表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で  作者: 甘栗
31/73

第31話 出発する?

「我とカインは、悠久の時をこの森で過ごしている。

彼の者との然るべき約束事なのでな」


マクシミリアンが、静かに話し出した。

僕は、何も言わずにただ頷いた。


「彼奴は、言った。

『この森の奥で見つけた神殿に、私の所有物を置いてきた。それが誰かの手に渡るまで守護して欲しい』とな」

「所有物? それは、なんなの?」

「分からぬ、神殿とは言うが扉は無かったな。

ワシらは中に入る事は出来なかったの

此奴こやつの攻撃も、ワシの魔法も何故か、壁に傷1つつけれなかったのじゃ」


僕の隣に並び、カインさんが言った

えーと、カインさんは、やっぱり破壊する気しかないんじゃないだろうか?

でも、マクシミリアンの攻撃も通用しなかったって。神殿だっけ?

何か仕掛けがあるんだろうか?


「願いとは、他でもない。

シア、我の新たに知り合った小さき者よ。お前に神殿に行って来てほしいのだ」


僕が?

そりゃ気になるけど、どうすればいいのさ?

そもそも、熟練の冒険者ですら返り討ちに遭うような魔物がいるんだったよね?

武器も無しに行ったら、即死だよ?

でも、マクシミリアンはなんでそんな事を頼むんだろ


腕を組み、考える。何か理由があるはず

そもそも、その神殿は何で、彼の者って誰? わからない、聞いてみるしかない


「ねぇ、マクシミリアン」

「どうした、シア」

「彼の者って誰? どんな人だった?」

「ふむ、自身の名を名乗らずに魔族の端くれとしか言わなかったな。なにせ、気づいたらおったのだ

そして、何処からか、まだ幼きカインを連れてきてこの城を建て住み出したのだ」

「ワシの師匠じゃな。じゃが、ワシも名を尋ねたが、師が亡くなるその瞬間にですら、教えてはもらえなかったの

ただ、今日はシーカ、来週はイレーナとか。その日の気分で名を騙ってはおったな

まあ、魔族という割にはどこか暢気で間抜けておったが」


魔族、か。これまたファンタジーの定番だ

でも、この世界で魔族なんか見たことないな

気づいたら居た、か。なんだかあの少年みたいだ


「魔族の連中は、今は人目を避けてどこかしらに結界を張ってその中で暮らしとるよ。結界の外との交流を拒んでおるな」

「どうして?」

「必要ないそうだ。必要な物は内で満たされておるらしくてな

『異種族だからと、戦争をするのは愚の骨頂』とは向こうの代表者の言葉だったか」


ヒャッハー、魔族以外は皆殺しだーとか世界を我が手にみたいな、世紀末的な発想してるんじゃないかと思ったら案外普通だ。むしろ、マトモだ


「それを僕が手に入れれたらどうするの?」


マクシミリアンもカインさんも、その人に頼まれてここにいるんだから、もし僕が手に入れれたらどうするのか気になって尋ねた


「どうもせぬ、我は変わらずこの地に留まるだけだ」

「ワシもじゃな。とは言え

たまに退屈しのぎに旅はしておるが」

「そっか、分かった。僕、行ってみるよ」

「そうか、感謝する」

「行くのなら、明日にするがよかろう。

一応、森の外では夜になるしな」


夜、だったんだ。マクシミリアンを見上げる

マクシミリアンは、僕を見下ろして無言のままだ

やがて、やれやれと呟いて


「カインの言う通りにするがいい。なに、その間にカインにお前の無くした武器の代わりを用意させよう」

「うん、わかったよ」

「ぬぅ……ワシがか、致し方ないか

シア、部屋はお主が目覚めた部屋で良かろうて」


あの部屋か、落ちる時に見たか限りだと結構高いんだよな

特典は解けたけど、昇るの辛そうだな

出来れば一階の方が楽なんだけど

片手を挙げて、提案してみる


「あの、出来れば一階の方がいいんだけど」

「そうか?」

「暫くは、高いとこには居たくないから」


僕の言葉を聞いて、お互いの顔を見合わして笑い出した

それから、僕は案内された部屋に行くことになった


「一応、この部屋から左に進み、突き当たりの廊下を曲がった所に浴場がある。着替えは……フム、ワシが何とかしよう」


案内された部屋はこじんまりした部屋で、僕が目覚めた部屋と違って落ち着く

えっ、女物の服を用意出来るのかこの人!?


「むっ、どうした?」

「女物の服ですよね?」

「うむ、そうなるの」

「まさか、女装趣味が?」


あ、眉がつり上がった。しばし黙りこんだ

ポン、と手を叩き


「生憎とワシにそんな趣味はない。師匠の趣味で作られた服がどこかしらにあるだけじゃよ」

「その人は女性だったんですか?」

「うむ、性別は女じゃった

先程の偽名で気づかなんだか?

