第30話 改めて名乗ろう
また、僕はこの場所にいた。連続でここに来るなんて初めてじゃないだろうか?
といっても、ここに来る方法なんか分からないけど
誰か、教えて。『現実と幻の境界線上にある世界』とか『僕だけの世界』と言われてもよく分からない。
『僕だけの世界』と彼は言ったけど、彼やマクシミリアンも存在できる場所で……あー、もう、分からないっ!?
何か共通点でもあるのかな? うーん、ガランとしてて何もないけど調べるしかないかな?
その時だった、目の前にうっすらと浮かぶ人の形。
「まさか、君が誘拐されるなんてね」
やれやれ、という声が聞こえた
聞き覚えのある声。一発殴ろうと思った名前の無い彼の姿が出てきた
相変わらず口元に微笑みを浮かべている
うん、殴ろう。彼の肩に軽くパンチする。避ける事も無く受けてくれた
「気は済んだかい?」
ぬう、こう言われると、自分が大人なハズなのに幼く見えてしまう。元成人男性として良くない、成人、男性? 僕が、あれそうだったっけ?
まあ、いいや。僕はニッコリ笑って言ってやる事にした
「うん、少しだけ。これで許すよ」
「………ありがとう、やっぱり君は優しいね」
実際には、顔を殴ろうと思ったけどまた容赦ない攻撃を喰らいたくないからやめた
彼は、そんな僕を見てニコニコしている
「いやいや、驚いたよ。まさか、君が誘拐されるなんてね」
「マクシミリアンは、姿を見せるって言ってたからあんな事になるなんて思わなかったよ」
「君の油断が招いた結果だね」
うるさいやい! 楽しそうに腹を抱えて笑うなっ
はぁ、今ってどうなってるんだろうか? マクシミリアンは、あのドラゴンさんなのかな?
ドラゴン、ファンタジーの定番みたいな種族
あ、自分の事を魔物だって言ってたね。そう言えば
みんな、どうしてるんだろ?
「考え事の最中に申し訳ないけど、シア」
「ん、なに?」
「もう、君に会う機会がなくなる」
ああ、そんな事言っていたね。忘れてたや
後、何回なんだろうか?
「あと、1回かな。ボクが君に会う最後の機会は」
「そっか、それは、なんだか寂しいね」
「そう感じてくれて嬉しいよ、さて、残念だが時間切れだ」
世界が暗くなってきた。本当に時間切れか
彼の姿も薄れている
「さあ、行ってらっしゃい」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
う、頭が痛い
視界がボヤけてる。今、何時だろう?
ゆっくりと上体を起こす。体から伝わる感触はなんかふかふかしてる
ふかふか?
はっきりしてきた視線を下に下げる。シーツ? ってコレはベッド? 見上げれば屋根、もとい天涯がついてる。スゴい立派なベッドだな
状態の確認してみるか。服装に変化なし、武器が無くなってるけど
でも、壁はひび割れしてる部分があるけどなんだろね?
ベッドから降りて、近くにあった僕の靴を履いて立ち上がる。窓に近づいて外の景色を確認する
結構、高いな。地面が遠い
あんまり、高い所は得意じゃないんだけど
あと、辺り一面鬱蒼と生い茂る木々の海。そのどれもが朱く染まっている
太陽は見えないけど、夕暮れなんだろうか?
ここは、どこ?
「目が覚めたようじゃな」
後ろから声を掛けられ、ビックリする。今、ビクッてなった。ビクッて
振り向いたら、カインさんがいた。僕を誘拐した犯人だ
なんで、そんなお爺ちゃんみたいなしゃべり方なんだろ?
「カッカッカ、主は軽かったの。ちゃんと食事は摂っておるのか?」
「ちゃんと食べてます!
じゃなくて、あの、ここはどこですか?」
「ん? ワシとクシミリアンの住まう城じゃな。
建てたのは大分昔だがの
ああ、この場所全体という意味ならば『黄昏の森』と答えようか」
『黄昏の森』?
「この森は常に夕暮れのままで、不変。朝だろうが夜だろうがな
一説では、妖精たちの悪戯が原因だとか言われとる」
「妖精の?」
おお、妖精までいるのか。なんか感動した
是非とも会いたい
「ま、真偽のほどはさておいて。ここの魔物は強力じゃよ。熟練の冒険者ですら返り討ちに遭うくらいにの」
うわぁ、つい最近まで勉強かクレープ食べるしかしてない僕が突っ込んで脱出出来なさそう
「代表的なのは、『ドッペルゲンガー』、『ブラッドウルフ』、『レッドスライム』、『ゴブリンロード』じゃな。
『ドッペルゲンガー』は、独りの時を狙ってくるな。その者の姿に化け、殺し血肉を食らう」
「うわぁ。ナニソレコワイ
あの、僕の武器はどうしましたか?」
僕の言葉に、視線を泳がしている
どうしたんだろ?
