃は、軽く脇腹を掠めて鮮血が飛んでいく
痛みに堪えて、攻撃を受け流すのに専念する
攻撃に隙が出来るのを、待つ
あちらは大振りの攻撃を交ぜて攻めてくるのは、わかった
なら、その瞬間に行動するのみ
「そおら、行くよっ」
さっきから、防御に徹していて思ったんだけど
わざわざ攻撃する前にあの槍を回すのに意味があるのかな? 隙だらけな気がする
僕は、槍を地面に突き刺してハイキックを顔面に叩き込む
靴から手応えが伝わる、見れば鼻を抑えて怒りで震えている
僕は、槍を引き抜いてぶん投げる。投げてばっかなのはご愛嬌です
投げた得物は吸い込まれるように彼女の胸元に突き刺さった
驚愕に彩られた表情、僕に似せた姿が黒く変色すると砂のように崩れ落ち消えた
「ふぅ、疲れたー」
相手も特典があったらどうしようかと不安だったけど何とかなったか
とりあえず、進もうか。確か、こっちの方向だったかな?
それから暫くの間、進んでる最中だった
木々がそこだけなくて、開けた場所に出た。そこには苔に覆われた灰色の建物が見える
ふぅ、やっと着いた。さて、入口は何処だろう?
近くで見るとそれなりの高さはあるようだ
1つだけ魔法陣が刻まれた壁があったので、魔法陣の真ん中に手を置いてみる。
魔法陣が突然、光だし地面が揺れた
「うわぁ、なっ、なにっ!?」
『魔力測定。基準値を満たしました、これより対象を内部に転移させます』
無機質な声、足元から光だして視界が真っ白に覆われた
頭の中が掻き回されるかのような感覚に襲われ僕は、意識を失った
戦闘描写はいまだに上手くなりません、なんででしょうか?……バカだからですかね?
楽しんでいただけたら、幸いです




