第22話 夜中の来客
突然の轟音に、目が覚めた。
ベッドから、飛び起きて周囲を見回してみると部屋中に淡い光を放つ粒がかなり宙を浮いている
「この光は、いったい?」
窓から外を覗いてみるが、まだ外は暗いが誰かがいる気配もなさそうだ。魔法使いによる襲撃だと思ったが違うらしいな
だとしたら、誰が? いや、仲間内に一人いるか。
シアか、確か例の魔物の討伐の際にこの光が出現していた。団長も、依頼に連れて行ったところ、目の前で『この光』をシアが起こすのを見たらしい
何かあったのか? それにしては静かだが?
他のメンバーは、どうしてるかわからないが、まずは彼女の部屋に行く。最低限の暗器を持って部屋から出る
「……ここも、か」
廊下にも光は漂っていた。この光、いったいなんなんだ? 辺りを警戒しながら進む。暗がりから誰かが近づいてくるのが見える
目を凝らして、人影をじっと観察する。その近づいてくる姿を見て、思わず安堵する
「リントっ!!」
「ミリア」
寝巻きにピンクのカーディガンを羽織っただけの状態のミリアだ
「ミリア、何かあったのか?」
「私にもサッパリよ。すごい音がしたから部屋から飛び出したの」
「私も似たようなモノだが、団長たちは?」
先程の轟音だ、さすがに起きてはいるはずだが
また、轟音がした。シアの部屋からか
やはり、合流はしないで向かおう、私はミリアと顔を見合わせシアの部屋を指差す
ミリアは、指差す方向を確認すると不安げな表情をしながらも頷いた
「あの子、大丈夫かしら?」
「それを今から確認するんだ」
「……ええ、わかってる」
それから、何か起こることもなくシアの部屋の前に着いた、ドアの微かな隙間から青い光が漏れている
私は、思いきりドアを蹴破り中に入った
後ろから、ミリアの非難の声がするが気にもならなかった
シアは、ベッドで眠っているようだ。しかし、そのベッドの下には魔法陣がある
後、彼女の前に立っている黒いローブを着た人物がいる
「おや、随分と速い到着だ。君達が来る前には出ていくつもりだったが」
ローブの人物の声か、声から察するにまだ若い少年のようだが。
振り返るその人物の顔だけは、はっきり見えた。黒い髪と紅く光る瞳、笑みを浮かべる小さな口――まだ、見た目通りなら少年といったところか
全体的に人形のように整った顔をしていて、不気味だ
「お前は誰だ?」
「さあ? 誰だろうね。実はボクにも分からないんだ」
「ふざけているの?」
「まさか。こちらは事実を言っただけだ」
微笑を浮かべながら、首を傾げてみせる
「お前の目的はなんだ? これはお前が原因か?」
笑みを消し、満足げに瞳を細める。たったそれだけなのに言い様のない恐怖がくる
ミリアは、口を閉ざし相手を睨んでいる
「目的は果たした、安心していいよ。夢ではやったが現実の彼女には何もしていない、この魔法陣などに関してなら切っ掛けはボクだ」
私は持ってきたダガーを眉間目掛けて投げるも何かに当たり弾かれた
防御魔法か? いや、だが、あの少年は何も詠唱はしていないはずだ
「ボクに対して怒りで攻撃する、か
いい仲間に巡り会えたらしいね、良かった」
良かった? シアの方をちらりと見て優しく笑う
なんだ、こいつは
シアと何か関係があるのか?
「貴方、その子に何かしたんなら許さないわよ」
「招かれざる客は退散しよう、ボクの目的はとうの昔に済んでいるよ。
気紛れの様子見に来てちょっかいを出しただけでね」
私は、素早く距離をつめて拳を振るうが少年の身体を通り抜けてシアが眠るベッドの前まで来てしまった
「身勝手な話だけれど『すまなかった』、と伝えてほしい
ムリなら仕方ない、諦めるけど」
「考えてはおく」
「ありがとう、リント・ウィンドベル。それにミリア・ハーネス」
なぜ、私たちの名前を知っている!?
驚く私たちの前で、体がうっすらと透けだし消えた
慌て、ミリアが少年の立っていた場所に立つも首を横に振った
「……アイツはいったい?」
「わからないわ、何も感じなかった」
「そうか、わかった」
謎だな、シアに関係あるのは確かのようだが
シアが聞けば、答えるとは思えないな
だが、どうしたものか
「……と…う、さん?」
うっすらと目を開けて、私に手を伸ばしてくる
またか、まったく。そんなに君の父親と私は似てるのか?
ミリアは、ツボに入ったのか笑いを堪えている
その間に、シアが私の服の裾を掴んだ
「……ごめん、ね。いなくなって」
『ごめんなさい、リント』
『すまない、リント』
もういないはずの彼女と、会うつもりのない親友の言葉が重なってしまい、言葉が出なかった
私、は、わたしはゆっくりと彼女の暖かな手を握る。彼女は安心したのか目蓋を閉じた
私は、ゆっくりと片膝をつき
「いいんだ、お前は悪くない。悪くなんかないからな」
「……リント?」
ミリアの声にはっと我に帰る
「用心は必要だ。見ていてやらないといけない。頼んでいいか?」
「…そう。わかったわ」
「助かる、部屋の前にいるから何かあったら言ってくれ」
私はそれだけ伝えて、さっさと部屋から出ていき、ドアを閉めるとしゃがみこんだ
先程のシアの表情がちらつく、泣きそうな申し訳なさそうな表情が
何か起きればいい、そうすれば忘れられる、私はそう願いながら朝を待った




