第20話 3人で仕事
朝、僕は寝癖を直してから、白いブラウスを着て黒いネクタイを緩く締め、赤いミニスカに着替え、白いソックスでローファーを履いて鏡の前に立った
なんか、今の僕の格好って学生みたいだ。何となく一回転して、にこりと笑ってみる。 髪が後から同じように動き広がっていく、スカートはふわりと広がる、チラリと白の下着が見えた。
パ!?……恥ずかしすぎてその場に座りこみ、床を何回も叩いた
「ハハ、ナニヤッテンダ、ボクハ?」
顔が羞恥心で赤い、さっさと部屋を出てリビングに向かおうと立ち上がるとドアが開いた。
ぎこちない動きで、振り向くとリントさんが部屋に入ってきていた
「ほお、起きてたか、ん? どうした、顔が赤いぞ?」
「や、アハハ、何でもないですよ。何でもないですとも、着替えてから鏡の前で一回転とかしてませんよー。ホント……あっ」
やっちゃった。やっちゃったよ、自爆してしまった、恥ずかしいな、もう
リントさんは「そうか、まあ、朝食の準備が済んだから来い」とだけ言うと出ていった。
穴があったら入りたい、無いなら掘ろうか? いや、それよりも。それよりもだ、リントさんの無表情にへこんだ
なんか、可哀想なモノを見る目だったし
「……ハァ、行こう」
リビングで誰とも会話せずに朝食を済ましてから、僕は食器を片付けてから、リントさんに依頼について尋ねる
詳細は明日になったら、と言ってた訳だし
「今日の依頼は、なんなんですか?」
「ん? ああ、護衛だよ」
へえ……護衛か。そうかー、護衛か、って護衛!?
「誰の!?」
「町長」
町長!? 護衛なんか、いらないくらい強いですよ、あの人!?
なんでまた、護衛なんかいるんだ。僕が知らなかっただけで、命を狙われてたりするんだろうか? でも、あの人ならどんな相手でも簡単に撃退出来るような気がするんだけど
「まあ、目的地に着くまでの間の護衛よ。予定は半日で仕事の関係で少し遠い所にある町に向かうらしいから、一応ね
町に着いたら、そこで私達の依頼は終了
報酬を受け取ったら、帰るも残るもよしだって」
後ろから僕の肩に手を置いて、ミリアさんが教えてくれた。振り向くとスーツ姿、リントさんは、いつもだけど
そっか、半日なんだ。護衛は初めてだけどがんばろう、胸の前でグッと握りこぶしを作る。
せっかくリントさんが誘ってくれたんだから。それに、チラリと2人を見る、この2人と一緒ってなんだか旅団に入るまでのメンツだし
そう思うと、自然と笑みが浮かぶ。ワクワクする
「あら、どうしたの?」
「僕が旅団に入る前を思い出して、つい、嬉しくって」
「なるほど、そう言われればそうね。じゃあ、3人で頑張りましょ?」
「ああ、そうだな」
リントさんはやれやれといった感じに応え、ミリアさんが肩を軽く叩いた
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僕らが、門の前に着くと町長さんが1人でいて、空を眺めていたが、僕らに気づくと笑顔を浮かべて近づいてきた
「やあ、君達。時間通りだな、準備はいいかい?」
「特に問題はありません」
「では……行こうか」
町を出て、町長さんの右隣に並ぶ。左隣をミリアさんが、少し離れて後ろにリントさんが歩いている。
「シア君」
突然、声を掛けられてびっくりしたけど、町長さんの方を向く。僕を真っ直ぐに見てくる、あの鋭い眼差しで、怯みそうになるのを堪える
「なんですか?」
「私の事は、アルフと呼びたまえ。前に私の事を『町長さん』と呼んだね? それは他人行儀な気がしてね、せっかくの機会だ、君達には名前で呼んで欲しいな」
「……はい? えーと、まさか。それだけですか?」
「もちろん、不服かね?」