まあ、魔法研究と裁縫しか取り柄がないと言っておったよ

いつも、自分のサイズより小さく作っておったな」

「どうして」

「言うたであろう? 抜けておると、では探してくる」


カインさんが部屋から出ていった


「……みんな、何してんだろう?」


迷惑かけてるし、お願いが終わったら帰れるか相談しよう

帰れたら謝らないといけない

とりあえず、お風呂行こうかな。

でも、まだ着替えないし。下着とか込みで

まあ、いいや。行こっと


だだっ広い廊下に出て、言われた通りの道順で進み、目的地に到着

脱衣室で、脱ごうと服に手を掛けた時だった


「おお、スマヌな。替えの服を見つけ―」


カインさんが、服を持って固まった。

なんだろう? 気まずそうに視線を逸らされる

僕は首を傾げて、見つめる

恐る恐るといった感じに僕に着替えを渡してきた


「……スマヌ」

「何がですか?」

「いや、うむ、年頃の娘の脱衣、ああいや、とにかく悪かったの、さらばっ」


ダッシュでそのまま、いなくなるカインさん

そりゃ、僕は女だけど。まだ、服をお臍辺りまでしか捲ってないんだから、あんなに慌てなくてもよかったのに

流石に下着見られたら叫ぶつもりだった。



広い浴槽に、立ちこめる湯気、これだけでも最高の気分だ

湯船に入る前に、逸る気持ちを抑えて先ずかけ湯して、と


「………ふぅ」


いいんだろうか、こんなにノンビリして

誘拐されて、頼まれ事を聞く事になって

なんか、成り行きに任せっぱなしだな。

自分で考えて動けるようになれ、ってリントさん言ってたな

というか、あの人は僕の父さんみたいにお説教ばっかりだ。僕の事を考えて言ってくれてるのは分かるけど、もっと言い方があるんじゃないだろうか


「帰ったら、謝らないとな」


湯船から出て、髪を洗い

洗い終えてから、身体を洗う

石鹸を使い、あまり力を入れないでゆっくりと洗っていく、最初は出来なくて大変だったなと思い出して苦笑する


「最初は、出来なかった?」


なんでだったっけ、昔は違うのか? 考えても答えは出ない

……っ、わからない。なんだかこのまま考えてはいけない気がする

手早く洗いさっさと出てからは適当に身体を拭いた

用意された衣服に着替えて部屋に走る


部屋に入り、ベッドに潜り込む


「昔と今の僕は、違うのか?」


たぶん、違う。僕は、日本人だし。名前も違う? こんな外国の女の子みたいな顔はしてないはずだ

なら、名前は? わからない。そもそも、自分がどんな顔をしてたのか、どんな名前だったかはあやふやだ

さっきは考えてはいけない気がしたのに、なんで、こんなに気になるんだろうか?

いけない。もう、気にしたら、僕自身の存在が怪しくなってしまう様な感じがする





ぱちぱちと、瞬きをして周りを見回す

夕暮れのオレンジ色が部屋全体に入り込んでいる


「ああ、そうか、あのまま寝たんだ」


ぞくり、と一瞬背筋に寒気がして、両手で自分の身体を抱き締める


「僕は、僕。それだけは確かなハズじゃないか」


だから、保留にしよう

今は、頼まれた事だけに集中するんだ

ふと、枕元に何か袋が置いてあった。ご丁寧に手紙付き

カインさんからだ


『師匠の研究室から掘り出した中で無事だった服を、集めたので詫びの意味を籠めてお主にやろう。追伸、風呂場では本当にすまなかった

カイン』


気にしてないけど、貰えるならいいか

無事ってなんだ?

袋の中から服を取り出して見る


「………なんだ、コレ?」


その服は、巫女服だったり、フリルをこれでもかとあしらった黒のゴスロリドレス(カチューシャ付き)、同じく色違いの白いドレス、メイド服、赤いサマードレス、修道服、チャイナドレス

だった

折角の善意を無下には出来ないけど、これはおかしい

そのどれもが、僕のサイズぴったりというのはどうしたものか

とりあえず、巫女服で。ハハ、サラシまである

巫女服なのは袖とかに仕込めそうだからです



着替え終えて、外に出るとマクシミリアンが空から降りてきた


「シアか、よく寝れたか?」

「ほどほどに、ね」

「そうか、なら良い」

「マクシミリアン?」


マクシミリアンが身体を伏せて、顔を僕に近づけてくる


「終わったら帰ってもいい?」

「無論だ、お前に我の姿を見せる事が済んでおるからな。我らはあの場所で会えるのだ

束縛しはせん」


そっか、帰る事については杞憂だったか。僕は、つい笑ってしまった


「ありがと」

「気にするな」

「うむ、マクシミリアンにシア、おはよう。して、コレが武器じゃな」


カインさんが、こちらに駆け寄り僕に槍を渡してきた


「槍、ですか」

「剣はやたらと馬鹿デカイ剣しかなかったの。短剣にハンマーはなかった。斧と弓はあったがどうする?」

「あー、じゃあこれで行きます」


槍を振ったり、突いてみる。うん、たぶん、大丈夫


「そうか、ならば良いが。くれぐれも『ドッペルゲンガー』には会わぬように」


ちょっ、それは、やめて。何のフラグですかっ!?


「シア、気をつけてな」

「ありがとう、マクシミリアン。行ってきます」


僕は、二人に手を振り森の中に入っていった

フラグ回収はしたくないなぁ

ご意見、ご感想がありましたらお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