「すまぬ、王都近辺の湖で落っことした」
「ええっ!?」
「いやー、うっかりうっかり」
「なんて事してるんですかっ!」
頭の上で腕を組み口笛を吹きながらそっぽを向く開き直った顔をするカインさん。信じられない、まさか落っことしたなんて
「僕の、武器が」
「そんなに落ち込む事もなかろうて、ワシに非がある故になんとかしよう」
「………ホントですか?」
「まあ、気長に待つがよいな。さて、マクシミリアンの所に行くかの」
マクシミリアンに会える。武器は仕方ないが、まずは彼に会おう。その後にどうするか決めるんだ
カインさんの言葉に頷いて部屋を出る
天井には蜘蛛の巣、ひび割れた壁に埃まみれのカーペット。なんかいかにもな場所だなぁ
「なんか、所々がひび割れてるけど?」
「気にするな。ワシが最大級の魔法を使っても、地震が来ても崩れんかった。だから安心せい」
「はぁ」
この人、自分の住んでる場所を破壊する気なのか?
長い廊下を進み、見えてきた通路を曲がり、螺旋階段を降りようとして、カインさんが止まった
「どうしました?」
ヤバイ、やな予感がする。この螺旋階段フェンスが無いし微かに一番下の階のフロアが見える
こっちを振り向かないで、確認してくる
「お主、彼奴に速く会いたいか?」
「あ、いえ、ゆっくりと行きたいです」
「そうか、速く会いたいか、よしよし任せい」
言ってないじゃん! 僕は言ってないじゃんよ!?
僕の腰を掴み、持ち上げると手すりに足を乗せて跳んだ。飛んだじゃなくて
「イヤァアアァア!?」
「ハッハッハー、愉快愉快♪」
落ちてる、落ちてるよ。落ちないように僕はもう掴まっているしかない
すれ違う各階層を見て、ゾッとした
嫌だ、死にたくない。こんな事で死にたくないってば
あらんかぎりの悲鳴をあげる僕と爆笑するカインさん
「イヤァアアァア!?」
ドクン、何か音がした。それが何処からした音かは分かってる。僕だ
「ムッ? これは、見たことの無い魔法陣じゃな?
しかも、落下速度が減速しとる」
冗談じゃない、こんな事で死にたくない
浮かび上がる魔法陣、ああ、冗談じゃない
魔法陣から放たれた一筋の光と、降り注いだ光の粒
ゆっくりと、ゆっくりと僕はカインさんから離れて魔法陣に足をつけた
魔法陣は、そのまま、降りていき最下層の床に辿り着き、止まった
「主、これはいったい? その瞳、光っとるが」
「落下はやめてください!」
「む、すまぬ、じゃが最後は風属性の魔法で――」
「―下手したら死んじゃうじゃないですか!?」
「じゃが、普通に行ってもつまらなかろう?」
「普通に行きたいんですよ、僕は!!」
落下のせいで、取り乱し叫ぶ僕にカインさんが引いている
恐かった。ホントに死ぬかと思った
涙が出てくる、うう、恐かった。
「カイン、この光はなんだ? 我の寝床まで出てきたが?」
「お主の知人の魔法? じゃな」
「シアのか?」
その地鳴りのような声に振り返る
大きな体に、大きな翼、手足についた鋭そうな爪。長い尻尾
恐る恐る見上げる、純白の、本当に真っ白なドラゴンがいた
穏やかな瞳に見える、彼がマクシミリアン?
「我がマクシミリアンだ、ようやくお前の願いを叶えれたな」
「……うん、初めまして。マクシミリアン、僕がシアだよ」
「そうか、ならば改めて名乗ろう我がマクシミリアン、この身はドラゴンの一端であり人からすれば魔物と呼ばれるモノだ」
マクシミリアンの言葉からは力強さと温かさを感じて
「シア、今度は我の願いを聞いてはくれぬか?」
僕は、彼の言葉に頷く事しかしなかった
気づけば、30話目に突入しました
関係ないですが、黄昏の森と常夜の森のどっちにしようかで悩みましたが、黄昏の森にしました。
一部、誤字脱字を直しました (4/23)