じろりと一睨みされた、何も言わずに僕は首を左右に振る
「なら、けっこうだとも
町には夕方には着くはずだ、何事もなければだかね」
ニィィ、と口だけが笑みの形を取る。何か起こる事を期待したかのような獰猛な感じの笑み、なんでそんな風に笑えるんだろう? 何か起こるよりは、起きない方が良いはずなのに
恐い、なんだか恐いなアルフさん、僕に「冗談だよ」と言って笑ってみせたが寒気がした
「冗談は程ほどにしてください、アルフさん」
「おや、すまない。シア君があまりにもいい反応するからね」
後ろからリントさんがたしなめてくれた、それに対して愉快そうに笑う、こっそりと溜め息を吐いた
「シア君、幸せが逃げるぞ?」
「ご、ごめんなさい、アルフさん」
「町長がからかうからじゃないかしら?」
「おっと、これは失礼した」
それから、しばらく問題はなかった
リントさんが用意した昼食を食べてる間も、何かが起こる事もなかった
ミリアさんが地図で確認したところ、目的地まではあと半分だそうだ
あと半分か、気を抜かないでいかないと
「おや? お客さんか」
アルフさんは、そう呟くと立ち上がる。僕も立って、視線の方を見てみる。
遠いけど、人影が見えた。目を凝らして見ると1人でこっちに来てるようだ、僕らは街道を真っ直ぐ歩いてたから誰かと出くわすのは当たり前で
でも、警戒はしないと
こっちに来る人の姿が、はっきり見えてきた
その人は、パッと身は30代くらいで長身で黒髪、顔立ちは整ってるけど黒い長袖のワイシャツに首に十字架のネックレス、青のジーパンにスニーカーという出で立ちで武器が見えないし、外を歩くには無防備すぎる。……上手く言えないけど不気味な感じがする人だ
「やあ、少し聞きたい事がいいかな?」
「なにかしら?」
「アスビスは、このまま真っ直ぐであってるかい?」
「ええ、このまま道を真っ直ぐに行けば着くわよ」
それだけを聞くと、男は歩いていく。去り際にチラッとリントさんを見てから、何か呟いていた
なんだったんだろ? リントさんを見ると怪訝な表情をしている。ミリアさんが肩を揺すると「進もうか」と言って歩き出した
アルフさんもそれに続いていく、僕はリントさんの横についた
「なんだか、得体の知れない奴だったな」
「えっ、はい。そうですね」
「さて、あと半分だ。油断はするな」
「はい!」
僕は、来た道を振り返る。あの男は見えなかった
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目的の町『イクス』には、あの男と出会って1時間後に着いた。アルフさんから報酬を受け取る
「何はともあれ、問題なく着いた。さて、私はこれから1週間は滞在する、帰りは誰かしらに任すから安心したまえ」
「わかりました、では、自分たちはこれで」
「うむ、道中に気をつけて」
アルフさんは、片手を挙げると町の中に入っていった
「戻るか」
「ええ、行きましょ」
「シア」
「なんですか?」
リントさんが、微笑みながら僕の頭を撫でる
なんだろうと、首を傾げる
「お疲れ」
「あ、はい、お二人もお疲れさまです」
僕らが、拠点に帰ってきた頃にはもう夜になっていた。
何もやってないハズなのに酷く疲れた
その後、夜ご飯を食べてお風呂に入ってから自室のベッドに腰かけて窓から星を眺めている
今日は、アルフさんの一面を見た気がする
ひょっとしたら、からかわれたのかもしれないけど、演技にしてはやりすぎだと思う
気のせいだ、と思いたい。リントさんに言われた『お疲れ』は素直に嬉しかった
ベッドに潜り込み、目を閉じると眠気がやって来る
そうだ、また今度も3人でやりたいなと思いながら眠りに落ちた
一部、追記・修正しました(1/9)




