第23話 約束と再会
23話目です
『彼』は初めから得体のしれなかった。常に笑ってて、不気味だった
だけど、本当の僕の事を知っている人でもある。
……まあ、僕を女の子にした張本人でもあるけど、って僕は初めから女の子だったっけ? 最近、元の世界にいた頃の自分の事だけがあやふやだ、性別や名前が思い出せない。
不安で仕方なかった僕を宥めてくれたのはありがたかったけどさ、襲ってくるって何事ですかね?
彼は、試すと言って僕を圧倒してきた
あの力は、僕の特典と一緒だったな、もとは彼の能力なんだろうか? 歯が立たなかった
一方的過ぎる
って、あ、思い出したら腹立ってきた。イラッとする
今度会ったら一発殴ろう。それくらい許されるはずだ
それより、夢の中で意識を失うとは如何に……え~と、つまり起きるの? まさか、死ぬの? 現実なら、死んでますね、あの攻撃は。
でも、死んでない。生きてるんだ、良かった
なんか、眩しい。そう感じると、僕の視界が白く染まって――
「――あ、さ?」
ぼやけてる視界、ゆっくりと上体を起こして辺りを見回す。ここは僕の部屋? じゃあ、アレは?
ふぅ、と溜め息を吐く。視界がはっきりしてくると同時に右手が痛む
ゆっくりと右手を見ると、ミリアさんがなぜか椅子に座り僕の手を握りながらウトウトしていた
「なんで、ここに?」
サッパリ分からないけど。彼女の銀髪は、陽の光を浴びてキラキラと反射してて綺麗で
起こさないように気をつけながら、右手をほどけないっ!? なら、このままで、そっと自由な左手を頭に伸ばしてみる。触れてみるとさらさらしていて撫でてみたくなる
「おお、起きない」
妙な感動が湧いた、このまま撫でてみる。髪、さらさらだ
そう言えば優希も銀髪だったっけ、銀髪姉妹。なんちゃって
ん、と小さな声が漏れた。起きた?
「ミリアさん?」
「……兄、さん」
兄さん? 今の僕のどこに男の要素が? 髪なんか腰まで伸びてて
あ、寝言か。僕はそっと左手を引っ込める。その時に、たまたま壁に立て掛けられた鏡の中の自分と目が合った
左目の青い瞳はいつも通り、でも右目―金の瞳―
は淡い光を放っていた
「……え?」
固まる、鏡の中の自分も驚いた表情のまま固まっている
そのまま、固まっていると光はすぅーと消えた
今のは何? 僕は夢の中で特典を使って?
「あら、いけない。寝ちゃうなんて」
特典の副作用か? 今まで僕は自分の使った状態なんか見たことなかった。当然だけど
特典を使うと彼の2つの紅い瞳みたいに輝くなんか知らなかった
「シアちゃん、起きてたのね
夜中にちょっと侵入者がいたの、それで」
その言葉にはっとする、自分の事を知ったくらいで固まっている場合じゃない
「侵入者?」
「ええ、この部屋で眠ってる貴女を見てたわ」
まさか、その侵入者って? まさか――
「――その侵入者は、黒いローブを着て、黒髪に紅い瞳の少年?」
「え、ええ。知ってるの?」
あ、口に出してしまった。マズイな、ミリアさんが驚いてる
夢であったなんて、言えないし。なんと言おう?
「あー、その、昔。そう昔知り合って、それっきりでして、詳しくは」
「そうなの? だとしたら、なんでここがわかったのかしら?」
「………分かりません、あの少年は自分の事を言わないから。ただ、顔見知りではあります
それで、あの少年はどうしましたか?」
「あ、リントが攻撃しても通用しなかったわね。それで急に消えたんだけど」
信じては貰えないだろうけど、こうとしか言えない
リントさんの攻撃が通用しないって
消えた、か。彼はメガリスに来れるんだ、ならなんで夢で会うんだろ? わからぬ、分からぬです
「伝言を預かってる、『シア、すまなかった』、だそうだ」
ドアが開き中に入ってきてリントさんが、開口一番にそう言う
僕のとこまで来ると、軽くデコピンしてきた。痛いです
すまなかった、ね。だったら、やらんで欲しいな
「まったく、心配させるな。今度会ったら殴らせてくれ」
「ごめんなさい、でも、殴らせろは僕も同意です」
苦笑する、まさか同じ事を考えてたなんて思わなかった
リントさんも笑ってるし
「心配したわ、シアちゃん
どこか異常はない?」
ミリアさんの言葉に僕は、ベッドから出て立ち上がり、自分の身体を見える範囲で見てみるけど特になし
「なんもないです、あ、お腹空きました」
「そう、じゃあ着替えてから朝食ね」
やれやれと肩を竦めてリントさんが、部屋から出ていく、それにしても続こうとするミリアさんを引き留める
「ミリアさん」
「どうしたの?」
好奇心を抑えられずに顔がにやつく、そんな様子を不思議そうにしている
「『兄さん』って誰ですか?」
「ええっ!?やだ、私、そんな事言った!?」
珍しくミリアさんが慌ててる、普段は僕が慌てさせられてるから新鮮だ
「はい、僕が起きた時にちょうど」
「や、あのね、それは」
モゴモゴと言いにくそうに口ごもらせてる、そんなにからかってないんだけど
「ミリアさん、えーと、落ち着いて」
「あ、う。すーはー
うう、恥ずかしいわね。まったく」
「お兄さんがいるんですか?」
「ええ、いるわ。どうしょうもない位のお人好しで、よく幼かった私の頭を撫でてくる人。だけど、嫌いじゃなかったわ。どう頑張っても敵わない憧れよ」
そう話してくれたミリアさんの表情はどこか照れたようだけど笑顔だった。普段の落ち着いた様子とも、あの暴走した状態とも違ってて
「そうですか、いつか会ってみたいです」
「そうね、私もいつか紹介したいわ」
「約束ですよ?」
「ええ、いいわよ」
そう言って、にっこりと笑うミリアさんはなんだか可愛らしかった。言ったら慌てそうだから言わないけど
でも、その笑顔を見てたら僕も笑っていた
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服に着替えて―今日は袖無しブラウスに紅いリボンタイが胸元に付いた物に、ピンクの膝までの長さのスカートに、ソックスとローファーを履いている― 朝食を済ましてから、どうしようか考え中
リントさんとミリアさんは、依頼を受けてるからと言って出掛けていった
マーカスさんは、自室で読書していた。夜中の事を聞いたら、「お酒飲んで寝たから、知らなかった」と返された
デイビットさんにも尋ねようと思ったが、出掛けてて居なかった。
することが浮かばなかったので、出かける事にする
大通りを僕は宛てもなく歩いて、露店を覗いてみたりする、僕がここに来て、もうすぐ一ヶ月が過ぎるのかな?
色々あったなー、もうすぐ衣替えがどうとかミリアさんが言ってたな
あれ? 今、何月だっけ? えーと、ミリアさんから習ったけど忘れてしまった
いま、暖かいから春か初夏? あ、気候は温暖なところでとかマーカスさん言ってた気がする
じゃあ、何月かだけ聞けばいいや
「………え?」
広場に着き、立ち止まった。何もおかしな事は無いはずなのに、僕はベンチに腰かける人物を見つけて立ち止まった
覚えてる、あの人を。あの武器も持たずに歩いていた男性だ
あの人は、確かにこの町への道を聞いてきた。だけど、魔物と遭遇せずに1人でここまで来たのか?
男性の近くまで歩くと、こちらに気づいたようで不敵な笑みを浮かべてくる
嫌な感じがする、この感じが何か分からず顔が険しくなる
そんな僕を気にも留めず、彼はこう言った
「おや、あの時のお嬢さん。久しぶりだね
どうかな、少し話をしないか?」
※本当は、一ヶ月も経ってないハズです。
私のミスです、ハイ、訂正せずにシアがそれくらい居ると感じてるという事にさせてください




